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損失を使って好意を勝ち取る方法|希少性の力を使った巧妙な詐欺の手口

私たちヒトには残り少ないモノやごく僅かしかないモノの価値を実際以上に見積もってしまう心理があります。

良い悪いや理性が弱いから回避できないということではなく、人とはそういうものなのです。

その性質の裏側にあるのは「失うことが怖いという恐怖心」です。

ここでは私たちが失うことに対してどういう感情を抱くのかと、その感情を上手に利用して人から持続的な好意を勝ち取る方法について解説しています。


失うことを必要以上に恐れる

私たちには「失うことを必要以上に恐れる」性質があります。このため、失うことを回避するために割にあわないような選択をすることは珍しくありません。

ある実験で、1%というかなり低い確率で電流が流れる状況で、そのたった1%のリスクを回避するために人はどれだけのお金を払うかを調べたところ、その価格は7ドルでした。

一方、99%回避できる場合に支払ったお金は10ドルだったので、たった1%のリスクさえも極端に恐れ、割に合わないような選択で取り払おうとすることがわかります。

このように損失などのリスクを極端に恐れ避けようとする行動を「損失回避」といいます。

損失回避は私たちが何かを得るよりも、失うことを極端に恐れる心理にもつながります

簡単な例では、魅力的なパートナーと付き合うのと、既にいる魅力的なパートナーを失うのでは、前者の喜びよりも、後者の辛さや苦しみ、悲しさといった感情の方が極端に大きくなります。


損失を使って人の好意を勝ち取る方法

この「損失を極端に恐れる」という原理を利用して人の好意を勝ち取る方法があります。それは相手が損失した状況を作り出し、それからそれを与えるという方法です。

この手法で生み出した好意はかなり強力で、一生涯忘れられない思い出として続くこともあります

例えば、気に入っている異性がどうしても欲しいものがあり、でもお金が足りなくてなかなか買えずにいたとします。

そしてあなたを頼って相談してきました「〇〇が欲しいんだけど、限定品で最後の1個しかなくて、今買わないともう手に入らないかもしれなくて、お金を貸してくれないかな?」

そう相談された人の多くは「いいよ」と愛想を振りまいてお金を貸すかもしれません。

ですが、より強力な好意を得るためには、ここでお金を貸すことを断ります。その代わり、そのお店に行ってその商品を相手に内緒で購入します

すると、相手は売り切れてしまったことを知ってショックを受けます。損失による悲しみは絶大なものです。

「もう手に入らないんだ」と思い返すたびに悲しみと「あのとき無理をしてでも買っておけば」という後悔の念が浮かんできます。

そして、数日後、何かの記念日を見計らってあなたは買っておいたものを「実は、あそこで買っておかないと他の人に変われてしまうかもしれないと思って、あなたのために買っておいたんだ」といって、相手が欲しがっていたものを包んだプレゼントの箱を渡します

プレゼントを受け取った相手はこれまでの悲しみや後悔が大きかっただけに、大喜びします。それは一生忘れられないほどの思いでになることも少なくありません。

point

もう手に入らないと思わせる環境を作り出して、あとからそれを与える。


手に入らないと思わせる詐欺

何かが手に入らないとわかったときに、それを強く求めるようになる心理はとても強烈です。

このため、あえて手に入らない環境を作って、それをプレゼントし相手からの好意を勝ち取る事にも使えます。

それ以外にも、あえて手に入らない環境を作り出して、あとからそれが手に入るようになったという話を持ち掛けてモノを買わせる詐欺の手口も横行しています。

自分の人生の時間を真面目にコツコツ働いてきたある80歳の老人は、持ちかけられた投資話に乗ってしまい全財産を失いました。

その老人はがめつかったわけではありません。「手に入らないとわかったときに、それを余計に欲しくなってしまう」という心理を上手に利用されてしまった結果です。

このような詐欺の手口は次の3ステップを踏むことが一般的です。


自己紹介

詐欺集団はまず、東京都港区などいかにも投資家があつまり成功していそうな場所にオフィスを構えます。

そして、カモとなる人たちに電話して、自分たちの会社名や住所を伝え、自己紹介をします。その時には何の売り込みもしません。ただ、「会社の資料を受け取って欲しい」と言ってパンフレットを渡すだけです


手に入らない環境を作り出す

2回目の電話で相手の中に手に入らないとわからせる環境を作り出します。いくつかの投資物件の話をし、その後で手に入らない魅力的な投資の話をします。

実は弊社で扱っている投資のうち、ものすごい利益を生み儲かる投資があるんですよ。ただ購入いただける人数が決まっており、既に定員に達しているため、〇〇さんにもご参加いただくことはできないんですよ。

このように伝えられた瞬間に「本来手にする権利があったのに、それがなくなってしまった」「もっと早く知っておけば」「損した」という損失を過大評価する感情が芽生えます。

point

おいしいニンジンをぶら下げて、それをサッと取り除くと、人はそのニンジンが余計に欲しくなる。


時間限定の美味しい話をする

3回目の電話では、セールスマンは息を弾ませながら次のような演技をします。

つい先ほど、投資の立会所から帰ってきたのですが、このまえお話したようなとてもり利益性の高い美味しい投資が新しく加わりました!

〇〇さんに前回は申し訳ないことをして悔やんでいたので、今回は一番最初に電話をさせていただきました。

ただ、こちらも定員が決まっているので、もしご興味があれば本日中に入金していただく必要があります。

すると「もう手に入らない」と悔やんでいたカモはこの話に飛びつきます。そして言われた額を当日中に送金してしまいます。

ときには、更に追加の投資話をもちかけ、ある程度したところで、急にそのセールスマンや会社と連絡がつかなくなります。

いくら電話しても「この電話番号は現在使われておりません」という自動音声しか返ってきません。

こうして老人は全財産を失ったことに気付きます。


騙されないために|「手に入りにくい」=「価値がある」ではない

ここで紹介した損失を使って好意を得る方法や、詐欺にひっかける手口は人の「心理的リアクタンス」を利用したものです。

名前だけ聞くと難しそうに聞こえますが、中身はとてもシンプルで人の心理をわかりやすく示しています。

自由な選択が制限されたり脅かされたりすると、自由を回復しようとする欲求から、私たちはその自由を以前よりも強く求めるようになる。

このため、希少性が強まり、ある対象に接するのが難しくなったとき、その状態に反発して、以前よりもそれを欲しくなり、何としてでも手に入れようとする。

「リアクタンス」とは反発という意味で、手に入らないという状況に対して反発する心理が働くということです。

この心理のために私たちは次のような勘違いをしがちです。

point
  • 手に入れにくいものには価値がある
  • 価値があるものは手に入りにくい

手に入りにくさと価値が結びつくこともありますが、現代のようにあらゆるモノや情報で溢れている時代では、「手に入りにくさ」と「価値」は連動しないことがほとんどです。

本当の価値は「自分にとって必要か」や「それがあることで人生が豊かになるか」です。

モノや情報が増えれば増えるほどやることが増え、本当に大切なものや好きなものが薄れていきます。その本質を理解して厳選して選び抜いていくことが大切です。

偽りの好意や、美味しい話に騙されないように注意が必要です。


参考

この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。

現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。

この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。

気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。


yuta