私たちは人生の中でいろいろな願望を持ち、夢や理想を描いています。
「〇〇に進学したい」「〇kg痩せたい」「筋肉をつけたい」「留学したい」「仕事で大きな成果を上げたい」など達成したい目標は人によって様々です。
ですが、全ての人が胸に抱く目標を達成できるわけではありません。達成している人の裏には諦めたり挫折してしまった人がたくさんいます。
ここでは、そんな人たちが有効活用できる目標達成を可能にする簡単な方法について、人の心理的な性質をふまえて紹介しています。
アメリカに本社を持つサンドイッチを主体とするファーストフードのチェーン店サブウェイ(SUBWAY)は「書く」+「公表する」という実に単純な方法で目標を達し成功を手にした代表例です。
サブウェイは元々創業者のフレッド・デルーカが友達から10万円を借りて創業した小さなレストランでした。
フレッド・デルーカはサブウェイのフランチャイズ店舗を爆発的に増やすために、レストランのナプキンに「2001年までに1万店舗を実現します」と印刷しました。
当時周囲の人たちには、その宣言はあまりにも無謀で実現不可能だと見られていました。
このことに対してフレッド・デルーカは次のように答えています。
目標を書き出して世界中に知らせれば、引っ込みがつかないからやるしかないだろう。
この結果、サブウェイがどうなったかというと、公表していた2001年までに1万店舗という目標を達成し、2021年6月時点で100か国以上に進出し3万7000店舗を超えてるまでになっています。
単一ブランドでの世界最大のレストランチェーンで、アメリカにおける店舗数はマクドナルドを上回っているほどです。
アメリカで大成功をおさめているマルチ商法の企業にアムウェイがあります。2019年にアムウェイとそのグループ会社は8400億円もの売上高を報告しているほどです。
そのアムウェイでは販売員たちの目標達成の確率を上げるために「目標を紙に書き出す」という方法をとっています。
アムウェイでは目標を設定することについて次のように述べています。
【始める前の最後の秘訣】
目標を設定し、紙に書き留めましょう。どんな目標でもかまいません。大切なのは目標を定めることです。そうすれば目指すものができます。
そしてそれを紙に書くことです。書くことには魔術的な力があります。ですから、目標を決め、それを紙に書きましょう。
目標を達成したら、更に別の目標を立て、それを書き留めてください。
目標を自分の中に留めておくのではなく書き出すことには強力な力があります。
1950年頃に発生した朝鮮戦争では中国が捕虜として捕まえたアメリカ兵の思想を変えさせて、中国に協力するように仕向けるために「書かせる」という手法を使い成功をおさめたほどです。
「書かせる」という行為はその人が意識するしないに関わらず、自分が書いたものが目の前に証拠として残る行為です。
人には「一貫性の原理」という性質があります。一貫性の原理とは自分が公表したり言ったり約束したことがあったら、無意識のうちにその言葉を守るように行動しようとすることです。
人は誰しも自分を信じたいですし、ウソつきにはなりたくないものです。
このため、書き出したものがあるとそれを目指すような行動を無意識にとるようになります。
「書き出す」という行為は私たち人に無意識のうちに働く性質を上手に利用したものです。
公表することもまた私たちの中で「一貫性の原理」を強く作動させます。
「やるといってしまったから」「やると言った以上、今更引っ込みがつかない」といった言葉に代表されるように、人は公に対して自分の意志を公表すると、そのように行動しなければいけないという義務感のような感情が強く働きます。
というのも、言ったことを守らない人(一貫性がない人)は、優柔不断、軟弱、不安定、嘘つきといったレッテルを貼られ信頼できないといった低い評価をうけることになるためです。
このような心理が働くため、人は無意識のうちに自分が言ったことと一貫した行動をとるようになります。その方が圧倒的に楽だからです。
なお公に向けて宣言することをパブリック・コミットメントといいます。パブリックは公、コミットメントは言ったことに対して責任を負うという意味です。
アメリカの著名な社会心理学者であるモートン・ドイチュ(Morton Deutsch)は自分の意見を公表することが、その人の心理にどのくらい影響を与えるかを調べました。
実験の内容はとても簡単なものです。大学生に一本の線を見せてその長さを心の中で見積もってもらいます。それぞれの答え方は次の3パターンで行ってもらいます。
この3つの方法で答えてもらった結果、最初の判断が間違っているという情報を伝えられた後に、自分の判断にどれぐらい固執するかを調べました。
結果には明らかな違いが出ました。
パターン1の「書き出さず、口頭で答える」とした学生は、自分の意見に疑問を投げかけられ、新しい証拠を見せられると、その新しい情報にすぐに影響を受けて、自分が正しいと思っていた行動を変えました。
パターン2の「自分の答えを紙に書くが公表はしない。文字を消せるパッドに記入し、消してもいいとする」とした学生は、新たな証拠を見せられても、自分の意見をなかなか変えることがありませんでした。
誰にも公表していないにも関わらず、自分の考えを「書き出した」だけで、自分が最初に出した答えを変えることに対して抵抗感を覚え、一貫性を保とうとしました。
パターン3の「自分の答えを紙に書き、署名した上で提出する」としてパブリック・コミットメントした学生は新しい証拠を見せられても、頑なに自分の意見を守ろうとしました。
つまり、強烈に一貫性を保とうとしたということです。
「書くこと」と「公表すること」は私たち人にとってとても強力な力を発揮します。
その力は私たちが想像している以上に強力なものです。
このため、モートン・ドイチュの実験結果からもわかるように、間違っているという事実を突きつけられてもその意見に固執してしまいます。
サブウェイの創業者フレッド・デルーカやアムウェイが実践しているように「書き出すこと」そして「公表すること」は私たち人の心理的な性質上、恐ろしいまでの力を発揮します。
アムウェイが「書くことには魔術的な力があります」と言っていますが、まさにその通りということです。
あなたが心の底から本当に達成したい目標があるなら、今すぐにでも紙に書き出して、そして周りの人にも宣言するべきです。
宣言する相手は家族や恋人、友達である必要はありません。現在ではSNSやブログなど公に宣言するための便利なツールがたくさんあります。
そういった便利ツールと人間心理を上手く活用すれば、あなたが望む世界を手に入れられる確率も大幅に高まります。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。