営業をしていると、お客様から意見を言われて、それを断ったり、否定しなければいけない場面が必ずあります。
この否定の方法はとても重要で「そうじゃないです」「違います」と相手を直接否定すると、対立構造になってしまいます。
対立構造になってしまえば、契約はもとより良好な人間関係すら築くことができません。
ここでは、そんな場合に使える、相手を否定せずに否定する方法についてまとめています。
そもそも、相手を否定しなければいけない場面とは、例えば、高圧的なお客様で「自分のやり方が絶対に合っている」というような場合です。
「いやいや、そんなことないですよ」と言っても、「それは違う!」と遮って否定してくるような場合も少なくありません。
あるいは、勘違いしていたり、最初からこちらの粗探しをしようとしてくる場合も、否定的な言葉を言ってきます。
相手のことを否定せずに、「それは違うよ」と伝えることは至難の業のように聞こえます。
ですが、相手のことを否定せずに否定することは可能です。そのためには、次の3つを抑える必要があります。
一番やってはいけないことは、最初から否定することです。
例えば、「僕はそれは違うと思います」「そうじゃないです」という人がいますが、この言葉は、「あなたのことを受け入れません」という意思表示です。
丁寧に伝えるとかそういうレベルの話ではありません。そもそも否定した時点でアウトです。
この言葉を発した時点で対立構造になり、相手はこちらの言葉を絶対に聞いてくれなくなります。
相手の意見を否定するときにまずやらなければいけないのが、相手の言葉を「とにかく受け止める」ことです。
否定されたとしても「ありがとうございます」「おっしゃるとおりです」「確かにそうですよね」「はい」「わかります」という言葉を全力で誠意をもって言います。
相手が言っている意味がわかります。本音を言ってくれてありがとうございます。という意味合いで伝えます。
条件反射的に言うので問題ありません。
なぜなら、共感がないと、どれだけ正論を言おうと相手にメッセージは届かないためです。
そもそも私たち人間が耳を傾けるのは「自分が好意を持っている人」です。逆に「ムカつくやつの意見は聞かない」という共通した感情を持っています。
ムカつくやつの言葉は、どんなに良いことで、どんなに正論でも受け入れることはありません。
そして、心のシャッターが一旦閉じてしまうと、再び開けるのはとても難しいです。
まず、相手にとってムカつくやつになってしまったら、それはかなり不利な状況です。
相手が心を開いてくれることはまずありません。心を開かないということは意見を聞き入れてくれないということです。
そうならないように、相手の心を開くためにやるべきことは「受け入れて」そして、「褒める」ことです。
相手が言っていることが100%全て悪いということはほとんどありません。こちらにはこちらの正義があり、相手には相手の正義があります。
そして、強く主張するということは、そこに良い意見もあるということです。
まずは、その良いところに目を向けて褒めます。
「なんでそんなことしなければいけないんだ!」と思うかもしれませんが、これが、相手にこちらの意見を飲ませるために必要な準備です。
実際の使い方としては、「おっしゃる通りで本当によかったんですけど、更によくするために〇〇をやるということです」といったように、相手の意見を褒めて「更に良くする」という言葉をつなげます。
相手のことを受け入れて、褒めて、心を開いてこちらの話を聞く準備ができたとします。
そのときに、待ってましたとばかりに「でも」「そうはいっても」というように180度転換するような否定に入ると結局対立構造になってしまいます。
相手は、「なんだ結局否定したいだけか」「否定するための導入かよ」と思ってしまいます。
つまり、次の言葉は絶対にNGです。
人の意見は十人十色。持っている思想も、感じていることも全然違います。
なので、「〇〇さんのおっしゃてることもよくわかります。私の意見としては・・・」というように、一個人の意見として伝えます。
「確かに〇〇さんのおっしゃっていること、ホントその通りです。」「一方で、こういう考え方もありますよね」というように、否定するのではなく、他の意見もありますよねという切り口で伝えることが重要です。
自分の意見を伝えるときに、相手をワクワクさせることができれば、圧倒的に伝わりやすくなります。
ここを、こうしたらもっと良くなるよというのも同じです。こうすると、相手を否定していないので対立構造になりません。
すると、相手は自分が否定されていないので「確かにそうだよね」となりやすくなります。
例えば、「IT化はまだ早い」という役員と、「IT化した方がいい」という平の従業員がいたとして、まずは、「はい、仰る通りです。じゃあそこにですよ、ITが加われば鬼に金棒、競合が追い付けない最強の会社になれますよ」といった感じです。
相手の言葉を受け止めて、褒めるべきところを褒め、一個人の意見として伝えるということは、相手にゴマをすることは違います。
「すごいですねー!素晴らしいですねー!一生ついていきます!」というのはウソとバレるだけです。
個人の意見を伝えるときに「ただ、私としては」と言ってしまうこともすくなくありません。
この「ただ」という接頭語はかなり曲者で、相手の心を閉じる強い効果があります。
「ただ」を使うたびに、相手は否定されたと感じ、使えば使うほどに心のシャッターが閉じていきます。
だからと言って、「ただ」を使ってはいけないわけではありません。
一流の営業も「ただ」という言葉を使います。その際、ダメな営業と違うのは、使い方や、使うタイミングが違うという事です。
「ただ」という言葉は、相手の意見を否定する言葉なので、心が閉じている相手にこの言葉を言ってはいけません。
受け止めて、褒めるべきところは褒め、相手の心のシャッターがある程度開いたタイミングであれば使うことができます。
更にポイントは、「ただ」の後に「こうすればもっとよくなる」という内容を伝えることです。
「〇〇さんの言っていることはよくわかります。ただ、ここをこうすればもっとよくなります」これは、相手を否定しているわけではなく、相手に寄り添っている言葉になります。
相手を否定するときにやってしまいがちな思考のミスは、「私の意見にかえてやろう」「相手を言い負かしてやろう」という状態です。
このマインドを持っている時点で、話はとおらなくなります。
そうではなく、「一緒に更にいいものを探っていく」という思考が重要です。
例えば、「定時で帰りたい」という社員と、「業績をもっと伸ばしたい」という社長がいたら、「もっと働け」と社員に強制するのではなく、定時で帰りたい理由をしっかりとヒアリングして、その時間の中で業績を伸ばすために何をすればいいかを、一緒に探していくという感じです。
相手に「どうせあの人に何言っても意味ないし」と思われてはダメです。そうではなく「あの人だったらなんかやってくれる」と思ってもらう事の方が大切です。
最も覚えておくべきポイントは「人の意見は変わらない」ということです。
人はみんなそれぞれの意見を持っています。その意見を変えようとすること自体が傲慢です。
だからこそ「相手の意見を変えよう」と思っていたら決して話がうまくいくことはありません。
「これだけやってるのになんで変わってくれないんだ」と思えば思うほど、どんどん負担になっていきます。
そうではなく、受け止めたうえでもっとよくするためにはどうすればいいかを考える、もうこれに尽きます。
それでも変わらない場合は、「あきらめる」や「距離を置く」ことも大切です。