ヨーロッパを中心とした世界の脱炭素の動きに合わせ、日本も2030年に温室効果がガスを46%削減し(対2013年)、2050年にはカーボンニュートラルを実現するという目標が打ち出されています。
特に注目されているのが、太陽光発電やバイオマス発電といった再生可能エネルギーによる発電です。
日本は1997年の京都議定書を主導するなど昔は環境においても最前線を走っていました。2012年には太陽光発電などの再生可能エネルギーを普及するために固定買取制度(FIT)を制定しています。
ですが、再生可能エネルギーは大規模な発電所と比較して高く、あくまで国の補助金があって成り立つものでした。
ですが最近ではこの状況が大きく変化しています。
2021年7月には日本経済新聞が「太陽光発電で発電した電気が原子力発電所で作られる電気よりも安くなる」というニュースを出しています。
これまで最も安く発電できるとされていた原子力よりももっと安く電気を供給できるようになるということです。
ここでは、再生可能エネルギーを巡って、エコなどの環境面ではなく価格面で起きている動きについてまとめています。
またグリッドパリティという用語についても解説しています。
現在の日本で作られる電気の元になっている天然ガス(LNG)や原子力発電、石炭燃料と再生エネルギーの価格推移を見てみると、なぜ太陽光発電がこんなにも注目されているかが一目瞭然になります。
2009年頃太陽光発電(太陽光パネル)はとてもコストが高く全く現実的ではない発電方法でした。ですが、技術革新が相次ぎ2020年時点ではその費用は、すべての主要なエネルギー源の中で最安となっています。
設備の建設費、燃料代、保守運用などのコストを含めて算出した1Mwhあたりの電気価格の推移。
この指標は英語でLCOE、日本語で均等化発電原価といいます。Levelized Cost Of Electricityの略です。
ほんの数年前(2017年)に資源エネルギー庁が出した資料を見ると、今なぜこれほどまでに太陽光が騒がれているのかがわかります。
2017年頃はまだ原子力が断トツで安いとされていました。そして太陽光発電は原子力の3倍以上の価格ということで主要電力として全く考えられていませんでした。
このため2011年の東日本大震災により原子力発電所の事故があった後でも日本は原子力発電に頼ろうとしてきました。
この図の一番右端の太陽光(住宅)があれよあれよという間に価格が下がり、原子力の3倍だった価格が、3年後の2020年には原子力同等まで下がったわけです。
いかに日本を引っ張る政治家たちが先を読み切れていなかったかがわかります。
なお2030年には原子力の発電コストのほぼ半額の5.8円まで下がると予測されています(後述)。
太陽光発電の価格が下がるにつれ「グリッドパリティ」という用語を耳にする機会も増えました。
グリッドパリティとは再生可能エネルギーの発電コストが、他の系統の発電コストと同等かそれ以下になった状態を意味します。
グリッド(Grid)とは英語で電力網のことを指し、パリティ(Parity)とは量や質、価格などが同等であるという意味です。
日本でも2014年に太陽光発電の発電単価が、私たちが普段購入している電力会社の電気料金と同等の水準になりグリッドパリティが実現しました。
なお、ドイツ、イタリア、スペイン、オーストラリア、イスラエル、メキシコなどの海外の一部の国は日本よりも3年ほど早くグリッドパリティを実現しています。
太陽光発電がなぜこれほどまでに急速に安くなっているかというと大きく3つの理由があります。
太陽光パネルが太陽の光を電気に変換するときにエネルギーの損失が起こります。この変換するときの効率(変換効率)を上げるため世界のあらゆる機関や企業が研究に励んでいます。
変換効率は太陽光発電に使われる材料によっても異なります。企業によって導入している材料も違います。
下図は太陽光発電に使われる主な材料毎の変換効率の推移です。これを見ると年々変換効率が上がり、よりたくさんの発電ができるようになっていることがわかります。
太陽光パネルは性能が向上するだけでなく価格も大きく下がっています。理由は太陽光発電の需要が増えたことで企業間の価格競争が起こっていることです。
より安く安定的に生産する技術が研究&導入されています。
2001年と比較して1kwの発電に必要な太陽光パネルの価格は7割も安くなっています。
太陽光パネルの価格が下がっただけでなく、設置する際に必要になるパワーコンディショナー(パワコン)などの周辺機器の価格や設置にかかる工事費用も下がっています。
2001年時点と比較して半額以下で設置できるようになっています。
このように、太陽光パネルを設置して運用するまでのコストが下がったことで導入が容易になっています。
変換効率の向上は今も続けられており、世界中での更なる需要増加による大量生産により価格はまだ下がると想定されています。
太陽光発電の価格はどんどんと下がってきています。日本における2019年の実績は1kwh当たりの発電コストは13.1円でした。
ですが欧州では既に2019年時点で7円にまで下がっています。
このような世界の動向もあり資源エネルギー庁の試算では2025年に8.4円、2030年には5.8円まで下がると予測しています。
私たちの生活に直結してくるのはもちろん電気代です。エコという観点も大事ですが実際の購入価格は切実な問題です。
東京電力の電気料金を見ると一般家庭で最も使われる範囲の電気料金は26.5円となっています。
東京電力が発電に最も多く使用している燃料はLNGなどの液化天然ガスです。2030年には太陽光発電はLNGと比較して3円ほど安くなるので、電気料金は1kWhあたり23.5円になる可能性があります。
一般家庭が年間に消費する電気は全国平均で4,322kWhです。このため、年間で1万3千円ほど安くなる想定です。
ただし、大手電力会社の電力構成比が火力発電から太陽光発電にシフトすればの話です。
▼東京電力の電気料金表(従量電灯B)
電力消費量(kWh) | 1kWhあたりの値段 (円・税込) |
---|---|
120kWhまで | 19.88円 |
120kWhを超えて300kWhまで | 26.48円 |
300kWh以上 | 30.57円 |
▼TEPCO 東京電力の電力構成
▼経済産業省 2030年の各種エネルギーによる発電量の価格予想
▼環境省 一般家庭のエネルギー消費量
今後の最善の選択肢としては、太陽光パネルを屋根などに設置し、発電した電力を蓄電池に貯めて自分たちでそのまま消費してしまうことだと考えられます。
これまで、太陽光発電は固定価格買取制度(FIT)を利用して売電し収益を得ることが目的で進められてきました。
ですが、そのFIT制度も価格がどんどんと下がり売電するメリットは少なくなっています。
元々30円台で買い取りされていたものが、今では10円台まで落ち込んでいます。
この状況とは逆に、太陽光パネルや蓄電池の価格は下がり続けているので、住宅の屋根に設置する費用は安くなっています。
また、効率が上がっているので、屋根の上という限られた範囲でもより多くの電気を生み出すことができるようになっています。
自分たちで発電をして、発電をした電気を自分たちで使うようにすればもっとも経済的に暮らすことができます。
なにより、LNGや化石燃料などの二酸化炭素を排出する物質や、原子力といった危険な人口物を使わないので、環境にも配慮し、持続可能な世界へとつなげていくことができます。
時代は政府や発電所など大きな機関にお任せして管理する時代から、個々人が対応できる時代へと生まれ変わりつつあります。
この記事は環境省 気候変動対策検討委員の山口豊さんが書いた「再エネ大国日本への挑戦」の内容の一部を引用&参考にしたものです。
本書は他にも再エネの細かい事例や日本で起こっている災害の状況が記されていてとても魅力的な内容となっています。
本記事に少しでも興味を持たれた方は実際に手に取ってみることをお勧めします。
また、元外務省本省の外交官である「世界一脱炭素に熱い魂」こと、ゆーだいさんが運営するエナシフTVもとても参考になり面白いのでぜひご覧になってください。