世の中にはやったこともないのに驚くほど自信過剰な人がいます。
あなたが苦労して得たスキルや資格を「いや、そのぐらい私でも取れるよ」と自信過剰に言い放つ人ったり、素晴らしい成果を出している人を見て「あのくらい私でも頑張ればいけるね」と自信満々に言う人は決して少なくありません。
本当に優秀な人たちはこうした人たちを見ると、残念で愚かな人たちだと憐れんでしまうかもしれませんが、このような残念な思考に陥ってしまうのは、私たちヒトの避けられない本能によるものでもあります。
ここでは、どういった人がなぜこのような自信過剰な勘違いをしてしまうのかについてまとめています。
自信過剰に陥りやすい人は「能力が低い人」です。
なぜ、能力が低い人が自信過剰に陥りやすいかというと、そこには大きく2つの理由があります。
つまり、その人の能力が低く不十分なため、自分にそもそも何が足りていないのか、そしてその道で優秀な人はどんな能力を持っているのかを理解することができないことが要因です。
そもそもこの世の中はピラミッド構造で、優秀な専門家よりも、そうでない人がたくさんいるのが当たり前です。
つまり、相対的に自意識過剰に陥りやすい人が多い傾向にあります。
更に重要なことは、ある道の専門家も、その分野を少し外れれば素人という事実です。どちらかというとこの事実に気付いていない人がたくさんいます。
スポーツや学問、仕事などある一つの分野で成功を収めた人は「自分には能力があるのだ」と思い込みがちになります。そして、それを他の分野にも適用します。
この結果、その分野を十分に学んでないにも関わらず、自分は能力があるといった雰囲気を醸し出したり、そういった発言をするようになります。
「能力が低い人が自信過剰に陥りやすい」という理論を発表したのは、アメリカの最難関大学の一つコーネル大学のデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーです。
このため、能力が低い人が自信過剰に陥りやすい傾向のことを「ダニング=クルーガー効果」と呼びます。
ダニングとクルーガーは学生に対して次のような実験を行いました。
数学や英語の文法などのテストを行い、それぞれに自己評価をしてもらい、実際のテストの結果と自己評価を比較します。
その結果、優秀な学生は自分たちの能力を過小評価したのに対し、優秀でない学生は自分たちの能力を過大評価しました。
優秀な学生は自分たちが解ける問題は他の学生も同じように解けるものだと思い、逆に自分にも解けない問題があるということを理解していました。
一方、優秀でない学生は自分たちが何が解けて、何が解けないかを理解していないため、楽観的な予測をしていました。
デイヴィッド・ダニングは自著の中で次のように述べています。
あなたが無能なら、あなたは自分が無能であることを知ることはできない。
なお、ダニング=クルーガー効果は「自分が優れている」と錯覚することなので、心理学用語で「優越の錯覚」とも呼ばれます。
能力が低い人が陥る自信過剰は、決して直す薬がないものではありません。ダニングとクルーガーは次のように述べています。
「その能力について実際に訓練を積んだ後であれば、自身の能力の欠如を認識できる」
つまり、その分野を学びさえすれば、自分の能力や周りの人の能力を知ることができるということです。
もしやったこともないのに「そのぐらい私でもできるよ」と自信満々な人がいたら、実際にやらせてみることです。
たいていの場合、躓き自身の能力の欠如に気付いて「そのぐらい私でもできるよ」と二度と言わなくなります。
正しい答えを導くために必要なスキルは、正解が何であるかを認識するために必要なスキルと同じ。
ダニング=クルーガー効果が教えてくれる一番の教訓は「他分野の人を評価してはいけない」ということです。
私たちが実際にやったことがないことは、どんなに類似性があり簡単そうに見えても、「そのぐらいなら私でもできそう」と言わないことです。
実際にどんな能力が必要かはその道をたどり、必要な能力を具体的に理解しないとわかりません。
本当にできることを示すのであれば「口ではなく行動で示せ」ということです。
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