ラポール(rapport)とは、互いに信頼し合い、心が通じ合っている状態を示す言葉です。簡単に言うと「信頼関係がある」ということです。
語源はフランス語で「橋を架ける」という意味の心理用語です。カウンセラーが患者さんと信頼関係を築くことを「ラポールを築く」といいます。
カウンセリング業界だけでなく、職場で上司と部下の関係や、人材育成、マネージメント研修などで広く使われています。
ラポールを築く方法は「相手を知り受け入れること」につきます。
そのための基本的な行動は「相手の話を聞く」です。決して自分のことをペラペラと喋るわけではありません。
カウンセラーの先生を想像してもらえればわかりますが、患者に対して「私は昔〇〇で、どこの大学をでていて、こんな実績があるんだ~」と自分の話ばかりする人はいません。
そうではなく、患者の声にならない声まで聴きとろうとします。
上司と部下が信頼関係を築くときも同じです。「俺は俺は」「私は私は」と言っていると信頼関係はできません。
では何を聞けばいいかというと、相手の名前をフルネームで漢字で書けるか、出身地はどこか、趣味は何かといった仕事以外の相手に関することです。
具体的には次のような質問が有効です。
当然ですがラポールを築くにあたって相手を否定してはいけません。それは橋を壊す行為です。
例えば「学生時代はどんなことをやっていたの?」と聞いたときに「帰宅部でした」という回答が返ってくると、部活に打ち込んでいた人からすると「なんでやらなかったの?もったいない。積極性がない」とつい口にしたくなります。
ですが、それも相手を否定することです。
「帰宅部でした」という回答が返ってきたら「そうか。まあ部活をやっててもいろいろあるかなら」「それに今なら家でもできることは多いからね」と言って相手を認めることが大切です。
相手の話を聞こうと思って「趣味は何?」ときくと「趣味はありません」と返ってくることもあります。
そのときは「無趣味なんてつまらない人」と思わずに、「そうか、じゃあ、休日はどんなことして過ごしていることが多い?」と聞くと、今ハマっていることがわかります。
「趣味」という言葉は人によっては重く感じるものです。「これが趣味です」と言うと「どのぐらいできるの?」と評価されたり比較されたり、毎週末やっていなければいけないという感覚があるためです。
ラポールを形成することにはたくさんのメリットがあります。
ラポールが形成されていない状態で「~をやってくれないかな」と訊ねると、「なんでこの人のために自分の時間を使わなければいけないのか」という感情が湧いてきます。
仮に仕事上の上下関係があったとしても「あー、まただよ。めんどくさいな」という気持ちを持ちながら仕事に取り組むことにもつながります。
一方、ラポールが形成されていれば「この人のためだったらいい」という感情が湧いてくるためです。
ラポールが形成するには相手を否定せず話をよく聞く必要があります。この結果、相手の中には「この人は自分の話を否定せず受け入れてくれる人だ」という認識が芽生えます。
すると、その人が感じたことや考えたアイディアなどを臆せず共有してくれるようになります。
ラポールを形成しておくことが、失敗や重大なことを「なかなか言い出せなくて、、」と胸の内にしまい一人で抱え込んで、後々に大事になってしまうことを防ぎます。
ラポールを形成するときに意識して力を入れすぎたり、別途時間を用意する必要はありません。日常の何気ない時間こそがラポールを形成するための重要なチャンスです。
朝自ら「おはよう」と声をかけ「昨日はよく寝れた?」といった雑談をするだけでもラポール形成の一助となります。
お昼の時間や10分程度の休憩時間にコーヒーを飲みながら話すだけでも十分な効果を発揮します。
大切なのは次の2点です。
雑談をしているうちに話が盛り上がりすぎて、切り上げるタイミングを見失ってしまうことがあります。
そういったときの切り上げ方は実に簡単です。
このように、一言伝えれば話を切り上げることができます。
仕事の話とラポール形成のための雑談は全くの別物として扱うべきです。相手のことをよく知ろうというのは、やらなければいけない業務とは違うからです。
また、ラポール形成のポイントは仕事と違って、その場でやりきる必要がないということです。
仕事だと決められた時間内に結論を出し切る必要がありますが、ラポール形成は短い時間を継続的に話すことが重要なので、あえて話の余白を残すことは未来につながり、お互いの関係性をより深めるために役立ちます。
途中で切り上げてしまったことに罪悪感を感じる必要は一切ありません。相手も途中で話が終わったことを嫌だとは思っていません。
相手が実は本心では会話をそこまで楽しんでいなかったり、そろそろ切り上げなきゃと思っていたのであれば、あなたの申し出はありがたいものです。
仮に、話がとても楽しかったとしたら「この人とまた話したい」という気持ちに変わり、好印象を与えるとともに、次回会う時までの時間で、相手の中で親密度が自動的に深まっていきます。
この記事の内容は篠原 信さんの「自分の頭で考えて動く部下の育て方」の内容の一部抜粋と要約です。
なぜ指示待ち人間が生まれてしまうのか、どうすると人が自ら動いてくれるのかがたくさんの実例を踏まえてとてもわかりやすく説明されています。
マネージメントなど人を指導する立場にある人は一読しておくべき指南書です。