世界では過去の歴史を振り返ると、自分たちの権利を守ったり、よりよい社会にするために、市民が集まって国や軍部などの権威に対して暴動や反乱といったクーデターを起こすことがあります。
暴動や反乱は自らの命を失いかねないとても危険な好意です。
一方で、同じようなみじめで貧しい環境にいても反乱を起こさない人たちもいます。
そこには明確にどういう状況に陥ると人は暴動や反乱を起こしやすいかという条件があります。
その心理は私たちの本能によるもので、クーデターとは全く関係のない、クッキーの実験でもクーデターの根本となる心理的反応を見ることができます。
ここでは、ステファン・ウォーチェルが行ったクッキーを使った心理学の実験と、人が暴動や反乱などのクーデターを起こす条件についてまとめています。
アメリカの心理学者 ステファン・ウォーチェル(Stephen Worchel)らはクッキーを使って、私たちヒトがより価値を感じるのは、「もともと少ないものか」それとも「元々あったものがなくなる事か」を調べる実験を行いました。
実験の内容は簡単で、被験者を集めて、チョコチップクッキーを渡し、試食してもらいます。そして、そのクッキーを「また食べたいと思うか」「商品として魅力的か」「高級感があるか」という観点で評価してもらいます。
ポイントはクッキーの渡し方で、被験者を4つのグループに分けてそれぞれ異なる渡し方をします。
全て同じクッキーにも関わらず、結果は明らかな違いを生みました。
最も魅力的だと評価されたのは、「クッキーが思いがけず好評で足りなくなってしまったので他の参加者に渡さなければいけない」という社会的な需要により元々あったものが少なくなった場合でした。
次に魅力的だと評価されたのは、手違いにより、元々あったものが少なくなった場合でした。
その次は、最初から少ない場合、そして、最も魅力度が低かったのはもともと量が多いものでした。
つまり私たちは食品の「味」や「魅力」、「高級感」を評価するときに味だけ評価しているのではなく、入手しにくさや周りがどれだけ求めているかが評価に大きく影響しているということです。
クーデター(革命)が発生する心理も、ステファン・ウォーチェルらが行ったクッキーの実験と同じです。
革命を起こす人たちは誰か?という質問をされたときに「もともと虐げられていたり、貧困状態にあった人たち」と考えることがありますが、これは間違った見解です。
革命を起こしやすい人々はよりより生活の味を知っている人たちです。
ある程度豊かな暮らしを当然のようにしている状態で、それが経済的、あるいは社会的理由により突如手に入りにくくなったときに、以前にも増して元の暮らしを欲するようになり、ときには武力蜂起してそれを手に入れようとします。
つまり、元々あったものが無くなった時に人の中に反発心が生まれ、それがクーデター(革命)へとつながります。
南米ウルグアイの元大統領 ホセ・ムヒカは大統領になるずっと昔の若い頃に革命軍に参加していました。
その時のウルグアイは元々朝鮮戦争の戦争特需で儲かっていたところ、戦争が終わり輸出不振に陥って、経済が停滞し、インフレが発生し、失業者の増加や所得格差が広がったころでした。
当時のことを振りかてってホセ・ムヒカは次のように語っています。
とても美しく、高いところから世界を見ていた現実が崩れ落ちました。高いところから落ちるのが一番痛いです。
もともと下にいるのに慣れている人は断念できるのですが、上に行ってしまったら落ちるのは痛い。
だから、私はそういった上から落ちて顎を売ってしまった人たちで世界を変えようとするムーブメントに参加していました。
ホセ・ムヒカの言葉からもわかるように、もともとあった当たり前の豊かな暮らしが急になくなったことで、反発する人が増加したことがわかります。
アメリカは元々ヨーロッパ人のコロンブスが1492年に発見し、ヨーロッパの植民地として切り開かれた土地でした。
それが、徐々にインフラが整い生活が豊かになり、世界的に最高の生活水準と最も低い税率を得るまでになりました。
その繁栄に目を付けたイギリスがアメリカに課税をすることで、その利益を抑え込み自国の利益を上げようとしました。
その結果、強烈な反発がおき1775年のアメリカ vs イギリスのアメリカ独立戦争へと発展していきました。
黒人たちは昔から何百年もの間、労働力としてヨーロッパで売り買いされる奴隷でした。
ヨーロッパ諸国がアメリカを開墾し始めたときも、奴隷としてつれてこられこき使われていました。
ところが、1960年代に黒人がそれに反発を起こし、これまで従順に従うだけだった白人に対して牙をむくようになりました。
その背景には黒人の待遇が向上し、それが低迷したことがありました。
第二次世界大戦以前の黒人の扱いは奴隷のままでしたが、戦争が終わると、居住が与えられたり、教育を受けられるようになるなど、これまでとは比べ物にならないほど目覚ましい経済的な発展や、権利が与えられるといった政治的な発展がありました。
一時は黒人一家の収入は同じ学歴を有する白人の80%にまで向上しました。
ところが1950年代から1960年代にかけて、黒人に対する差別が激化します。黒人に対する暴力事件が頻繁に発生したり、学校で人種差別的な動きが行われるようになりました。
また、1962年には黒人一家の収入が同じ学歴を有する白人一家の74%まで下がりました。
このように、一度は手にした安定的な地位や進歩が、奪われ始めたことで、今まで何百年もの間奴隷として屈指続けてきた黒人が反旗を翻しました。
現代の、特に日本やアメリカのような先進国では暴動やクーデターを目にすることはほとんどありません。
ですが、元々あったものが取り去られることに対する反発は至る所で目にすることができます。
洗剤や化粧品を販売する世界最大の一般消費財メーカーのP&G(プロクター・アンド・ギャンブル社)は何十年間にも渡り、割引クーポンを配布して消費を促進してもらうマーケティング政策をとっていました。
ですが、クーポンの利用率を調べた結果わずか2%しか利用されていないことが判明し、クーポンを廃止する代わりに商品の価格を下げる政策を行いました。
その結果、不買運動が起こり、抗議や苦情の電話が殺到することになりました。
これはもともと与えら、当たり前になっていたクーポンという権利が、急にはく奪されたことにより、自然反射的に発生した心理によるものです。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。