私たちは一生懸命に勉強し仕事を覚え、これまでできなかったことができるようになれば、素晴らしいスキルを身につけていい成果を出し、より高い給料を得たり、転職を成功させることができます。
そこで得たスキルや経験はかけがえのないものです。お金のように使っても減ることがなく、家とは違って持ち運びも簡単です。
ところが私たちは、そのようなスキルや経験をあまりに過信しすぎています。そして、その過信が大きな失敗や絶望につながることは少なくありません。
ここでは、スキルや経験などの能力の重要な側面についてまとめています。
スキルや経験などの能力に関して、見落とされがなとても重要な性質は「他の分野では力を発揮しない」ということです。
例えば、あなたが一生懸命に努力してプログラミングの能力を身につけて、大成功を収めたとします。「自分には成功を収める素晴らしい能力がある」と考えて、自信満々に営業職に移ったとします。すると、プログラミングの能力は営業には応用することができず、営業で大成功を収めることはできません。
これを「領域依存性」といます。
プログラマーと営業だと完全に異業種ですが、似ているようにみえる領域でも領域依存性が適用されます。
例えば、人材マネージメントが上手な優秀なコーチが家庭でも円満な関係を築けているかといえばそうではありません。そのスポーツにおける人材マネージメントの能力は、家庭でのマネージメントに応用することができません。
バスケットの神様と呼ばれ超人的な運動能力を発揮したマイケル・ジョーダンはNBA3連覇という偉業を達成した後、バスケット引退し野球へと転身しました。
しかしそこでの成績は合計162試合出場、打率.2割1分3厘、本塁打2本というNBAの成績と比較してまったくパッとしないものでした。
ベストセラー作家で研究者でもあるナシーム・タレブは領域依存性について次のように語っています。
チェスのプレーヤーは問題を解くのが得意だ。だが、彼らの能力が発揮されるのはチェスに関してだけだ。
私たちは、能力というのはある領域から、別の領域へと移行可能なものだと考えがちだが、決してそうではない。
能力というのはある領域から、別の領域へと移行可能だと考えている人は、何かの領域で成功を収めると、他の全てでも成功を収めたような顔をします。
「自分には実績がある」「自分ならできる」と考えてしまいがちです。
他の分野の人からしたら、こういった考えを持っている人は疎ましい存在でしょう。良く知りもしらないのに知ったかぶりをしているように映ります。
そして、現実は「自分ならできる」という考えを持っている人は、実際に知らないし、できないのです。
あなたが今の職場や領域でどんなに素晴らしい専門家だったとしても、別の領域にいったら初心者であるということを忘れてはいけません。
これまでどれだけ血の滲むような努力を積み重ねてきたとしても、新しい領域に行ったらまたイチから積み上げる覚悟が必要です。
賢い企業は採用面接のときに、どんなスキルや経験を持っているか以外にも「地頭」や「努力できるか」を重要視します。
というのも、あなたがやるであろう職務はこれまでと全く同じとは限らず、変化の速い昨今では全く新しい業務をやらなければいけない可能性もあるからです。
領域依存性により、持っている能力を移行できないため、新しい領域に移ればいつもイチから学び直さなければいけません。
そのときに良いスタートダッシュを切るために必要なのが、あらゆる領域に共通となる地頭と、新しい領域で学び続けることができる、いわゆる努力する能力だからです。
逆に、専門知識が不十分だったとしても、地頭と努力できる能力があれば、その人は十分のモノになりますし、何より、将来の変化に対して柔軟に対応できる素晴らしい人材になります。
地頭と努力の能力がある人は、10年かけてその専門知識を獲得したうぬぼれ者を、2年や3年などもっと短い時間で追い越していきます。
とりわけ領域依存性が強く現れるのは、ビジネスとプライベートです。
医者や看護師は人の体のメカニズムや健康になる方法を知っている人たちですが、プライベートでは喫煙者が多い傾向にあります。
医学の知識は職場ではフルに能力を発揮していますが、プライベートには適用できません。
社員を率い素晴らしい成績を上げている社長が、家でも家族とも良好な関係を築けているかといえばそうではありません。
事業を成長に導いた社長としてのスキルは、家庭に適用することはできません。
他にも、警察官は他の一般市民よりも、自分の家族に暴力を振るうケースが多かったり、恋愛カウンセラーの私生活は全然円満でなく、むしろ未婚者が多い傾向があります。
彼女を作るのが上手な男性が、私生活でも夫婦円満かといえばそうでもありません。彼女を作るスキルは、夫婦円満を作るスキルとは違うのです。
つまり、私生活で家族との関係や、健康、睡眠、子育ては、仕事での勉強や努力とは別に学ばなければいけないということです。
そして、それを学ぶ時は、あなたが他の領域でどれだけ努力をして、素晴らしい成績を収めていたとしても、イチから学ばなければいけません。別の領域に移ったらあなたはいつでも初心者です。
なお、その逆も成り立つので、私生活がダメダメだからといって、ビジネスで信頼できな成果を上げられないわけではありません。
その人は、自分のプライベートの学ぶ時間を犠牲にしてまで、ビジネスに身を捧げている証拠です。
企業の中には社員に新たな発想や気づきを与えるために、全く異分野で成功している人や有名な本を出した人たちを呼んで講演会を開くことがあります。
ですが、領域依存性があるために、そこで話される専門知識はほとんど意味をなさないことがほとんどです。
特に講演会を開くのは非常にお金がかかります。ほぼ無名の人であれば10万円程度ですが、高いと1回数百万円にもなります。
つまり、他分野の人を講演会に呼ぶのは費用対効果が悪いということです。
そんなことをするぐらいなら、その人の書籍を買って、自分たちで研修を開く方がよっぽど費用対効果がよくなります。
この記事の内容はスイスの経営者かつ小説家でもあるロルフ・ドベリの「Think Smart ~間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法~」の一部要約と自分なりの見解を加えたものです。
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