私たちは幼い頃から「信頼」という言葉を耳にしています。「あの人は信頼できる」「あの人は信頼できない」と言った言葉は学校や会社、家など至る所で使われています。
ですが、改めて「信頼とは何か?」と訊かれると、意外なほどまでに信頼について深く考えたことがないという事実に至る人は少なくありません。
なぜなら、教師や親は「信頼は大切」というものの、そもそも「信頼とは何か?」「どうやって作られるのか」といったことに関して教えることはほとんどないためです。
学校の授業にも「信頼」に関する体系立った教材や教育ありません。
このため、多くの人が「信頼」を、なんとなくの雰囲気で使っています。
ここでは、信頼とは何か?なぜ信頼が重要なのか?信頼があることでどういったメリットがあるのかについて組織の観点からまとめています。
国語辞典などで「信頼」の意味を調べると、「信じて頼ること」といった解説がされています。ですが、世の中で信頼を上手に使いこなすには「信じて頼る」という定義だけではあまりにも不十分です。
私たちが「信頼関係を築く」と言ったときに使われる信頼とは、簡単に言うと「自分の弱さを見せられること」です。
このため、どんなにたくさんのお願いごとをできる親や教師であっても、自分がその人に「自分の弱みを見せられない」「弱みを見せたら嫌われる」と感じる関係性は信頼がない関係といえます。
そういった存在は、ただ困った時に頼れる都合のいい存在でしかありません。あなた個人と相手個人としての関係性には至っていません。
一方、その人と一緒にいるときに安心しきって、自分の弱さを見せられるのであれば、あなたはその人のことを信頼していることになります。
相手を信頼する。すなわち、自分の弱さを見せることできるようになるためには、次の4つの要素が必要です。
相手がこの4つを守ってくれると断言できる人が、信頼できる存在です。
そして、基本的にはこの4つの要素をお互いが守り合える時に信頼が成立します。
信頼を作るために必要な1つ目の要素は「約束を守る」ことです。
信頼関係にあるとき、一方が「〇〇をする」と言ったら、それは絶対に守られるべきものです。
例外はありません。どんなときでも「守ると言ったら、守る」それが信頼を築くために重要です。
信頼を作るために必要な2つ目の要素は「誠意を持って接する」ことです。
相手の言葉に耳を傾け、気持ちを理解しようとすることです。相手が「何か大きなことをやりたい」と言ったら、それを実現するために手伝えることはないかと真剣に考えます。
相手が苦境に陥ったり非難を浴びていれば、身を挺して相手を守ります。
どんなときでも相手側につき、決して裏切らないことが、信頼を築くために必要です。
信頼を作るために必要な3つ目の要素は「相手の才能を信じる」ことです。
相手には豊かな才能や勤勉さがあり、いつか必ず達成できると信じることです。
人は時には落ち込んだり、諦めたくなったり、世の中に絶望することもあります。その時に、相手なら必ず乗り越えられる、必ず達成を掴めると信じ抜くこと、それが信頼を築くために必要です。
信頼を作るために必要な4つ目の要素は「相手の気持ちを配慮する」ことです。
どんなときでも考えるのは相手の気持ちです。今どういう気持ちなのか、今どうしてあげるのが一番いいのか、それを真剣に考え、その気持ちに答えることが必要です。
相手が自分の弱さを見せてきたときに、それを受け入れて、そして、相手が望まないのであれば決して他言しない。
相手が、この人なら絶対に秘密を洩らさないと信じられることです。
相手の気持ちを汲み取り、配慮できることが、信頼を築くために必要です。
信頼をつくるとは決してきれいごとではありません。信頼のための4つの要素「約束を守る」「誠意を持って接する」「相手の才能を信じる」「相手の気持ちを配慮する」はどれも生半可な気持ちではできません。覚悟が必要です。
なぜそれまでの責任と覚悟を背負ってまで信頼を築くことが重要視されているのでしょうか?
それは信頼関係があると、例え意見が合わなかったとしても、関係性が終わらないどころか、対立する中で信頼関係を深めることすらも可能だからです。
多くの人がしている勘違いに「信頼とは常に意見があうこと」というものがあります。
ですが、人である以上、必ず意見の相違はあります。意見が対立することと信頼は関係ありません。
むしろ、意見の対立を恐れたり、相手に嫌われることを恐れて意見を言えないのであれば、それは信頼関係がないということです。
親のことを「信頼している」という人が、親に自分の意見を素直に言えなかったり、言ったことで反論されるのを恐れているのであれば、それは信頼関係にあるとはいません。
信頼とは意見が対立したとしても、相手のことはこれまで通り信頼し続けることができる状態のことです。
会社など人が2人以上あつまるチームでは、人と人との間に信頼を作ることが最優先です。
チームには2つの対立があります。それは「意見の対立」と「関係性の対立」です。この2つの対立は多かれ少なかれ必ず発生し、それを避けることはできません。
「意見の対立」は決して悪いことではなく、チームで最善の決定を行うためには必須のものです。
一方、チームの中で生じる「関係性の対立」は、チームの利益にならない意思決定や、チームメンバーの士気の低下を招きます。「関係性が対立」しているとき「意見の対立」はチームにとって更に悪い方向に作用します。
つまり、「関係性の対立」はチームにとって絶対的に悪ということです。
これを解決する方法はただ一つ、「チームにおいては、信頼を築くことを最優先する」ことです。
チームメンバーの中に信頼があれば、意見の相違は生じても、感情的なしこりは少なくなります。
心理的安全性という言葉を聞いたことがあるでしょうか?人事界隈では有名な用語で、最高のパフォーマンスを出すチームに必須のものとされています。
心理的安全性とは「チームのメンバーが全員が安心して対人リスクを取れる状態で、一人一人が自分らしくいることに心地よさを感じられる環境」のことです。
対人リスクを取れるとは、率直な意見を言っても相手から軽蔑されたり、侮辱されることを恐れず(リスクを恐れず)発言ができることです。
つまり、自分の思ったことを率直に意見しても、嫌われたりハブられたり評価が下がることがない、精神的に安全な環境のことです。
そして、その心理的安全性をつくる出発点になるのが「信頼」です。
信頼があり、心理的安全性が確保でされれば、メンバーはその環境に居続けたいと思い、そこに居続けるために全力で努力します。
人は誰しもを信頼できるわけではありません。相手との「約束を守る」「敬意を持って接する」「相手の才能を信じる」「相手の気持ちに配慮する」という4つを守り通すためには、相手もこちらに対しその4つを守り通す人でなければいけません。
相手がこちらの意見を聞く気があるのか、それをテストして、テストをパスした人に対しては誠意をもって対応します。
信頼は一度築いて終わりではありません。信頼に必要な4つの要素を守り続け、互いの間の信頼を大切に育んでいく必要があります。
人と信頼関係を築いた天才に、Appleのスティーブ・ジョブズやGoogleやTwitterの経営幹部のコーチングを務めたビル・キャンベルがいます。
ビル・キャンベルはこの世をお金儲けや自身の成功を手に入れるためのものとしては捉えていませんでした。
そうではなく、お互いの強みと弱みを知った上で信頼し合い、協力して目標を達成する人々のネットワークだと見なしていました。
相手が本当に信頼できる人かどうかを見極める一つの方法は相手が「信頼」という言葉を使うかどうか注意して聞くことです。
本当に信頼できる人は「信頼」という言葉を使いません。そうではなく自己のメリットのために信頼関係を築きたい人や、何か裏のある人ほど「信頼」という言葉を多用します。
ビル・キャンベルは信頼のことを次のように言い表しています。
わかるだろう。君のためならなんでもするって。
選手は私をだまさない。私が彼らをだまさないからだ。
これらの言葉の中にあるのは「信頼」という言葉ではありません。信頼を行動にしてきた結果です。
この記事の内容はGoogleのCEOと会長を務めたエリック・シュミットやプロダクト責任者を務めたジョナサン・ローゼンバーグらが書いた「1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え」の内容の一部要約と自分なりの解釈を加えたものです。
ビル・キャンベルはAppleのスティーブ・ジョブズやGoogleやTwitterの経営幹部のコーチングを務め、世の中に偉大なリーダーを何人も送り出してきた人物です。
ビル・キャンベルが貫いてきた生き方やそこにまつわるストーリーには、最高のチームを作るためにリーダーやコーチが知っておくべき考え方や行動が宝の山のように詰まっています。
その考え方はビジネスやチームを成功に導くだけでなく、人として幸せに生きるためのより本質的な知恵でもあります。
この記事に興味を持たれた方は、本書を実際に手に取ってみることをお勧めします。あなたの人生をより幸せにし、成功へと導いてくれることは間違いありません。