私たちヒトには返報性の法則という性質があります。「何かをもらったら、お返ししなければいけない」という感情のことです。
自分がやった行いはブーメランになって返ってくるという言葉を耳にすることがありますが、これはこの世の中に返報性の法則が強く根付いていることを表しています。
とはいえ返報性の法則の力をそこまで信じる気にはなれず「何かを与えれば返ってくるって本当?」と思っている人も少なくありません。「与えたらそれだけ自分が損をする」と思い込んでいるひとも多くいます。
ここでは、返報性の法則が私たちにとっていかに強力かを解説しています。
私たち人類は個人個人を見るとそこまで体が大きいわけでもなく、体力や力に優れているわけでもありません。私たちよりももっと力強く強力で獰猛な動物は地球上にたくさんいます。
ですが私たち人類は地球上で生態系のピラミッドの頂点に立ち好き放題に物事を行っています。
なぜこれほどまで人類が強力な地位を築けたかという理由の一つに「返報性の法則」があります。
何かを貰ったり施しを受けたら、その分こちらも働く。誰かが何かの技術を提供して世の中を良くしてくれたら、自分も技術を世の中に提供してもっと良くするという行動をとれたからこそ、人々が相互で成長し発展を続けてきました。
もし私たちに返報性の法則がなければ、何かを貰ったらそれっきり。自分の得になるように使って相手には何もお返しをせず、そこで関係性や向上が途切れてしまいます。
それでは人類はここまで発展することはできなかったでしょう。
つまり、私たちヒトに「返報性の法則」が本能として強力にプログラミングされていたからこそ、今の私たちがいるということです。
私たちがヒトである限り、返報性の法則は自動的に発生するもので切り離すことはできません。
私たちは何かをしてもらったときに「ありがとう」以外にも「すみません」という言葉を使います。
これは「何かをしてもらって申し訳ない」という気持ちです。これこそが返報性の法則の正体です
申し訳ないと感じたということは借りができたということです。そしてできた借りはいつか返さなければと自然と思うものです。
つまり返報性の法則とは、私たちの中に自然と生まれる「義務感」ともいえます。
返報性の法則は信頼関係を築くうえでとても重要な要素です。
仮にあなたが相手に対して何かをしてあげたときに、相手が「ありがとう」「すみません」も言わずに「当然でしょ」という態度だったらどうでしょうか?
イライラするはずです。そして今後はその人のために何かをしないと心に誓うはずです。
つまり、人と人が信頼関係をつくって生きていくためには、返報性という私たちに組み込まれたシステムが大きな枠割を担っているということです。
返報性の法則の持続時間は「どんなときにどんなことをされたか」という内容で変わります。
些細なことをしてもらった程度であれば、時間経過とともにお返しをしなければいけないという返報性の義務感は薄れていきます。
例えば、普通に暮らしていて十分満ち足りているときに更に追加で食べ物をもらっても、それなりの恩義しか感じません。
一方、とても困っていたり、困窮しているときに手を差し伸べてもらった場合は、相手に対して非常に長い返報性の義務感を抱きます。
ある会社の部長はいつものように遅くまで仕事をした後、同じ部署の人がみな帰って一番最後に帰宅するところでした。
その日はとても寒く駐車場が凍っていました。車のタイヤがツルりと滑って運悪く溝にハマってしまいました。自分ではどうすることもできません。
もう部署にはだれもおらずどうすればいいかと途方に暮れていました。
その時、別の部署のある社員が通りかかりました。そして車を引っ張以りだすのを手伝ってくれました。
それから半月ほどしたとき、人事関係の仕事をしているときに自分を助けてくれた社員が、重大な違反者のリストに載っていることに気が付きました。
先日の出来事で恩を感じていたため部長はその人のために社長と話をする役を買って出ました。
その社員は日を増すごとに社内での悪評が強くなっていますが、部長は今でもその人に感謝の念を感じています。
1890年にトルコの海軍少将を乗せた親善大使たち約700名がエルトゥールル号という船に乗って日本にやってきました。
その帰り道、エルトゥールル号は台風に遭って座礁し、侵入した海水により大爆発が起こり、約600名が死亡するという大惨事が発生しました。
事故に気付いた日本人は夜を徹して不眠不休で救援活動を行いました。そして69名がなんとか一命を取り遂げ、無事にトルコへと帰っていきました。
そこから約100年後の1985年イラン・イラク戦争が勃発し、サダム・フセインがイランを無差別攻撃するという発表をしました。
そのときイランには215人の日本人がいました。日本人はなんとか脱出しようと試みましたが、飛行機はすでに満員でイランに取り残されてしまいました。
どうしようもないと思っていた時、トルコから救援機が2機かけつけ、215名全員を救い出しました。
トルコ政府はこのときのことを「エルトゥールル号の借りを返しただけです」と言いました。
これは、命をかけて助け出した返報性の義務感が、対象となる相手本人を超えて国家間にまで及び100年という長い月日の間保たれ続けたことを示しています。
つまり、返報性の法則とは人種を超えて、時には相手本人を超えてその周りの人たちを巻き込み何年間も続くほどの力を持っているということです。
返報性の法則には大きな注意点が2つあります。
返報性は人と人との信頼関係と強く結びついているため、何かしてもらったことに対してお返しをしない人は信頼を失い嫌われることになります。
もう一つの重要な特徴は、相手が強い恩義を感じてお返しをしようとしたときに、それを受け取らない人も嫌われるということです。
お返しを渡そうとしてるのに、頑なに「いりません」と言い続ける人は、感謝されるどころか、むしろ嫌われてしまいます。
相手が抱える「お返ししなければいけない」義務感は不快なものです。常に「お返ししなければ」という気持ちに駆られるので、胸がザワザワしてできれば早く解放されたいものです。
それを受け取らなければ、相手はずっと不快なままで居続ける結果となるためです。
返報性の法則の注意点を理解して上手に使うためには、相手からの恩義を受け取って、追加で渡すことが最善策となります。
このルールはパキスタンの結婚式の制度から学ぶことができます。
パキスタンの結婚式では、招待客に対して6つの引き出物を用意します。引き出物を渡すのは日本も同じですが、その渡し方が異なります。
パキスタンの人は来てくれた人に、5つの引き出物を渡して「この5つはあなたのものです。これらはこれまでにあなたがくれたものに対するお返しです」と伝えます。
そして、最後の一つをそこに加えて「これは私たちからの贈り物です」と伝えます。
こうすることで返報性の法則を途切れさせることなくクルクルと上手に回すことができます。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。