仕事で上司やお客さんに向けて提案資料を作っている人たちはたくさんいます。採用面接の場も自分自身の売り込み(プレゼン)の場です。
このように私たちは様々な場でプレゼンを行い、そのスキルを身につけています。
ですが、家でそのプレゼン能力を活用することはありません。
家は休むところ。仕事のことやプレゼンのことなんて考えない。家族に向かってプレゼンするなんてありえないといった考えが普通です。
ところが、あなたが培ったプレゼンスキルは家の中で使っても素晴らしい成果を発揮します。つまり、家のなかでもプレゼン能力を使うべきです。
ここでは、なぜ家の中でプレゼン能力を使うべきか、どのようなプレゼンが効果的かについてまとめています。
プレゼンは相手を説得して行動を促すために行うものです。つまり、あなたの意見に耳を傾けていない人や、反対意見を持っている人に対してするものです。
そして、人生の中で最も頻繁に意見がぶつかり合うのは家庭内です。性別、考え方、脳の仕組みが異なる人と一つ屋根の下で一緒に共同生活を送っているので、意見が衝突しないわけがありません。
ちょっとした些細な口論から、大きな口喧嘩まで一週間の間に何度衝突が発生しているかは、片手では数えきれないほどでしょう。
それが、何か月、何十年と続いていきます。
つまり、家で最大限のプレゼンスキルを発揮することができれば、仕事の場以上に多くの意見の対立を上手くとりまとめることができます。
だから、家でこそプレゼンスキルを発揮すべきなのです。
あなたとパートナーとの間で意見の衝突が発生したときに「それじゃだめだ」「こっちのほうがいい」と言って自分の意見を主張することは最悪な提案方法です。
なぜらな「あなたの意見を主張すること」=「相手の意見の否定」だからです。あなたは自分の意見を主張しているだけ、よりいい案を提案してあげていると思っているかもしれませんが、それは相手からしたら自分の意見を否定されているだけです。
例えば、「子供に習い事をさせるべきか、友達との遊びの時間を優先させてあげるべきか」で意見が対立したとします。
妻は「子供に習い事をさせるべきだ」と主張し、一方、夫は「友達との時間を優先させてあげるべきだ」という立場だとします。
その時に夫は次のような主張を展開します。
ごもっともで筋が通った理屈ですが、どれも相手の「子供に習い事をさせるべきだ」という意見を否定しているだけです。
喋ている側は「自分の意見の方が正しい」「私が正しい方向に導いている」と鼻高々に考え誇らしく思っていますが、相手は全くそう思っていません。
相手が感じているのは「自分の意見を否定されてつまらない。」「こちらの意見に聞く耳を持たない」「ムカつく。イライラする」です。
理由の説明や提案は男性がついついやってしまいがちな失敗なので注意が必要です。「自分の意見の主張」=「相手の意見の否定」であることを心に留めておく必要があります。
自分の意見を言ってはいけないのかといえば、決してそうではありません。自分がいいと思っていることをどのように伝えるかが重要です。
効果的なプレゼン方法は「双方のメリットを一つづつ挙げる」です。
「あなたの意見にはこういうメリットがある」「私の意見にはこういうメリットがある」というのを一つづつ並べていきます。
たいてい「これがいい」と言っている人は、良い側面しか見えておらず、デメリットに気づいていないものです。
このため、考えるための判断材料を提供し、本当に良い決断にするためのサポートすることが大切です。
なお、メリットを挙げるときは、相手の意見のメリットから伝えると「あなたの意見もちゃんと聞いています」というメッセージになります。
子供に習い事をさせるべきかの例で言えば、
「習い事をさせれば、フォームや考え方のスキルを習得できる」
「習い事をさせれば、部活選びや、部活に入ったあとに活躍する手助けになる」
「習い事をさせなくても、子供同士の遊びの中でコミュニケーションや人間関係を学べる」
「習い事をさせなくても、子供の意見や楽しい時間を尊重した方が、子供自身も自発的で楽しい人生を歩める」
「習い事をしなければ、どちらかが送り迎えに時間を割かなくていい」
「習い事をしなければ、家計に少しは余裕ができる」
これだけの判断材料を並べたうえで、本当にいいと思えることを決定することが、より建設的な家庭を築きます。
相手が何か意見を言ったということは、そこには必ず現状を改善したり未来を良くするメリットが必ずあるということを身体に染みつかせておきましょう。
双方のメリットを一つづつ挙げるときに、注意しなければいけないのは「デメリットを言わない」ということです。
「~すると、〇〇できない」「~すると、〇〇がない」といった発言をしてはいけません。それは相手の意見の否定になるため、相手がイライラし話し合いが前向きに進まない原因になります。
「送り迎えは誰がするのか?そんな時間はない」ではなく、「~しなければ、二人とも送り迎えに時間を割かなくていい」と伝えます。
「うちにはそんな余裕はない」ではなく、「~しなければ、家計に少しは余裕ができて、心もちも落ちついていられる」と伝えます。
全く同じ意見でも、ネガティブをポジティブな内容に言い換えるだけで「確かにそういう面もあるね」と受け入れやすくなります。
双方のメリットを挙げてプレゼンをするときに、最も注意しなければいけないことは「あなたの意見が最善策とは限らない」ということです。
人は「自分の意見が正し」と思い込む生き物です。その思い込みは非常に強く、相手の意見を否定したり、自分に都合の悪い情報を無視したり、時には事実を捻じ曲げてまで、なんとかして自分の主張を通そうとします。
家庭におけるパートナーとの会話でも「自分の意見が一番正しい」と考えて話を進めてしまうことが頻繁に発生します。
相手が何か意見を言うということは必ずそこにメリットがあります。相手がデメリットを見落としているように、あなたも自分の意見のデメリットや相手の意見のメリットを見落としています。
「双方のメリットを一つづつあげる」というプロセスは、相手に考えるきかっけを与えるだけでなく、自分にも考えるきっかけを与えるものです。
最後に「プレゼン」という言葉の意味について、あまりにも誤解している人が多いため、少し触れておきます。
「プレゼン」は相手を説得して自分の意見を通すことではありません。買いたくない人に商品を売り込むことでもありません。
「プレゼン」は英語でpresentation(プレゼンテーション)と書きます。意味は「相手に喜びや称賛を与える行動」です。
プレゼンテーションをすることをプレゼント(present)と言います。誕生日プレゼントや結婚記念日のプレゼントの「プレゼント」と全く同じスペルと発音です。
妻と夫と子供という一つのチームの中で、相手に気づきや喜びを与え、チーム全体が向上できる提案をすることがプレゼンです。