他の人と関わる人間社会の中で充実した人生を送るためには、他人から好かれることはとても重要です。
周りにいる人たちから好感を抱いてもらうことができれば、仕事もプライベートも円滑に進みます。
一方、周りにいる人から嫌われたり、仲間外れにされたり、疎まれれば、人生は苦難に満ちたものになります。
つまり、現代社会で生きるためには人から好かれるというのは、とても重要な生きるための術ということです。
人から好かれる方法は様々ありますが、その中でもひときわ協力なのが「類似性」です。私たちは自分に似ている人を好むということです。
共通する趣味や、共通する好みなど類似性があればその人を好きになることはほとんどの人が理解しています。
ただし、多くの場合、その力を軽視しています。類似性の力は私たちが思っている以上に自然に働き、そしてとても強力です。
ある研究で大学のキャンパスで学生に対して募金を依頼したときに、学生と似たファッションをしているときとそうでないときに募金してくれる割合がどの程度変わるかを調査しました。
その結果、学生と似たファッションをしている場合は約70%、そうでない場合は50%以下という結果になりました。
結婚といえば人生の中でもとくに大きなイベントの一つです。このため、誰もが真剣に結婚相手を探します。付き合うとは別次元の真剣さです。
そんな結婚相手を選ぶ時にかなり重要視されるのが「類似性」です。
例えば、大学から東京に出た人が結婚相手として選んだ人の理由は「出身地が同じだった」や「趣味が同じだった」といったたった一つの類似性であることも少なくありません。
東京でたまたま地元が同じ青森の人と知り合って、親しみを覚えて、そのままどんどんと深い関係になっていった。
山登りが趣味で、それでたまたま一緒に山に登って、そこからどんどんと親しくなっていったといった話はよく耳にするものです。
もしあなたが医者から「重い腎臓病の患者の中から次に手術するべき人を選んでください」と言われたらどするでしょうか?
「そんな重い決断決められないよ」と悩むのが普通だと思います。人の命がかかっているのです。
アメリカで行われたある調査では、そのような質問をし、助けるべき人を順位付けしてもらったところ「自分と同じ政党を支持している患者を選ぶ」という結果になりました。
つまり、命がかかっている場面ですら、その決定要因に類似性が大きく作用するということです。
類似性のポイントは「類似性によって生まれる好意は、無意識的に生まれる」ということです。論理的な思考ではなくて、類似点を見つけた瞬間に自分の内側から湧いてきます。
ある実験で、反戦デモに参加している人たちに署名を依頼するときに、彼らと似た服を着ている場合と、そうでない場合に署名をしてもらえる割合がどの程度変わるかを調べました。
その結果、似たような格好をしている人に依頼された場合の方が署名してくれる割合が高まりました。
更に驚くべきことに、そういった人たちのほとんどが署名するときに内容を読まずに署名をしていました。
つまり、服装が似ているというたった一つの類似性だけで好感を抱き、自動的に協力してくれたということです。
類似性は自然発生的に生じる人間の性質であるため、ビジネスでも頻繁に利用されます。
できるセールスマンは相手との会話の中や、相手が身に付けているもの、相手の家などから類似性を探します。
例えば車が趣味であることが分かれば、相手の車を褒めて「自分も車が好きなんですよ」と言って車の話を始めます。
出身地を聞いたときにそこに住んだことがあれば、宝物でも探し当てたように「私もそこに住んでたことがあるんですよ」と伝えます。
「出身地に住んでいたことがある」というのは取るに足らない類似性のように感じるかもしれませんが、こういった小さな類似性ですら効果を及ぼします。
ある研究で保険会社の販売記録を調べたところ、販売員の年齢、宗教、喫煙の習慣がお客さんと似ている場合は、保険の契約率が高いことがわかっています。
重要なのは小さな類似性を地道に積み重ねていくことです。
ほんのわずかな類似性でも効果がある実例として、ある保険会社で郵送のアンケートへの協力を依頼したときに、差出人の名前を受取人に寄せただけで回答率が約2倍になるという結果が得られました。
例えば、「佐藤 優花」さんにアンケートを依頼するのであれば、差出人の名前を「斉藤 優子」さんにする。「田中 翔太」さんに依頼を出すのであれば、差出人の名前を「田畑 翔平」さんにするといった感じです。
類似性により好感を抱く力は、私たちヒトがもつ性質の中でもかなり強力なものです。
私たちに類似した人を好む性質があったからこそ、太古の昔にヒトという種族は、一匹狼としてではなく、集まって生活することができました。
その結果、単体で生きている動物がどんどん絶滅していく中でも、人はその数を更に増やし現代で力をふるっています。
一方、現代ではこの強力な力を悪用する人たちも出ています。
ねずみ講のように誰かをハメてモノを買わせようとしている人たちや、体目当てで寄ってくる人たちは、相手からの好感を得るために、いたるところで類似性を使っています。
「私たち似たもの同士ですね」という言葉や、ときには身振り手振りを真似るミラーリングという手法まで取り入れています。
ただし、類似性はほんとうに良いモノを売ろうとしている人たちも使いますし、大手企業の販売研修でも指導されています。
「類似性を訴えてくる人」=「悪」ではないが、「悪の可能性もある」ということを覚えておく必要があります。
あまり人を疑いすぎるとあなたが自身が嫌な人になってしまうので注意が必要です。類似性の力は過小評価されやすいということを覚えておくといいでしょう。
「この人好きだなー」や「苦手だなー」と感じる直感を大事にすることが大切です。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。