多くの人が何か大きなことを成し遂げようと思ったら、がむしゃらに一生懸命努力しなければいけないと考えています。
ですが、実際はそうではありません。私たちが「絶対に無理」と思うような偉業を成し遂げている人たちはむしろ無理をしていない人たちです。
「習慣の力」を利用してスムーズに偉業を成し遂げています。
ここでは、習慣の力とそれを手に入れる方法について解説しています。
水泳界で世界新記録を39回樹立した「水の怪物」という異名をもつマイケル・フェルプスは試合前にいつも同じ行動を繰り返すことで知られています。
試合の2時間前に会場に入り、正確に決まった手順でストレッチとウォームアップをする。
800、600、400mのスイム、キック、プル、ドリルでウォームアップし。
ウォームアップが終わったら体を乾かし、イヤホンをつけてマッサージテーブルに座る。その間決して横にはならない。
その瞬間から試合終了まで一言も言葉を交わさない。
試合の45分前に競技用の水着に着替える。30分前にウォームアップ用のプールで600~800m泳ぐ。
10分前に控室に入り、片手にタオル、もう片手にゴーグルを持ち一人きりで座る。
試合の呼び出しがかかると、ゆっくりと飛び込み台に歩いていく。
そして2回ストレッチする。必ず左足から始め、伸ばし、曲げる。
右のイヤホンを外し、名前が呼ばれたら左イヤホンを外す。
左側から飛び込み台に上がる。
飛び込み台を拭いてから立ち上がり、手で背中を叩くような格好で腕を振る。
フェルプスは常にこの行動を繰り返しています。本人はこの動作について次のように語っています。
ただの習慣です。ずっと前から続けてきました。今後も変えるつもりはありません。
日本にとどまらず世界で活躍した日本人野球選手の代表といえばイチローです。
通算最多安打数でギネス世界記録を更新したり、首位打者やMVPなど数々の賞をとっています。
イチローも打席に入る前にいつも同じ習慣(ルーティン)をすることで知られています。
まず、自分の打席の一つ前のネクストバッターズサークルに入ると、軽くバットを3回振ります。
続いてバットを大きく2回回します。
膝を開いて苦心を2回し、膝を閉じて屈伸をします。
次に、股を開いて肩を入れ股関節を2回伸ばします。
最後にバットを軽く振ります。
バッターボックスに向かう流れで、軽くバットを振ります。
右足を回し、左足を回し、足を閉じた屈伸をします。
バットで右足のスパイクを叩き、次に左足のスパイクを叩きます。
足場をならして、バットを縦に構えます。
バットを回しバットを立てて、最後に袖を引っ張ります。
イチローは他にも食事などにルーティンを取り入れています。そしてルーティーンについて次のように語っています。
一番ストレスがない状態を追求していったら自然とこの形になっていた。
Twitterの創業者であるジャック・ドーシーも習慣を日々の中に取り入れています。
ビジネスが急成長し、忙しい日々の中で1日の中に違ったテーマがあると頭を切り替えたり、まったく接点がないことを考えるため余計なエネルギーを消費することになります。
そこで、曜日ごとに決まったテーマだけを話すという習慣を設定しています。
ドーシーはこの習慣を遵守し、そのテーマ以外を決してやりません。周囲ももちろんそれを知っています。
そのため、周りも曜日に合わせて仕事の依頼やミーティングを設定するようになっています。
マイケル・フェルプスもイチローも超ストイックに追い求めてその習慣に行きついたわけではありません。ストレスのない楽な形を追求した結果、その習慣に至っています。
習慣の大きな利点は次の2つです。
1つ目の習慣のすごい点は、練習を重ねることで自動化されどんどん簡単になっていくということです。
新しい部活に初めて入部したときや、初めての部署に配属されたときのことを思い出してみてください。
最初は右も左もわからず苦労の連続で毎日を必死に生きるしかありません。ですが気づくと作業に慣れて悩まずともこなせるようになっています。
一流のアスリートやビジネスマンは毎日きつくてできるかどうかわからない練習を意志の力でやっているのではなく、むしろ意志の力を使わずに自動でやる習慣を持っている人たちです。
「判断疲れ」という言葉があるように、人が1日に判断できる量は限られていて、判断の回数が増えるたびに疲れがたまり判断が低下していきます。
繰り返し同じことをすることで、その動作のために必要な脳のリソースがどんどんと少なくなっていきます。
そして、判断しなくて自然と行動できるようになります。
結果、空いた分のリソースを他のことに使えるようになります。
習慣は「自動化」という最強のツールです。
ですが、行動の内容がポジティブであろうがネガティブであろうが関係なく、繰り返せば習慣化します。
このため、悪い結果につながる行動が習慣化されている場合は危険です。
創造性や生産性を失い、人生を退屈にさせ健康を失う習慣を持っている人も大勢います。
例えば、仕事の終わりにラーメン屋の前を通ると、ついラーメン屋に寄ってしまう。ラーメンを食べたあとはつい一杯アルコールを飲んでしまう。
朝起きたらスマホをいじってSNSを見続けてしまう。仕事中に何度も何度もメールチェックしてしまうなどです。
習慣を作るというと難しいように聞こえますが、最近の研究で習慣は意図的に簡単に身に付けられることがわかっています。
習慣は「トリガー(引き金)」「行動」「報酬」の3つで構成されていることがわかっています。
例えば、「ラーメン屋が目に入った」がトリガーとなり、「ラーメンを食べる」という行動に出て、「おいしい」という報酬を得ます。
この「トリガー」「行動」「報酬」の3つの行動を繰り返し行うことで、自動化ができるようになります。
最初なんとなくラーメン屋を見て立ち寄って、食べてみたらおいしかった。と言う体験が次にまた同じことをする体験につながり、やがて当たり前の習慣として組み込まれます。
行動の結果がストレスになる場合は習慣になりません。ストレスがなく報酬があるから自然と習慣になっていきます。
「トリガー」「行動」「報酬」の3つの行動の中で悪い習慣を変えるために注目すべきは「トリガー」です。
「行動」は「トリガー」によって自動的に発生するものなので、その根本の原因となっている「トリガー」を見つけることができれば、習慣を変えることができます。
例えば、仕事帰りに美味しいラーメン屋さんの前を通るとラーメンを食べてしまう場合、そのトリガーは「美味しいラーメン屋さんの前を通った」ことです。
それがわかれば、帰り道を変えてそのラーメン屋さんの前を通らないようにすれば、ラーメンを食べる習慣を失くすことができます。
トリガーを取り除く以外にも、トリガーの後に引きおこる行動を変える方法もあります。
例えば、仕事帰りに美味しいラーメン屋さんの前を通るとラーメンを食べてしまう場合、そのトリガーは「美味しいラーメン屋さんの前を通った」こと、行動は「ラーメンを食べる」です。
この行動を「50mダッシュを本気でやる」に変えます。
するとこれまでの習慣が、「美味しいラーメン屋さんの前を通った」ら「50mダッシュ」に変わります。
習慣作りのポイントは「トリガー」と「行動」をセットにし、とにかくストレスなくスムーズにできる状態を作ることです。
パソコンを開けばお気に入りに登録されているメールソフトを開いてしまったり、スマホを開けばLINEを開いてしまうのと同じくらい、当たり前にそこにあり、手軽にできるようにすることが重要です。
例えば、筋トレを習慣にしたいと思ったら、まずは良く座るイスの横にダンベルを置いておきます。重すぎずやろうと思えば気軽に取り掛かれる重さであることが重要です。
すると、イスに座って少し暇ができたときになんとなくダンベルに手を伸ばし10回ほど持ち上げるという動作が簡単にできるようになります。
報酬が大事なので自分を褒めたり、お風呂に入る時に筋トレした部分を愛でるようにします。
最初のうちは意識して行います。
それを繰り返すと、イスに座って作業をして少し暇ができたらダンベルを上げるという習慣ができあがります。
行動が脳のリソースを使わずにできるようになるまでにかかる期間は約90日(3か月)と言われています。
1か月継続できれば、かなり自動化がすすみ、3か月継続できれば自動化が完了します。
習慣を作る時に重要な注意点があります。それは「習慣は一つづ作る」ということです。
悪い習慣を変えたり、新しい習慣をまとめて取り入れたくなりますが、それはストレスが大きくなります。
習慣化のポイントは「ストレスがかからず楽にできること」です。
「あれもこれもやらなきゃ」と思うことは大きなストレスになり、結果どれも習慣になる前に投げ出す可能性の方が高くなります。
モチベーションに関する研究でも、大きなことを成し遂げるのではなく、小さな達成を自分が達成したとわかる形で繰り返すことがモチベーションアップにつながることがわかっています。
まずは習慣を一つ始めてみる。それが定着したら次の習慣に取り組むことが大切です。
ここまでで習慣を身に付ける方法はわかりました。
最後に偉業を成し遂げるための最強の習慣を身に付ける方法を紹介します。
1つ目に重要なことは「自分に合った習慣を身に付ける」ことです。
巷で良いと言われていることや、カッコいい有名人がやっていることではなく、自分にピッタリ合っていてストレスのない習慣を見つけることです。
睡眠、食事、仕事のリズム、心地よい服を身に付け、気の合う仲間だけと付き合うなどです。
その習慣はあなた特有のものなので、もちろん他の人たちとは異なります。
2つ目に重要なことは「自分に合った習慣を遵守する」ことです。
自分の習慣を乱す誘惑に負けてはいけません。習慣を壊すことになる誘いは徹底的に断る必要があります。
余計な行動に手を出してもいけません。
フェルプスやイチローを思い浮かべてください。彼らが周りに何かを言われたからといっていつものルーティンを崩すでしょうか?
やじに気を取られてルーティンを忘れるでしょうか?周りの誘惑に負けて習慣ていたら偉業は達成できていません。
習慣の力は、他のことを断らなければならないというトレードオフの関係にあります。
最後にやるべきは習慣の結果が最高の成功につながるようにイメージを描くことです。
達成の瞬間が曖昧ではいけません。フルカラーで鮮明なイメージを描けるようにすることが大切です。
フェルプスは自分のやっていることを「ただの習慣です」と言いました。
ですが、その習慣を作るために徹底したイメージ化を行っています。
飛び込み台に立ってから、ぶっちぎりの1位で水面に顔を出すまでのあらゆる細部をリアルに思い浮かべ、完璧な試合を頭の中にイメージし、それを習慣化しています。
試合前にコーチがフェルプスに言うことは「ビデオを用意しろ」です。
フェルプスがするのは試合で火事場の馬鹿力をだせるように祈ったり気合をいれることではありません。
頭の中に描いている最高の試合のイメージビデオの再生ボタンを押すだけです。
一つ一つのストレッチもウォームアップもイヤホンの曲も全てイメージ通りです。
当日や試合前1週間前急にやり始めてきたのではありません。
普段から本番のためにたってきたことを当たり前のように繰り返しているだけです。
日本を代表する実業家でJALを立て直したことでも知られる稲盛和夫もイメージを描く重要さについて語っています。
強烈な願望を心に抱く。最初は夢でしかなかったものが次第に現実に近づき、やがて夢と現実の境目がなくなって、既に実現したことでもあるかのよう達成した状態、完成した形が頭の中に描ける。
白黒で見えるうちはまだ不十分。より現実に近くカラーで見えてくる。
そういう完成形がくっきりと見えるようになるまで、物事を強く思い、深く考え、真剣に取り組まなくては、創造的な仕事や成功を手にすることはできない。
あなたが、あなたにピッタリ合った習慣を身に付け、あなたの望む成果を手に入れ、あなたとあなたの周囲の人々が幸せになることを心より願っています。
この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。
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興味を持たれた方は是非実際に手に取ってみることをお勧めします。