新しい事業を立ち上げて地域を活性化させたいと願っている人はたくさんいます。それは民間のビジネスだけでなく、地方自治体や国も同じです。
地方自治体や国は地方創生のために予算をとりたくさんの税金を補助金として割り当て、様々な事業を展開してきました。
そしてその事例を成功事例集としてまとめています。
ですがその中には、成功事例として取りだ足されていたもののよくよく深堀りしてみれば実は大赤字を垂れ流す損失事業だったという事例が含まれています。
「政府など正式な機関が発行しているから間違いない」と思い込んで、このような偽りの成功信じて真似てしまうと次から次へと負の連鎖が発生していきます。
ここでは、なぜそのような失敗事業が成功として取り沙汰されてしまうのか?という理由と、そういった事業の見分け方や本物の成功事例を紹介しています。
偽りの成功事例になりがちなのは行政主体で進んだ事業です。
行政は民間企業以上に失敗にシビアな面があります。一般企業が失敗した場合、損失はその企業が被ります。
ですが行政は税金を使って運営している以上、無駄な政策にお金をつぎ込んだり、事業を失敗させれば、メディアなど各方面から袋叩きにあいます。
このため見せかけでも成功しているように見せる必要があります。特に超大金をつぎ込んだ目玉事業ほど成功しているように見せなければいけません。
このため、メディアなどが注目しているタイミングなどは多額の予算をつぎ込み成功しているように見せかけます。もちろん成功事例集にも掲載します。
ですが、一時のブームや担当者が去ると予算が打ち切られ実態が明らかになってきます。
実際は巨額の負債を抱えている失敗事業にも関わらず、成功例として取りざたされた行政主体の事業を2つ紹介します。
岡山県津山市に1999年4月にオープンしたアルネ津山という巨大複合施設は、津山市主導で行った地域再開発事業です。
このプロジェクトは開発費が270億円もかかる超巨大なものでした。津山市だけの力では開発しきることができず、国の補助金など多額の税金を使って建設が行われました。
ですが、いざ出来上がってみると数億円の工事費支払いが滞っており、数年単位の裁判が行われたり、思った以上に売り上げが伸びず自治体が介入せざるおえなくなり、市長がリコールされる騒ぎになるなど大きな問題を巻き起こしました。
施設の維持費の負担は今も自治体が行っており、その分、市民に十分な行政サービスができない状態が続いています。
このような超お荷物事業も開発時や開店当初はメディアなどで大きく取りざたされ、国からも評価され素晴らしい成功事例として評されていました。
青森県青森市に2001年1月にオープンしたアウガという複合施設は青森商工会議所が発端となり、青森市を巻き込んで作られました。
総事業費は約184億円という大金です。オープン当初からテナント収入が十分に入らず赤字を垂れ流しました。
2008年には運営会社の負債の一部を青森市が買い取ることで、青森市の財政を圧迫する要因にもなりました。アウガのせいで市長が辞任するにまで至っています。
最終的に約27億円もの赤字を計上し、2017年にテナントは全店撤退しました。
しかし、建設時から「コンパクトシティ」というオシャレなコンセプトや「都市機能の集約」「地方都市の再生」といった美的なストーリーが取りざたされ、全国から視察が殺到し、成功事例として取り上げられていました。
成功事例集に載っている事例が実は偽りで大失敗である可能性があることは理解しておく必要があります。
それと同時にもう一つ注意すべきことは「失敗は共有されない」ということです。
過剰なほどに脚光を浴び、成功としてもてはやされたアルネ津山やアウガは、フタを開けてると赤字を垂れ流す特大の大失敗事業でした。
その失敗がオープン前ほどの注目を浴びることはありません。成功事例集からしれっと抜けて終わりです。
それには大きく2つの理由があります。
民間と違い公務員は数年単位で人事異動があります。このため、建設当初から最後の最後までずっと面倒を見続ける担当者は存在しません。
その結果、責任の所在が明らかにならず、「なぜ失敗したか」の引継ぎもされないことが当たり前のように発生します。
大規模な赤字施設を建設して多額の税金をドブに捨てたにも関わらず「私が主担当ではない」「よく知らない」で終わります。
何より公務員として安定した地位を確保したり出世していくために過去の失敗はお荷物でしかありません。
自分が降格するリスクまで背負ってその「私は過去に大きな失敗を犯しました」と公表する人はいません。
それは公務員によらずほとんどの人がそうです。オープン当初に成功事例として取り上げたマスコミの記者や、それを成功事例として地元に持ち帰った人たちも「私が間違えていた」と自ら発表する人はいません。
むしろ、葬りさりたいと願っている人の方が多いかもしれません。
なお地方自治体が絡んだ事業の失敗によって大きな被害を被るのは地元の住民です。税金が赤字の補填に使われるため、本来充実すべきサービスや公共事業にお金を回すことができなくなってしまいます。
過去の成功事例が実は偽りであったことが公表されない以上、自分で見抜く以外に方法はありません。
見抜き方は比較的簡単で一歩踏み込んで次の5つを調査すればわかります。
特に、最初の2つのポイントでアルネ津山やアウガといった巨大な赤字事業は見抜くことができます。
紙の上での計算で上手くいったからといって成功事例として鵜呑みにすると危険です。一時期はブームで盛り上がっていただけで、現在は衰退傾向にあることもあります。
最後は実際に自分の足で見に行って、感じた感覚が「これだ!」なのか「うーん、微妙」「廃れそう、、」で判断することも大切です。
本物の成功事例かどうかを判断するときに「美しいストーリー」には注意する必要があります。
人の性質として、平凡な日常に苦悩があり、大きな変化を起こしてその苦悩を改善するとうストーリーは心が動かされるものです。
ですが、心が動くのと実態の数値が伴うのは別の話です。
もちろん、「地域の活性化」「地産地消」「地元のモノが売れる」「人が来る」「経済力が上がり暮らしが豊かになる」などの美しいストーリーを否定する必要はありません。
ただストーリーには2つの注意点があります。
一つの政策で現在抱えているすべての問題が連鎖的にキレイに解決していくことはありません。
例えば、巨額を投じてコンパクトシティを建設することで「テナントが集中してテナント料が入り、人が集まり、町に活気が溢れ、財政が潤い、人々の暮らしが豊かになる」という万事上手くいくストーリーは要注意です。
そもそも入るテナントがあるのか?人がわざわざこの地域までくるのか?という問題があります。
また、ストーリーは事業と関係ない人や行動をしない人でも語れるものです。人を感動させるのと、実際にモノやサービスがよくて、長期的に使ってもらえるかは別の話です。
実績と数値が伴っているかを確認する必要があります。
巨額投資をして一つのことですべてが上手くいくのであれば誰も苦労しません。
上手くいっていることをだんだんと大きくしていくというストーリーは現実にありえますが、巨額を投じたから上手くいったという例はほとんどありません。
大成功することよりも大失敗をしないことの方が大切です。事業は地道な努力を積み重ねて少しずつ大きくしていくことが鉄則です。
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