ヨーロッパを中心とした世界の脱炭素の動きに合わせ、日本も2030年に温室効果がガスを46%削減し(対2013年)、2050年にはカーボンニュートラルを実現するという目標が打ち出されています。
特に注目されているのが、太陽光発電やバイオマス発電といった再生可能エネルギーによる発電です。
そんな中で自治体を上げてバイオマス発電に取り組み、事業として成功させている地域があります。
それが、岡山県 真庭市(まにわし)です。ここでは真庭市の取り組みを簡単に紹介しています。
「バイオマス」とは動物や植物などの生物資源の量という意味です。実用的には単に動植物由来といった意味で使われます。
バイオマス発電とは動植物由来の燃料(バイオマス燃料といいます)を使って発電することです。
生活の中で出る木屑やゴミ、廃油などの廃材を原料として燃やし、発生した熱を蒸気などの力に変えてタービンを回すことで、電気を生み出す仕組みです。
真庭市は鳥取県との県境にある市で、岡山県で最大の面積があります。そのうち80%が森林で6割がスギやヒノキなどの人工林です。
真庭市でバイオマス発電が始まったのは30年以上も前に遡ります。
当時は市などの自治体ではなく、地元の製材業者の中島さんが小さなバイオマス発電所を建設したのが始まりです。
今では考えられませんが、1980年頃は木材の需要が高く、価格が高騰する木材バブルが起こっていました。
中島さんは不足した木材を補うためにカリフォルニアの小さな製材所に立ち寄った時に、発電機があり、小規模の製材所で発電ができることに驚きを感じました。
製造所で出る大量の木くずの破棄に困っていた中島さんは、発電機を自社でも導入することを決め、バイオマス発電所を製材所内に建設しました。
1984年に初期投資は約2億円で導入した175kwの発電機の役割は次の3つです。
夜間の製造所の電力を賄えるだけの発電があり、夜間の電気代を浮かせることができました。
初期投資は大きかったものの2年で元が取れるようになりました。
初期に導入した発電機は小型で製材所の電力を一部しか賄えず、その発電機をまわすのに必要な燃料以上に木くずが発生していたため、4年後の1998年に新たに大型の発電機導入に踏み切りました。
銀行を説得し10億円の融資を受け、2000kwの発電所を製造しました。これで製造所の100%の電気が自社で作れるようになりました。
当時、製材所に必要な電力は1200kwだったため余った800kwを電力会社に売りに行ったところ、1kw 2円というとても安い価格でした。(1,600円/時 → 38,400円/日)
ですが、時代の流れとともに再生可能エネルギーへ注目度が高まり、2003年に電気事業者に一定割合以上の再生可能エネルギーの利用を義務付けたPRS法が制定されました。
これにより1kwあたりの買い取り額が2円から8円まで上がり、余った電気を売電することになりました。(9,600円/時 → 230,400円/日)
製材所での発電機が堅調な事業になったことで、真庭市や製材組合からの出資を受け、新たに会社を設立し(真庭バイオマス発電株式会社)、2015年に1万kwを超える日本有数の大型発電所を建設しました。
▼真庭バイオマス発電所
発電所の建設費は総額41億円というとても大規模なものです。
そのうち、23億円は銀行などの金融機関からの融資、14億円は農林水産省(国)からの補助金、2.6億円は真庭市からの交付金で進められました。
発電に必要な木材の量は1日当たり300~350トンという膨大な量の木材です。
そういった木材は真庭市の山で放置されていた間伐材や、間伐しても枝や木などは使い物にならず捨てられていた未利用材を使いました。
画期的だったのは、森の所有者や製材所の方に持ち込んでもらうために設定した買い取りシステムです。
未利用材は1トンあたり3~5千円で買い取とるようにし、更に山の所有者の意欲を引き出すために、所有者にも1トンあたり500円支払うという仕組みにしました。
結果「山に捨てられたものがお金になる」ということで木材がどんどんと持ち込まれるようになり、合せて荒れた森の間伐や整備も進むようになりました。
未利用材の買い取りにかかる費用は14億円ですが、売電収入が24億円得られるため十分に賄えます。
何よりもお金が地域で循環する仕組みが出来上がったことが大きな利点です。
これまで電力は外から買っていました。そしてその原料は海外の産油国から買い付けていました。これでは市や国内からどんどんとお金が出ていく状態です。
ですが、自分たちのエリアで自分たちで使う電力を作ることで、お金が地域内でクルクルと循環する仕組みになっています。
更に森を荒れて自然災害を引き起こす原因になっていた森の整備も進みwin-winの事業となっています。
真庭バイオマス発電株式会社では木材を活用する取り組みとして、バイオマス発電以外にCLTの生産工場も建設しています。
CLTとは木材を交互に重ね合わせて作った巨大な木製パネルです。
Cross Laminated Timberの略でオーストラリアを中心として発展した木材の技術で、世界の建築物に使われています。
木というと折れやすく燃えやすく、コンクリートよりも弱いという印象が一般的ですが、CLTは震度7の揺れでも耐えることができ、かつ火にも強いという、木とは思えないほどの性能を持っています。
巨大なパネルなので施工も簡単で、コンクリートよりも軽いという特徴があります。
断熱性はコンクリートの12倍で家の中を温かくあるいは冷たく保つ機能に優れています。
ただし、ネックは価格で日本では1m3あたり15万円ほどします。
ヨーロッパでは既に6万円台まで下がっているため、今後国内でも生産の効率化や技術革新により価格を下げることができれば広く普及する可能性があります。
このように真庭市はバイオマス発電だけでなくCLTなど、地域にある豊富な資源を使った新しい取り組みを手掛けている魅力的なエリアです。
この記事は環境省 気候変動対策検討委員の山口豊さんが書いた「再エネ大国日本への挑戦」の内容の一部を引用&参考にしたものです。
本書は他にも再エネの細かい事例や日本で起こっている災害の状況が記されていてとても魅力的な内容となっています。
本記事に少しでも興味を持たれた方は実際に手に取ってみることをお勧めします。