組織がまとまって一つの方向に向かったり、やるかやらないかの判断をするときは「完全に明確な目標」が必要になります。
どんなに明確でも曖昧さがあればそれは不十分で、個人や組織に弊害をもたらします。
ここでは曖昧な明確がもたらす弊害と、完全に明確な目標とは何か?について解説しています。
ミッションステートメントやビジョン、企業理念を定めている企業はたくさんあります。ですが、曖昧で実態にそぐわない目標はかえって弊害になります。
曖昧な目標がもたらす大きな弊害に次の2つがあります。
目標が曖昧でほとんどの人が参考にしていない場合、その目標に沿うことをしても社内で評価されることはありません。
適正な基準がない組織では、基準は好き嫌いといった感情的で曖昧なものに左右されやすくなります。
すると社員は社内での評価をあげるために「どうやって上司にとりいるか」に頭とエネルギーを使うようになります。
本来であれば仕事に注がれるはずの時間とエネルギーが、自分を良く見せることやご機嫌取りに費やされます。
目標が分からないので他人の目ばかり気にしている状態です。
曖昧な目標により、目標がわからなくなってしまい他人の目ばかり気にする状況は多くの個人も陥っています。
自分のしたいこと(望みや価値観)が分からず、他人の目ばかり気にしてしまう状態です。
こういう人は、SNSやメディアで流れてくる、大きくて豪華な家、高級な車や洋服、豪華な海外旅行を羨ましいと思い、TwitterやFacebookのフォロワーやいいねを増やすことばかり考えています。
「あれもいいな」「これもいいな」とすぐに感じてしまう人は、自分自身が見えていない人です。現状のまま前に進むよりも、しっかりと立ち止まり、自分と向き合ってじっくりと自分自身の本質を考えるべきです。
目標が曖昧なことによる2つ目の弊害は組織自体が何でもかんでも引き受ける何でも屋になることです。
目標が曖昧なので向かう方向が分からずに各自がバラバラに動き出します。
それぞれが目先の利益のために動くようになります。
個人個人は重要な仕事をしている場合もあるけれど、それぞれの仕事が違う方向を向いているので組織として見たときにプラスに積み重なっていかない状態です。
何でも屋とは色々できるようで、実は総合的には一歩も前に進んでいない組織です。
思想家のラルフ・ワルド・エマーソンは次のように述べています。
人と国を亡ぼすのは、作業としての仕事。すなわち、主目的を外れ、あちこちに手を出すことである。
ビジョナリー・カンパニーの第3弾でも次のように述べられています。
規律なき拡大路線は衰退を生む。
つまり、目標を持たずにただがむしゃらにする努力は前進ではなく、むしろ後退を生んでしまうこともあるわけです。
どれぐらい明確な目標が必要かというと「完全に明確」です。
「かなり明確な目標」では不十分です。曖昧です。
目標に曖昧さがある場合「かなり明確な目標」でも、ほとんどの場合で結果は悪い方向に向かっていきます。
曖昧さがある目標では、人によって解釈に違いが生まれます。バラバラの行動は足し合わせることができません。
組織の目的やメンバーの役割が明確でない場合、社員は混乱しストレスを抱え込みます。
世の中は曖昧な目標で溢れています。
曖昧な目標とは「いつ、どこで、誰が、何を、どうする」が決まっていない目標です。そのほとんどは具体的な数値を一つも持っていません。
記述してある内容も「世界で」「全ての市場で」「顧客及び株主の利益」「長期的な株主価値の最大化」など抽象的なことばかりが並べ立ててあります。
また、明確な優先順位付けがされておらず「顧客及び株主の利益」「顧客サービス、イノベーション、品質、コミットメント」など項目が並列して並んでいます。
項目 | 例1 | 例2 | 例3 | |
---|---|---|---|---|
いつ | – | – | – | – |
どこで | 世界から | – | 製品・サービスを提供するすべての市場で | – |
誰が | – | – | – | – |
何を | 飢餓を | すぐれた顧客サービス、イノベーション、品質、コミットメントを通じ | 地位を、顧客及び株主の利益 | 法を遵守し、高度な倫理基準を守りながら、長期的な株主価値を |
どうする | 撲滅する | 収益性の高い成長を実現する | 確立し、に貢献する | 最大化する |
完全に明確な具体的な目標があれば社員は自ずとその方向に進み、どんどんと成果を上げることができます。
具体的な目標とは例えば「これからの5年間で、どんな仕事を成し遂げたいですか?」という質問に、とことん明確に答えられる目標のことです。
ありきたりですが「いつ、どこで、誰が、何を、どうする」が定まっている目標が明確な目標です。
具体的な地名や数値が入ります。
例えば、イギリス政府によるインターネット普及プロジェクトの目標は次のようになります。
2012年までに、イギリスのあらゆる人がインターネットを使えるようにする。
俳優で起業家のブラッド・ピットはハリケーン・カトリーナに襲われたニューオーリンズの復興の遅さに苛立ち、自ら財団を設立し、次のような目標を設定しています。
ニューオーリンズの下9地区に住む世帯のために、低価格で環境に優しく、災害に強い家を150戸建設する。
項目 | 例1 | 例2 |
---|---|---|
いつ | 2012年までに | – |
どこで | イギリスで | ニューオーリンズの下9地区 |
誰が(対象) | あらゆる人が | に住む世帯のために |
何を | インターネットを | 低価格で環境に優しく、災害に強い家を |
どうする | 使えるようにする | 150戸建設する |
具体的な目標の共通点は「できた」「できない」という達成したかどうかが測定可能なことにあります。
「長期的な株主価値を最大化する」「顧客及び株主の利益に貢献する」「収益性の高い成長を実現する」これらの目標は具体的に何を達成すれば成功かがわかりません。
一方、「2012年までに、イギリスのあらゆる人がインターネットを使えるようにする」「ニューオーリンズの下9地区に住む世帯のために、低価格で環境に優しく、災害に強い家を150戸建設する」は達成できたかどうかが明確でわかりやすいです。
なお目標は大きく分類すると4種類あり、それぞれに役割や内容が異なります。
ここで述べている具体的な目標とは「本質的な目標」のことです。
組織の全員が納得して具体的に追い求める目標です。
ビジョンやミッションがあり、価値観があり、そこから具体的な本質的な目標を定め、そして、その目標を達成するために細かい数値設定を行った四半期目標があります。
それぞれ、「具体 or 抽象」「刺激的 or 平凡」の2軸で分類することができます。
分類 | 軸1 | 軸2 |
---|---|---|
本質的な目標 | 具体的 | 刺激的 |
ビジョン | 一般的 | 刺激的 |
価値観 | 一般的 | 平凡 |
四半期目標 | 具体的 | 平凡 |
図にすると次のようになります。
例えば「世界から飢餓を撲滅する」自体はあまりにも抽象的で組織が足並みをそろえて実行することが不可能な目標です。
「世界から飢餓を撲滅する」は刺激的で一般的なためため「ビジョン」に分類できます。
そして、そのビジョンのために「2022年までにマダガスカルの1万人の子供たちに食料を届ける」とすれば、それは具体性があり行動可能な「本質的な目標」になります。
そして、「2021年の12月までに1トンの食糧を送る」とすれば、それが直近で達成すべき「四半期目標」になります。
成功する組織と失敗する組織には次のような思考の違いがあります。
成功する組織 | 失敗する組織 |
---|---|
具体的かつ魅力的な目標で行動する | 価値観やビジョンで行動する |
意味があり、心に残る本質的な目標を重要視する | 具体的だが、人の心を動かさない四半期目標を重要視する |
明確な一つの基準で、他のあらゆる判断を不要にする | 具体的な規範がないので、毎回判断を迫られる。 |
絶対に達成すべき本質的な目標があるということは、それに適っているか自動的に判断できるということです。
このため、判断疲れなど余計な消耗を防ぎ、他の組織よりもより効率的に目標に向かって行動することができます。
世界的に有名なバレリーナのアンナ・パブロワは次のように述べています。
やるべきことはシンプルです。
あなたが心から望む目標を達成し、あなたとその周りの人たちが幸せになることを心より願っています。
この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。
世界的ベストセラーになったこの本には他にも人生を成功と幸せに導く格言がたくさん載っています。
興味を持たれた方は是非実際に手に取ってみることをお勧めします。