「時間がない」「余裕がない」と叫んでいる人は世の中に溢れかえっています。
そういった人のほとんどが「夜8時過ぎてから仕事の相談や依頼がきた」「土日も仕事の予定が入っている」といった状況に陥っています。
実はそこから抜け出すことは難しいことではありません。「線引きの力」を利用して「壁を作る」だけであなたに時間とエネルギーの余裕が生まれます。
「線引きの力」や「壁を作る」と言われてピンと来る人はほとんどいません。
ここでは、絶大な力を持つこの2つの力について解説しています。
「線引き」にはとても大きな力があります。
ハーバードビジネススクールの教授で名著「イノベーションのジレンマ」の著者でもあるクレイトン・クリステンセンは、当時経営コンサルティングの会社に勤めていました。
あるとき上司に「土曜日に仕事を手伝って欲しい」と依頼されました。
そこクリステンセンはあっさりと「すみません。毎週土曜日は妻と子供と過ごすことにしているんです」と答えました。
上司は腹を立てて立ち去り、しばらくして戻ってきて次のように言いました。
「チームメンバー全員と話をつけて、土曜日のかわりに日曜日に集まることにしたよ。日曜日は出られるだろう?」
クリステンセンはため息をついて「調整してくれたのはありがたいですが、あいにく日曜日は都合が悪いです。毎週日曜日は神様のために使うと決めているので」と伝えました。
上司はその瞬間はとても不機嫌な顔をしたものの、やがて「この人は、土日は予定があって仕事は受けない」というライフスタイルを受け入れました。
なお、クリステンセンは平日の仕事をしっかりとこなして成果を出していたので評価が下がることは一度もありませんでした。
世界的なベストセラー「エッセンシャル思考」の著者である グレッグ・マキューンは、ある時仕事で性格が真逆の人とペアを組みました。
周りの人は言い争いやケンカになるとヒヤヒヤして見ていました。
ですが、2人は最初に「お互いの線引きをし、侵害しない契約を結びました」しました。
お互いが「私が目指しているのは〇〇で、△△を重要だと思っている」というこれは譲れないという線引きをしたことで、最後まで気持ちよく仕事をすることができ、最高の成果を生み出しました。
お互いの「目指すもの」と「譲れないもの」という明確な線引きをすれば、相手に間違ったことを期待しなくて済むようになります。
相手が嫌がる要求を未然に防ぐことができ、相手が重要だと考えていることの邪魔をして期限を損ねることもありません。
「ここからここは他の予定があります」と言って「線引き」すると嫌われると考えている人がいますが、ほとんどの場合で嫌われることはありません。
なぜらな「予定があります」と言うことは悪いことではないからです。むしろ悪いのは他の予定があるところに被せる人です。
「毎週土曜日は家族と過ごすと決めています」「毎週日曜日は1週間を振り返り翌週への準備をすると決めています」と言う人を嫌いになるでしょうか?
「そうか。先約があったか。なら仕方ない」となるのが普通です。
それは上司だけが持つ反応ではありません。あなたも含め同じ反応をします。
あなたが誰かに「来週の日曜日、家具の運び出しを手伝ってくれませんか?」と聞いたときに相手が「すみません。日曜日は家族と出かける予定があるんです」と言ったら、あなたは怒るでしょうか?「そんなのどうでもいいから手伝ってよ」と言うでしょうか?
そんなことはないはずです。「そうかー」と納得し受け入れるはずです。
もちろん断られた瞬間は残念な気持ちにはなりますが、相手を嫌いになったり評価を下げることはないはずです。
線引きをしたら嫌われた。文句を言われたということがあるかもしれません。
その場合は、その人との関係性を見つめ直す必要があります。
例えば、あなたが「土曜日は〇〇があるんです」と伝えたときに、「そんなのどうでもいいからこれやっといて」と言う人は、あなたのことを全く尊重していません。
その人が尊重しているのはあなたではなく仕事です。あなたは雑巾のような道具の位置づけでしかありません。
そのような思考の人と関わっている限り、あなたは永遠にプライベートの時間を奪われて行きます。なぜなら相手は「それが当然。悪いことではない」と思い込んでいるからです。
そういった人とこそ明確に線引きをすることが大切になります。
この世の中はすべてトレードオフの関係にあります。「何かを受け入れる」ということは「何かを失う」ということです。
あなたが「その人との関係とプライベートを仕事にあてる」という選択をすれば、「プライベートの時間や家族との時間、体力、休む時間」を失います。
あなたは自分にとって何が大切かを考えて選び取る必要があります。
断るというと「できません」「無理です」と直接的に言わなければいけないと考えている人がいます。
ですが「できません」「無理です」ときっぱりと言うのは、相手を遮断する言葉であり心理的ハードルが高いことでもあります。
そういった人に朗報ですが、実は断る時にきっぱりと断る必要はありません。「できません」「無理です」を言わずとも簡単に相手を納得させることができます。
特に、上手に断る人は相手に配慮するので、そういった言葉を使いません。
先ほどのクリステンセンの断り方は次のようになっています。
「すみません。毎週土曜日は妻と子供と過ごすことにしているんです」
「調整してくれたのはありがたいですが、あいにく日曜日は都合が悪いです。毎週日曜日は神様のために使うと決めているので」
相手への配慮として「すみません」「あいにく」「ありがたいですが」という枕詞をつけて、どちらも「無理」「できない」ではなく「~なんです」という理由を述べているだけです。
これだけで相手の要求を上手に断ることができます。
上手に断り自分の時間や労力を消耗しないためには、「余計な一言を付け加えない」ことも大切です。
線引きなどせずに仕事の依頼やプライベートの誘いすべて受けた方がいいと考えている人がいます。
ですが、実はこういった思考こそが時間と体力を奪いとり、たいした成功もできず、幸せになれない原因になっています。
現実は自分に与えられた時間、体力、集中力、判断力はどれも有限です。こういった思考をしている人はその現実を受け入れることができていない人たちです。
そして、たくさんの仕事や誘いを引き受けて、集中力を使い果たし生産性が落ちます。眠って回復する時間を十分に持つことができず、仕事と人生の質がズルズルと低下していきます。
そして「忙しい!」「こんなにやっているのになんで成果が出ないんだ!」「あとどれだけやれば幸せになれるんだ!」と叫びます。
もちろんすべてを遮断することがいいわけではありません。自分の能力に合わせて力を100%発揮し、翌日に100%回復できる線引きをすることが大切です。
仕事ができる人は自分に合った適切な線引きしています。
例えば、「土日は仕事はしない」その代わり、しっかりと体と思考を回復し平日の仕事で他の人たち以上に生産性の高い仕事をしています。
線引きすることは自分のライフスタイルを確立する大きな力を持っています。
ですが悲しいことに多くの人が自分自身の線を明確に答えることができません。
どこかに「これ以上やったらやりすぎ」の線があるであろうことはわかるのですが、それがどこかわからず、言葉でできない状態です。
もちろん自分ですらわからないので、周りの人に対して線引きすることはできません。
自分の線を見つける方法は「邪魔された」と感じたことを思い出すことです。
「いつも足を引っ張られると感じていること」や「この誘いはさすがにやりたくないと思ったこと」「イラっとしたこと」を考え書き出していきます。
例えば、
などです。
これらが自分の線を明確にするためのヒントです。それを眺めながら、「いつ、どうして受けられないか」を明確にします。
それがあなたの線です。
上記の書き出した例だと線引きは次のようになります。
「始業開始前の10時以前はプライベートと仕事の準備をする時間にしています。」
「夜19時以降は大切な家族と過ごす時間にしています」
「体質的にお酒に弱く医者に止められています。」
これを周知すれば、周りは「10時前にミーティングは入れてはいけない」「19時以降はメールやチャットを見ない」「飲み会は参加できない」と自然に受け入れます。
「線引き」は大きな力を持っています。ですが「線」では弱すぎます。
一度誰かが線を越えてしまうと、線が曖昧になり、やがて線が消えて見えなくなってしまいます。
校庭に白い粉で引かれた線と同じです。誰かが少しその線に乗ると線は砂で少しかすれます。そして他の人たちが線の近くを歩くたびにどんどんと薄れて最後にはほとんど見えなくなってしまいます。
誰かが線の上で転んだり、意図的に線を足でぐりぐりすれば線はなくなります。
線がよく見えなければ、当然、他の人は中に入ってきます。
一度でも例外を許したら、その後は例外だらけになる。
クレイトン・クリステンセン
壁が自由を生み出すことは、交通量の多い道路に面した学校の校庭を思い浮かべるとわかりやすくなります。
道路と校庭の間に線しかなく壁がなければ、子供たちは校庭を自由に使うことはできません。
危ないので先生たちの目が届く校舎の周りしか行ってはいけないと制限されます。
この場合、生徒の自由も奪われ、先生の時間も奪われます。
道路と校庭の間になんとかよじ登ることができる壁があったらどうでしょう?何もないよりはだいぶ安全ですが、まだ安心ではありません。
生徒は自由に動き回ることができますが、100人の生徒がいたら毎年2人ぐらいはアクシデントに見舞われます。
先生たちはヒヤヒヤしたり、イレギュラーを起こした生徒の対応に追われます。
あまりにアクシデントが多いと結局は行動を制限せざるを得ません。
では、道路と校庭の間に高い壁を築いたらどうでしょう?
生徒たちは校庭を自由に走り回ることができます。先生も監視する必要がなくなります。双方に時間と自由が生まれます。
乗り越えられないように上の方に内側に傾いたフェンス(返し)がついていたらより安全です。
最後に、仕事ができる人とできない人の思考の違いをまとめると次のようになります。
仕事ができる人 | できない人 |
---|---|
線引きが自由と時間を生み出す | 線引きは窮屈 |
線引きすることで本当の実力を発揮できる | 線引きは自分の力を制限する |
断らなくてもいいように、あらかじめ線引きしておく | 毎回断ることに苦労する |
自分の中の線を明確にし、他人が絶対に越えられない頑丈で工夫された壁を立てれば、あなたは時間やエネルギーを奪い取られずにすみます。
残った時間とエネルギーをあなたの人生を充実させる、もっと価値のあることにつぎ込むことができます。
適切で頑丈な壁を築いて、あなたの人生がより良き方向に向かうことを心より願っています。
この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。
世界的ベストセラーになったこの本には他にも人生を成功と幸せに導く格言がたくさん載っています。
興味を持たれた方は是非実際に手に取ってみることをお勧めします。