優秀で実績や経験豊富な人ほど「私はわかっている」という態度をとる傾向があります。
話してみると確かに色々なところにまで思いを巡らせていて深く考えています。ですが「私はわかっている」と言っている人は一つ重大な見落としをしています。
それは「人は必ず見落とす生き物である」ということです。
つまり、どんなにあれこれ思いを巡らせて思慮深くなっても、完全に分かっている状態になることは永遠にないということです。
そんなことはない!と思うかもしれませんが、これは私たちヒトの性質上避けられないことです。
ここではなぜ人が、すべてを認識できないのかについてまとめています。
人がもつ性質のひとつに「意識的に見ているものしか見えてこない」というものがあります。
例えばある部屋に入った時に、壁の隅に小さなシールが貼ってあったとします。世の中にはそれに気づく人と気づかない人がいます。
それに気づく人は「この部屋はなんだろう」「何か変わったことはないか」といったことを意識的に問いかけながらその部屋を眺めている人です。
一方「今日の夕飯は何かな」「今日の夜のデート楽しみだな」といったように他のことを考えている人は、全く同じ空間にいるにも変わらず、壁の隅に貼られた小さなシールに気づきません。
部屋の隅の小さなシールでは、気づく人と気づかない人がいるのは当然だろうと思うかもしれませんが、人は小さなシールどころか、ゴリラの存在にも気づきません。
アメリカの心理学者 ダニエル・シモンズが行った実験がそれを示しています。
被験者たちはある動画を見て質問に答えるというものです。
白いシャツを着た3人の女性と黒いシャツを着た3人の女性がバスケットボールでパスを出し合います。そのとき、白いシャツを着た人が何回パスを出したか?という質問が出されます。
動画の途中にゴリラの着ぐるみを来た人が画面の真ん中を通り過ぎ、ステージの中央に来たところで胸をドンドンと叩き、また歩き去っていきます。
しかし、被験者たちは「白いシャツを着た人が何回パスしたか」に集中しているため、後から「動画の中で何かおかしなことがありませんでしたか?」と聞かれても、ゴリラに気づかないという状況が発生します。
「うそでしょ!?」と思うかもしれませんが、意識したもの以外は、見落とすのが私たちヒトの性質です。
運転中にスマホやカーナビを見れば、視線がフロントガラスから外れるので危険なことは当然です。(※運転中のスマホは法律で禁止されています)
このため、最近では技術が進化して運転中にハンズフリーで通話することが可能になっています。
ですが、ハンズフリーで目線はフロントガラスの向こうを見ているからといって安心してはいけません。
私たちは「意識的に見ているものしか見えません」このため、話しながらも意識の何割かを運転に向けるように意識しなければいけません。
実際、話に集中しすぎたり、考え事に耽りすぎたりすると、周りのものや標識が見えなくなるものです。
いわゆる漫然運転と呼ばれるもので、何か別のものに熱中したり、ボーっと運転することです。
漫然運転は死亡事故の原因の第4位で、年間で約500人ほどが命を失っています。
ステージ真ん中を横切るゴリラや漫然運転などの例をあげると「いやいや、パスをカウントしててもゴリラに気付くし、通話したり考え事をしていても運転から意識が完全に飛ぶことはない」というすごく優秀な方もいます。
そういった人たちは、いろいろなことに気を回し、人並み以上の集中力と処理能力をもっています。
それ故に「私は知っている」という思い込みに陥ってしまいます。
どんなに優秀であろうが、私たちが認識できるのは私たちの身の回りで起こったことだけです。それ以外のことに気付くことはできません。
そして、この世の中は私たちが思いもよらないところで発生した事象の玉突きで色々なものが動いています。
リーマンショックが来る前にリーマンショックを当てた人はいません。東日本大震災が来る前に東日本大震災を当てた人はいません。コロナが来る前にコロナが来ることを当てた人はいません。
つまり「重要なことを全て認識できている」と考えた時点で「認識できていないことがある」ということが抜け落ちています。
すべてを認識することは不可能だから、予測しようとすることが意味ないと言っているわけではありません。
むしろ、人は意識していないもの以外は必ず見落としをする生き物だから、できる限り意識をして、何が起こりうるかを考えることが、将来的な危機や変化に対応する力となります。
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