多くの人が「学ぶ」や「勉強」という言葉を聞くと、仕事で何か新しいスキルを学んだり、本を読んだり、セミナーに参加することだと思い込んでいます。
ですが人が学びを得るのはそこだけではありません。時に本を読んだりセミナーに参加するよりも大きな学びを与えてくれるのは「人と話すこと」です。
なぜなら、私たちは、日々の会話の中で、自分の経験を振り返ったり、将来何をするべきかを考えることができるためです。
そして、そこで得た気づきは、自分の行動や生き方に直結します。
お金を払って本を読んだり、セミナーに参加すれば全ての人が翌日から行動をスパッと変えられるわけではありません。むしろ、それをやっている時は「うんうん、そうだよな」と言っておいて、翌日になると、またいつもの日々に逆戻りといったことは少なくないでしょう。
人と話すことが更に素晴らしい点は、時間が短くても効果があるということです。本を1冊読もうとしたり、セミナーに参加すると移動時間なども含めて数時間あるいは、数日かかるのが普通です。
ところが、人との会話は30分や1,2時間話しただけでも、自分の行動を変える学びに変えることができます。しかも無料です。
学びの効率を最大化するために重要なテクニックがあります。それは「邪魔者は今の思考」ということを理解することです。
人と話すときに学習の邪魔しているのは、今の自分が持っている固定観念や、先入観、偏見、妄想、思い込みです。
人は誰でも生まれ育った環境の中で「~が当然」「~であるべき」といった思考を持っています。これらは、他の環境に行ったら変化するもので、絶対的な解ではありません。
「~が絶対だ」という考えを持っていると、相手から学ぶどころか、気づきや学ぶ機会や拒み、相手との関係性をも壊すことになります。
学習の機会を損失するもっとも大きな固定観念の一つに「答えは1つ」というものがあります。これは、日本の学校教育のように絶対的に正しい1つの回答があるという教育による弊害です。
ですが、答えは1つではありません。特に人が関わる社会であればあるほどそうです。
例えば、日本では他人の家にあがるときに靴を180度回転させてつま先を外側に向けます。これはマナーで礼儀正しさです。ですが韓国で同じことをすると「早く帰りたい」という意味になり、相手に対して失礼な行為になります。
これはどちらが良い悪いというものではなく、教育や文化の違いでしかありません。
もし「人様の家に合がある時は靴を180度回転させるべきだ」と頑なに思い込んでいれば、韓国は違うという考えを受け入れることができず、「だから韓国人は」といった批判になってしまいます。これは固定観念や先入観により、異文化を知るという大切な学習機会を損失したことを表しています。
ですが「邪魔者は今の思考」で、自分の固定観念や、先入観、偏見、妄想、知らないことが新しい学びの機会を邪魔していると考えていれば、「なるほど韓国ではそうなんだ」という学びを得ることができます。
「答えは1つ」という思い込みが強い人が集まると、解決ができない強い対立が頻繁に発生します。
それは「答えは1つ」という間違った思い込みにより、「私の回答の方が正しい」「あなたは間違っている」というYES or NO のどちらかで事象を捉えてしまうためです。
世の中の数ある選択肢は「~が絶対に正解」というものは何一つありません。どんな選択肢にも必ずメリットとデメリットがあります。
解決することのできない意見の対立が発生するような場合、メリットデメリットの割合が非常に近しいことがほとんどです。
例えば次のような3つの選択肢がある場合を考えてみます。
A: メリット51%、デメリット49%
B: メリット50%、デメリット50%
C: メリット49%、デメリット51%
数値だけを比較すれば、一番メリットが大きいのはAです。ところが、実際にそれぞれにどのぐらいのメリデメがあり、どれを選択するかという議論になると、1%単位で正確なメリデメの判断をすることは不可能です。やろうとしたら膨大な時間がかかり、それこそが大きなデメリットになります(しかも答えは出ない)。
しかも、そのパーセンテージは社会情勢、どんな人が集まっているかといった一瞬一瞬のタイミングでコロコロ変わります。
かつ、Bの案でも50%のメリット、Cの案でも49%のメリットが得られます。つまりどれを選択してもそれなりの成果が得られるということです。
このように、私たちの考えは100%ではなく、常に様々なグラデーションで分かれていることを理解することが、様々な学び、選択肢の幅や意思決定につながります。
この世の選択肢は「51%のメリットと、49%のデメリットでできている」と理解し、常に自分の思考のアップデートを続けることが人との会話の中から学びを得るための秘訣です。
固定観念や、先入観、偏見、妄想などの思い込みが激しく、学ぶのが下手な要注意人物は、残念ながら、自分たちではその事実に気づいていません。
そういった人たちは自分の意見とは合わない他人の意見を拒絶したり攻撃したりします。
特に次のように言われる人は要注意です。
相手は配慮してオブラートに包んでいますが、あなたの思い込みが激しすぎるというメッセージです。
また次のような言葉を使う人は、学びの機会を失っている人です。
こういった言葉を使っている場合は、「自分が固定観念や思い込みの罠にはまって、学習機会を失っている」と自己認識することが重要です。
人と話すことで学べるのは、相手の発言からだけではありません。自分が発した言葉からも学びを得ることができます。
例えば「~がいいよ」と言った場合、それは本当に相手のことを思ってなのか?それとも自分を良く見せたいからなのかを内省することができます。
自分が「話したい」と思ったことを話せなかった場合、「あっ、私はこの自己表現ができないんだ」ということを学べます。
逆に、「あっ、こういった言葉はスラっと言えるんだ」ということも学べます。
「あっ、今の自分ってこう考えてるんだ」「~ができないんだ」「~ができるんだ」という気づきは立派な学びです。
人との会話は自分が気づき学ぶこともできますが、相手に学びを促すこともできます。
相手に学びを促す効果が高い方法に「挑発」と「質問」があります。
会話をしている時に、「なんか元気ないですね」「やる気が感じられないな」「その程度ですか?」と言った言葉で相手を挑発すると、「なにくそ」という反骨心が芽生えて、モチベーションや集中力が上がります。
結果として、気づきや学びにつながります。
ただし、挑発が効果的なのは相手との信頼関係が築けているときです。「この人は私を良い方向に導こうとしている」「私の成長を促そうとしている」と感じれるときに効果を発揮します。
そうではなく、相手があなたに好感を抱いていないと「ムカつく」「うるさい」「バカにするな」「見下すな」といったストレスにつながります。行動を促すかもしれませんが、人間関係はさらに壊れます。
「人生で一番感謝していることは何ですか?それはなぜですか?」といった質問を投げかけると、相手はそのことについて自分を振り返り考え、回答します。
そのようにして自分を振り返り答えたことは「気づき」です。「わたしはあの出来事に価値を置いているんだ」ということを再認識します。
そして、質問した側も相手が何に価値を置いているかを知ることができます。
この記事の内容はモルガン・スタンレーやGoogleで人材育成や組織開発を率い、自身も起業家であるピョートル・フェリクス・グジバチさんの著書『世界最高のチーム グーグル流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法』の一部要約に個人的な見解を加えたものです。
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