私たちには「感情」と「理性」の両面があります。
感情とは私たちの本能で、何かをされたときに起こる反射的な反応です。一方「理性」とは意識的に考えることです。
どちらも私たちヒトにとって切っても切り離せないもので(無理に切り離すと精神異常になります)、私たち自身にとても強力な力を及ぼします。
このため「感情」と「理性」を上手に向き合える人が、世の中で成功と幸せを手に入れます。
ここでは、どんなときに感情が優位になり、どんなときに理性が重要になるかについてまとめています。
この世には詐欺師や自分だけ儲けようとする人がたくさんいます。毎年そうした人に騙される人がたくさんいます。
このため、私たちは「本物かどうか?」「本当かどうか?」をとても気にします。
この世でより正しい真実を示してくれるのは「誰かの意見」よりも、しっかりと調査されたウソ偽りのないデータです。私たちはそのことも理解しています。
よって、人はデータを重要視しそうなものです。ところが現実は違います。そのことは、心理学者のポール・スロヴィックの次のような研究によって明らかになっています。
ポール・スロヴィックはアフリカで飢餓に苦しむ子供たちのために、次の2つの方法で募金を募りました。
より正しい事実を表しているのはパターン2です。ところが、パターン2はパターン1の募金額の半分しか集まりませんでした。
つまり、300万人の苦しんでいる真実よりも、たった1人の写真の方が、人を行動に駆り立てたということです。
特にメディアに従事する人たちはこの事実を良く知っています。彼らは、専門家の学術的なデータではなく、一人の人にフォーカスし、その人の顔写真をアップにしてニュースを書くことがほとんどです。
なぜなら、その方が人の感情に訴えかけ、たくさん見てもらえてビューが稼げるからです。
統計データでは人の心は動かないが、1枚の写真で人の心は簡単に動くという事実はとても強力なものです。
このため、アメリカ政府はメディアやインターネットには「兵士の棺の写真を掲載してはいけない」という法律を制定していました。
これは、人が兵士の棺を見ると「戦争は悲惨」といった連想をして、戦争反対者が世の中に増えてしまうのを防ぐためです。この法律は18年間もの間続きました。
しかし、その間も「〇万人負傷」「〇万人死亡」といった統計データは当たり前のように掲載されていました。
それは私たちも同じで「2020年の交通事故死亡者数は2839人」といわれてもピンときません。その数字が多いのか少ないのかもわかりません。当然、悲惨という感情にも結びつきません。
ですが「大学生が飲酒運転。バイト仲間の18歳の女性2人が死亡」という見出しを見れば、「悲惨」「ひどい」「愚か」といった感情が自然と湧き出てきます。
この世の中で人の行動を何百年、何千年間も支配している力の一つに「宗教」があります。
ユダヤ教が始まったのは約3300年前(紀元前1280年頃)、キリスト教は約2020年前です。
それらがなぜ現代に至っても多くの人の心を魅了し、たくさんの人を従えているのかというと、経典がデータではなく心に訴えているからです。
ユダヤ教もキリスト教もどちらも人にフォーカスしたストーリーです。
もし聖書がデータに基づいた専門書であれば心が動かされないため、人々が信心深くなることはありません。
小説や映画、マンガに根強い人気があるのも、それらがデータではなく人にフォーカスする物語だからです。
できる営業マンは「数値データよりも、個人に絞って話をした方が人の感情が動く」ということを理解しています。
相手を購買行動に至らしめるために、データはあくまで補助的な材料でしかありません。相手が疑っているときに、信頼を勝ち取るたのサポート要員です。
最後の詰めや、相手をぐっと引き込むときは、自分自身の話、他のお客様の話、お客様の未来の話など、必ず誰か特定の人にフォーカスします。
そうすれば、人の感情が自動的に発生し、それが行動につながるからです。
経営者や賢いお客さんは「人はデータではなく、個人に絞って話をされると心が自動的に動いてしまう」ということを知っています。
このため「誰かのストーリー」よりも「確実なデータによる裏付け」を重要視します。そうしないと、人は簡単に間違った選択をしてしまうからです。
あなたは長い人生の中で、何かを売り込む側にも、何かを売り込まれる側にもなるでしょう。そうしたときは人の感情の特性を理解して、上手に理性を使って考えることが正しい道を選択する助けになります。
「統計データよりも1枚の写真が人の心を動かす」という、不変の事実はいつでも胸に留めておきましょう。
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