私たちは「日本人」「〇〇県民」「〇〇企業の社員」「〇〇大学卒」「〇〇クラブ」というように何かに属し、その組織に属する人たちに対して仲間意識を持っています。
それは偶然日本に生まれたり、自らその場所を選んで自分の時間をそこで過ごした場合に生まれる意識です。
ある種、運命のように特別に感じますが、実はこういった仲間意識はいとも簡単に生み出すことができます。
ここでは、仲間意識がいかに簡単につくれるかと、仲間意識が芽生えたことによる危険性についてまとめています。
イギリスの心理学者 ヘンリー・タジフェルは仲間意識がどのように生まれるかについての研究を行いました。
その結果、単にコインを投げてもらって表が出たか、裏が出たかだけでも仲間意識が生まれることを明らかにしました。
ヘンリー・タジフェルが行った実験はつぎのようなものです。
全く面識がない被験者にコインを投げてもらいます。そして、表が出た人たちと、裏が出た人たちでグループ分けします。
そして、それぞれのグループに「このグループに分けられた人は、もう一方のグループに分けられた人たちが知らないある芸術を好む傾向がある」と告げました。
その結果、たまたま集められて、コイン投げという偶然で分けられただけで、芸術についてよくわからないにも関わらず、自分たちと同じメンバーの人に好意を抱くようになりました。
仲間意識の重要な心理の一つに「自分が所属するグループを特別視し、それ以外のグループの実力を低く見積もる」という傾向があります。
日本人というだけで、日本人が優れていると感じ、アメリカ人、中国人、韓国人をバカにする人がいるのは、仲間意識による心理的なバイアスの一つです。
このような他のグループを卑下する傾向は、自尊心の低い人に多く見られる傾向でもあります。
人は優秀に見られたいという欲求を強く持っています。そして、その欲求を自分自身で満たせないとき、優秀な人たちと自分が関連性があるように見せて、自分自身も優秀であるように見せようとします。
中学生や高校生が力のある先輩と知り合いであることを自慢したり、大人が有名人や大物政治家とつながりがあることをほのめかしたりするのもこのためです。
この心理の問題点は「現実を正しく捉えられていない」とういことです。
「自分たちの方が優れている」「あいつらは間違っている」という思い込みは、変化や成長を阻み、気づくとリカバリー不可能な状態に陥ることも少なくありません。
仲間意識は「集団意識」や「帰属意識」と言い換えることもできます。
仲間意識の力はあまりにも強力で、ときには偶然の結びつきでしかないにも関わらず、自分の命を投げ出すことにつながることもあります。
戦争がいい例です。私たちは「たまたま日本と呼ばれる島で生まれたにすぎません」ところが、たったそれだけの理由で「祖国のために」といって命を投げ出します。
国の未来のために勇敢に戦ってくれた人たちを否定する気はありませんが、仲間意識(集団意識・帰属意識)は無意識のうちにそれほど強力に働くという事実を知っておく必要があります。
なぜ仲間意識が私たちヒトにとってこれほどまでに強力かを理解するには、人類の歴史が深くかかわってきます。
人類の祖先が誕生したのは約500年前、人の祖先であるホモ属が誕生したのは約200年前、そして直接的な祖先であるホモサピエンスが誕生したのは約20万年前だと言われています。
1万2千年前までの約500万年は狩猟採集の時代でした。そして、ようやく世界の一部で農耕や牧畜、稲作が始まりました。約200年前に産業革命が起き、20年前にインターネットが普及し始めました。
狩猟採集時代に比べると、産業革命が起こってからの期間が人類史の0.004%、インターネットが普及してからはたったの0.0004%にすぎません。
つまり、私たちヒトにとっての歴史は99.996%(ほぼ100%)は狩猟採集時代です。
このため、私たちの生活環境は激変していますが、私たちの中身は狩猟採集時代のままです。
人間はライオンのようにパワーがあるわけでもなく、トラのようにスピードがあるわけでもなく、マンモスのように大きいわけでもありません。
狩猟採集時代という過酷な環境を生き抜くためには、集団をつくらなければ生きていくことは不可能でした。そして、集団に属せなかったり、追放されることは死を意味していました。
そのような過酷な環境を生き抜いてきた私たちには、集団を形成する強い本能が備わっています。
ただし、現在社会は狩猟採集の過酷な環境から大きく変化し、ほとんどの場合で身の安全が保障され、集団に属さなくても生きていくことが可能になっています。
逆に、賢い人たちは、ビジネスの利益追求や国家同士の戦いに、強力な集団意識の本能を上手に利用するようになりました。
このような社会で賢く生き抜いていくためには、本能的な仲間意識がいかに強力かを知り、他者を見下す偏見や、過剰な帰属意識を避けることが必須といえます。
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