蔵修息游(ぞうしゅうそくゆう)とは、人が学ぶプロセスは次の4つの状態に分かれていることをしめしています。
項目 | 内容 |
---|---|
蔵 | 知識を貯めている状態 |
修 | 練習を重ね、自分のものにしていく状態 |
息 | 呼吸するようにできる状態 |
游 | 遊ぶように応用できる状態 |
人が学習をするときは誰しも「蔵」から始まります。情報収集したり、上司から新しい仕事のやり方を見せてもらったり、教えてもらう状態です。
情報を集めたり、やり方を教えてもらった後は、その内容を自分で実際にやってみながら習得していく「修」という状態になります。
繰り返しの反復練習が基本となります。
教えてもらったことを、自分で繰り返し何度も何度もやっているうちに、それが自然とできるようになります。
最初の頃は「最初はこうして、次はこうして、その次は、、、」と考えていたのが、体が自然に反応するようになります。
その仕草はまるで呼吸するかのようです。この状態が「息」です。
何も考えずに自動モードでその作業ができるようになると、その作業を他の何かに応用することも可能になります。
自由自在に使いこなせる状態はまるで遊んでいるようなので「游」となります。
蔵修息游を実例で表すとすると、車の運転がわかりやすいです。
教習所など生まれて初めて運転をするときは、何が何なのかさっぱりわかっていません。「これがハンドル、これがブレーキ、これがアクセル」といったように一つ一つ説明を受けて、その情報をどんどんとため込んでいきます。これが「蔵」の状態です。
次に、教えてもらった情報を基に、実際に車を走らせてみます。S字カーブや縦列駐車など、何度も何度も繰り返しながら、アクセルやブレーキ、ハンドルを切るタイミングを体得していきます。これが「修」の状態です。
無事免許を取得し、念願の車を買ってあちこちを走り始めます。海に行ったり、山に行ったり、ときには急な坂道を登ったり、狭い私道を通ったり、そうしているうちにもはや「これがアクセルで、これがブレーキで、あそこまでいったらハンドルをこのぐらい切って」ということは考えなくなります。この何の気なしに運転できる状態が「息」です。
車の運転を極めていくと、曲芸師がやるようなドリフト、2輪走行など、車を手足のように扱えるようになります。
もしくは、普通自動車で学んだことを使って、大型トラックやトレーラーなど他の乗り物へと応用できるようになります。
これが「游」の状態です。
仕事で言えば、「蔵」は新人、「修」は2~3年目、「息」は優秀な人、「游」はベテランといったイメージです。
蔵修息游は人の上に立つマネージメントこそ知っておくべきです。
蔵修息游はとても当たり前なことで全ての人に当てはまりますが、マネージメントの中には「蔵」→「息」、「蔵」→「游」と考えていて、「修」のステップを「遅い」「下手くそ」といって罵ったりイライラをまき散らす人がいます。
あるいはいきなり「息」や「游」を望む人さえいます。
マネージメントの仕事は「部下からやる気を引き出し育てること」です。つまり、部下が蔵修息游の学習プロセスを上手に踏めるようにサポートすることこそがマネージメントがやることです。
実際にマネージメントが教えるときは「蔵修息」までで、あとは部下自身が自ら「息」から「游」にむけて極めていくという流れになるのが一般的です。
段階 | 内容 |
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蔵 | 「どうすればいいと思う?」と質問して意見を引き出す |
わからなければヒントを教える | |
実際にやって見せる | |
一度実際にやってもらう(※途中で口を出さない) | |
ある程度できているのを見届けたら「作業が終わったら声をかけて」と言ってその場を去る | |
出来上がったものを確認する。伝え忘れていたことがあれば謝罪し、もう一度やり直してもらう | |
出来上がったものを確認する。一人でやり遂げるまで繰り返す。 | |
修 | 教えた仕事をまかせる、成果物は細かくチェックする。 |
作業が発生する度に何度もやってもらう、成果物は細かくチェックする。 | |
息 | 繰り返しやってもらい成果物が問題なければ、完全に任せられる状態になる。 |
「蔵」はとても時間がかかる作業ですが、「修」までいくとほとんど手がかからなくなり、「息」までいくと完全な手離れとなります。
なお「蔵修息游」は中国の儒教の経典で、戦国時代(B.C. 470年頃)から前漢初期(B.C. 210年頃)までの「礼」に関する学問をまとめた「礼記」に記されている内容です。
礼記には、国家制度や日常生活の細かな規定など様々なことが記されています。
この記事の内容は篠原 信さんの「自分の頭で考えて動く部下の育て方」の内容の一部抜粋と要約です。
なぜ指示待ち人間が生まれてしまうのか、どうすると人が自ら動いてくれるのかがたくさんの実例を踏まえてとてもわかりやすく説明されています。
マネージメントなど人を指導する立場にある人は一読しておくべき指南書です。