少子化や高齢化により人口が減り続けている日本では、地方の過疎化が進み向こう数十年の間に消滅してしまうリスクが高い農村が増えています。
地方移住が叫ばれ、メディアでも地方移住がトレンドとして取り上げられていますが、実態は東京、神奈川、埼玉、千葉の人口が増加し、地方の県の人口が減少しています。
そんな中、岐阜県の山奥にある人口270人ほどの小さな石徹白集落(いとしろ)で、地域にある豊富な資源を活用した取り組みが話題になっています。
ここでは石徹白集落の取り組みについて簡単にまとめています。
石徹白集落はもともとは村でしたが、合併により今では和泉村に取り込まれています。
1960年頃までは人口1,200人・200世帯を超えるほど人が住んでいましたが、高度経済成長以降に人口流出が続き、2018年には人口246人・110世帯まで減少しました。
65歳以上の割合も約50%と過疎化が進行している地域です。
大正時代、各地で電力網が整備されていく中で、石徹白村は山間にあるため電力が来ませんでした。
そこで、集落の人たちがみんなでお金を出し合って1924年(大正13年)に水車による発電機を作りました。
食べるモノを自分たちで作り自然と共存して暮らしていた村だからこそ、エネルギーの自給も自分たちでと考えて作られたものです。
集落でエネルギーを自給する取り組みは最近でも続いています。
地球温暖化が問題視されていく中2007年に水力発電のプロジェクトが立ち上がり、2009年には道路わきの水路を利用したらせん型の小水力発電機の建設が行われました。
発電量は0.8kwで一般家庭一世帯分の電力を供給することができ、10年以上止まることなく動き続けています。
ただし、この小水力発電機には「電線で電気がきてるのに意味ない」「お遊び」といった批判の声もありました。
そういった空気を換えたのが、上掛け水車を使った発電機です。上掛け水車とは上から水をかけて、落下する水の力で水車すものです。
費用は700万円と決して安いものではありませんが、もともとある農業用水を利用し2.2kwをすることができます。一般家庭3世帯分ほどの電気になります。
これが隣にある農産物加工場のトウモロコシ加工機や果物をドライフルーツにする乾燥機の電力として使われています。
この水車がシンボルとなり石徹白集落の取り組みが取りざたされ、年間500人以上の人が見学に来るようになりました。
外部の人がその存在を認め足を運ぶようになったことで、地域住民の水力発電に対する意識も変わり始めました。
見学者がお昼を食べる場所がなかったため、新たにカフェがオープンしたり、水車見学がきっかけで移住してくる人も現れるようになりました。
移住者が増えたと言ってもその数は4世帯ほどで決して多くはありません。それよりも高齢化により亡くなっていく人の方が多く、人口減少のリスクは依然として続いています。
そんな中で、2013年に地域にある豊富な資源を使って循環型の水力発電を新たに設置する取り組みが行われるようになりました。
この計画は2億4千万円のより大きな小水力発電所機を導入するものです。
費用を捻出するために、発電専用の農協を立ち上げ、それを拠点として地域一丸となり事業を進める構想です。
このプロジェクトが提案されてから、1年間にも及ぶ熱心な議論のあと、自治会長や発起人メンバーを中心として全住民を説得し、地域の全世帯に出資を呼び掛ける形で集まった800万円の資金をもとに小水力発電建設のための農協がようやくできあがりました。
農協ができたことで、県と市から1億8000万円の補助金が交付され、日本政策金融公庫から4000万円の融資と、石徹白自治会の基金からの2000万円の融資でいよいよ建設が始まりました。
建設した発電所は125kwの発電量があり、約130世帯の電力を賄うことができます。
発電した電力は全て電力会社に売電し、その収益は年間2,400万円にも上ります。
収益はすべて地域に還元され、融資金の返済に充てられ、余った分は地域の公共施設の電気代に充てたり、荒れ果てた耕作放棄地を整備して農地に戻すことに使われています。
そうして整備した土地でトウモロコシの生産を行っています。
トウモロコシは寒暖差が激しいほど甘くなります。石徹白はまさにトウモロコシの生産に適した地で、ここで作られたトウモロコシは生で食べられるほど甘いものです。
販売戦略は農協などの流通にのせず、ネットか直売所のみでしか購入できない貴重品のため、販売後すぐに売り切れるほどの人気があります。
石徹白集落は人口が300人に満たない小さな地域ですが、そんな地域でも大きな注目を集める事業をすることができます。
人口と豊富な資源は比例せず、むしろ人口の少ないところにこそ、これからの時代にあったエネルギー資源がありあまっている状態です。
新たな取り組みを進めるには全員の合意というのはありえません。一人が発起人となり少人数でまとまって事業を推し進めていく。
そして、成功してからその後でみんなの合意がついてくるのが成功事業のモデルになります。
身の丈に合わない大規模な建設を行ったり、補助金のみに頼った事業はあちこちで失敗し赤字を生み出しています。
そんな中で、石徹白集落のスモールスタートで自分たちで出資して責任を負いながら事業を進めていく形は貴重な成功事例となっています。
この記事は環境省 気候変動対策検討委員の山口豊さんが書いた「再エネ大国日本への挑戦」の内容の一部を引用&参考にしたものです。
本書は他にも再エネの細かい事例や日本で起こっている災害の状況が記されていてとても魅力的な内容となっています。
本記事に少しでも興味を持たれた方は実際に手に取ってみることをお勧めします。