ウルグアイの元大統領 ホセ・ムヒカは世界一貧しい大統領という呼び名や「貧乏とは、欲が多すぎて満足できない人のこと」「私は、持っているもので贅沢に暮らすことができる」といった格言で知られています。
「たくさんあればあるほどいい」「全部やりたい」考える人が世の中の大多数を占める中で、ホセ・ムヒカは真逆の考え方をしています。
ここでは、ホセ・ムヒカがどういう人生を送ってきたのか?という生い立ちを簡単にたどることで、彼の思想の神髄に迫っています。
ホセ・ムヒカは本の表紙やメディアの写真など、丸っこい体形でかわいらしい笑顔で知られています。
ですが、それはメディア向けの笑顔ではり、裏には私たちが想像できないほどの壮絶な体験を持っています。
ホセ・ムヒカが生まれたのは第2次世界大戦前の1935年の南米ウルグアイでした。
当時のウルグアイは1914年に始まった第一次世界大戦や、1939年から始まった第2次世界大戦、1948年に始まった朝鮮戦争などの特需景気によって潤っていました。
牧畜を主要産業としているウルグアイは、戦争をしている国々が戦争で衣類や食料需給が充分にできない中、牛肉や加工品、衣類の原料を大量に供給していました。
ところが戦争が終わり、化学繊維が発明され世に広まったことや国際競争力が弱かったことにより、経済は停滞し、自国の通貨の価値が下がり物価が上昇するインフレが起こりました。
ホセ・ムヒカの家は農家でしたが父は1940年に破産しました。そして、その直後亡くなっています。ホセ・ムヒカがまだ5歳の頃です。
家業が破産し、父親が死去、所得格差や失業者が増え、社会に混乱と怒りが広がる中でホセ・ムヒカは育ちました。
高校を卒業後は法律を学ぶために地元の大学に通いました。
ですが、政治に興味を覚え、大学を中退し労務大臣のサポートをする形で、政治活動に携わるようになりました。
戦争特需が終わりウルグアイは混乱と貧困へと突き進んでいきました。
ホセ・ムヒカは当時のことを次のように語っています。
とても美しく高いところから見ていた世界を見ていた現実が崩れ落ちた。
高いところから落ちるのが一番痛い。
もともと下にいるのに慣れている人は諦められますが、上に行ってしまったら落ちると痛い。
貧困へと向かうウルグアイでは労働者の自由が制限されていました。
これに反発した人たちが集まって社会を変えようとゲリラを結成していました。(民族解放のための革命運動)
ホセ・ムヒカも自由を手に入れるためそのゲリラに参加しました。大学を中退し政治に関りだした後のことです。
ホセ・ムヒカは「格差のない社会と自由」を強烈に求めていました。
ゲリラは政府機関や銀行、外国企業を襲ったり、重要人物の誘拐や暗殺を行いました。
過激ではあったものの、銀行や配達トラックを襲って奪った食べ物やお金を大衆に配っていたため、大衆からは広く支持されていました。
そんな中、ホセ・ムヒカは治安組織に捕まり収容所に収監されました。そのときは、仲間とともに地下にトンネルを掘って脱獄しました。
その後も3回捕まっています。
最後に捕まった時は、警察と銃撃戦になり、ホセ・ムヒカは2人の警察官を撃ちました。しかし、自身も6発の弾丸を受けて大量出血し、軍の病院に運ばれることになりました。
そこからホセ・ムヒカは13年間獄中に監禁されることになります。
私たちが過ごす中学から高校までの長いと感じる期間が3年間です。その4回以上の長さを獄中で過ごしたということです。
井戸の底にある狭い独房(2 x 1.4m)に閉じ込められ、拷問を受け、食事も十分に与えられない生活が何年間も続きます。
水分が充分に与えられないため、自分のおしっこを水筒に入れて上澄みを飲んで命をつないでいました。
7年間の間、本にも触れることができませんでした。
この時のことをホセ・ムヒカは次のように言っています。
自分の奥底と対話をし、頭がおかしくならないように闘っていました。
獄中生活の中、激しい拷問により何度の死の淵をさ迷いましたが、
死ぬと思ったことはない。死にたいと思ったこともない。
と語っています。
ホセ・ムヒカを支えていた思想は「闘っている限り負けていない」「人間は強い」「悪いことのあとには良いことがくる」でした。
敗北者とは、闘いを辞めた人のこと。人間は強い生き物であり、多くのことを乗り越えられる。
悪いことは良いことを運んでくる。
7年後に本を読むことが許可され、物理や化学の本が与えられるようになったとき、貪るように本を読みました。
本から学んだことや、独房での長い生活の中でホセ・ムヒカは自分の中の変化に気付いていきます。
これまでを振り返り、富の無益さや、暴力の無意味を反省し、考えを改めることもあった。
これまでの考え方を改めたり、
長年、私は刑務所の床で眠った。だから、マット1枚与えられただけで、その夜は幸せな気持ちになった。
小さなことに感謝できるようになったという変化です。
そのことをホセ・ムヒカは次のように語っています。
私は、何もない中で生き残った。それで、人生において限度を知り、どんな小さなことにもありがたみを持つようになった。
ウルグアイは軍事政権の支配下におかれていたものの、軍部の極度の監視や弾圧に市民が反発し、ホセ・ムヒカが収監されて12年後に民主主義が力を取り戻します。
そして1985年ホセ・ムヒカは釈放されました。13年間という、あまりに長い収容期間でした。
釈放後のホセ・ムヒカは明確な目標を持って進みます。
私の目標は、ウルグアイ国内の不公平をちょっぴり減らすこと。
もっとも弱い人々を助けること。
ひとつの政治的な考え方や、前進するのに役立つような未来への視線の在り方を残すこと。
なお、収容されているときに様々な拷問や非人道的な扱いを強いられたことに対して次のように語っています。
憎悪には少しの意味もない。憎悪は毒です。誰も払わない負債を負うために人生を送ることはできない。
それは人生とは言わない。明日に向かうのが人生です。
憎しみは毒で、憎しみを持っている人は人生を歩めていない。「憎んでいない」というより「憎む」「憎まない」という判断すらしていない。
そんなことよりも明日に向かうための「今」を生きるために全力を注ぐことがホセ・ムヒカの生き方です。
ホセ・ムヒカがゲリラに参加したときも、13年間ものあまりに長くあまりに厳しい監獄生活をしている間も、釈放された後も、ホセ・ムヒカが追い求めている目標はいつも一つです。
「自由を手に入れること」これだけです。
ゲリラに参加したとときの思いは「格差のない社会と自由を夢見て」でした。
収監されているときは「必ず自由になる日が来ると信じていた」です。
釈放されてから願ったのは「弱い立場にいる人が自由になること」です。
我々の世代は世界を変えようとした。格差をなくすために闘い、潰され、砕かれた。
でも私は、まだ夢を見ている。
ホセ・ムヒカがこれほどまでに強く追い求め続けている「自由」とは何か?それは彼の言葉で語られています。
自分の時間を好きなことに使っているときが、本当に自由なとき。
もので溢れることではなく、時間で溢れることこそ自由。
自分と家族の物質的な欲求を満たすために働く時間は自由ではない。
ホセ・ムヒカは自分が「落ち着き」「心から楽しい」と思える時間こそが自由だと定義しています。
「もっと欲しい」と言って忙しくすることは自由ではありません。
ホセ・ムヒカは「自由」をもとめて闘い続け、「自由」な生き方をしています。
その根底にあるのはいつも「自由」のための闘いです。闘うことなしに自由を得られることはないと語っています。
私は自分の信念を持って政治を運営します。
たとえ正しいことであろうと、間違いであろうと批判したければすればいい。
それが自由ということだから。
私の人生は常に批判を受け続けてきた。
質素は自由のための戦い。
最後にホセ・ムヒカからこれからを生きる人たちに向けた熱いメッセージを送ります。
人生とは、刻一刻とあなたから逃げていきます。でも、足りないからと言ってスーパーで人生を買うことはできません。
人生に中身を与えてください。あなたは自分の人生の方向性をある程度決められます。自分の人生の道を切り拓いていけます。
マーケットで消費するために自分の命を売り、必要でないものを買いあさり、ローンを支払いながら人生を過ごしていたら、あっという間に私のような老人になってしまいます。
壁にぶち当たったとき、この世界のことがより良くわかります。
あなたに夢があり、その夢のために闘い、希望を残ったものに伝えようとしたのならば、あなたの気持ちは、丘の上や広い海に少しは残っているかもしれない。それは、どんなすごい記念碑や伝記、賛歌、詩よりも高価なものです。
不可能なことを可能にするには更なる努力が必要です。諦めたら負け。
人生では色々なことで何千回と転びます。愛で転び、仕事で転び、今考えているその冒険でも転び、実現させようとしている夢でも転びます。
でも、千と一回立ち上がり、一からやり直す力があなたにはあります。
その道が一番大事です。ゴールなんてありません。
私があなたに伝えたいのは、昔の葛藤や過ちや愚痴ではありません。
人生はずっと続く学びの場です。ときには間違った道に迷い込む。ときにはお互いの足を踏んでしまうこともある。
人間は無限に良くなっていく社会を作れると、私は信じています。
あなたの存在に意味を与えてください。それを意識しない限り、あなたの人生はまた新しいゴミを買うためのお金に変わってしまいます。
悪循環にはまり、あなたの人生最後の日まで続きます。
私は、自分自身が出口に近づいているとわかっています。どのようなときに死のうと、もうやることはやったのです。
あなたが「どのようなときに死のうと、もうやることはやった」と思える人生を生きることを心より願っています。
この記事の内容は「世界でもっとも貧しい大統領ホセ・ムヒカの言葉」の一部抜粋と要約です。
この本の中には他にも心を揺さぶられる格言が所せましと詰まっています。モノと情報に溢れる世界で幸せを手に入れる道しるべとなります。
興味を持たれた方は是非手に取ってみることをお勧めします。一度きりの人生の中で、このような素晴らしい本に出合えたことに感謝。