昨今ではコミュニケーション力という言葉があちこちで使われ社会の中で重要とされています。
コミュニケーション力は会社に入社するために必要なだけでなく、友達どおしや、上司と部下との関係、妻と夫の関係など、様々なところで必要となるスキルです。
コミュニケーション力というと掴みどころがなくフワフワしていて難しそうに聞こえますが、その本質はとても簡単です。
コミュニケーション力とは「相手の気持ちを理解し、自分の主張を言えること」です。そのために非常に重要なのが「心の線」と「事実の線」という2つの線をつなぐことです。
ここでは「心の線」と「事実の線」をつなぐとはどういうことかについてまとめています。
「心の線」とは相手が心で何を思っているかを汲み取ること。「事実の線」とは相手の話の内容に含まれる事実を汲み取ることです。
例えば、相手が「最近、腰が痛くて、、マッサージ師さんのところに行ってこようかな」と言ったときに、「そうだね、行ってきなよ」「マッサージに行く前にまずはストレッチしてみたら?」というのが、事実の線をつなぐということです。
どちらも、相手のことを配慮した言葉です。「痛いのはかわいそうだ、それなら〇〇するのがいいだろう」というアドバイスです。
一見すると、しっかりとコミュニケーションができているように見えますが、これでは不十分です。
なぜなら「マッサージ師さんのところに行くべきか、行かないべきか」という”事実のみ”について話しているためです。
「心の線」をつなぐとは、まず相手の気持ちを察してそのことを口に出すということです。
相手が「最近、腰が痛くて、、マッサージ師さんのところに行ってこようかな」と言ったとき、相手の気持ちは「痛くてツラい」です。
「そうか。それは痛くてツラいね」この気持ちをまず伝えます。これで相手との心の線が開通します。
その後で「そうだね、行ってきなよ」「マッサージに行く前にまずはストレッチしてみたら?」言って、事実の線をつなぎます。
こうするだけで相手は「私の気持ちを分かってくれた」と感じて、あなたのアドバイスが自分の考えていることと合っていようが、違っていようが、それをすんなりと受け入れやすくなります。
男性でかつコミュニケーションが下手な人がやってしまいがちなのは「心の線」を無視して、「事実の線」だけをつなげることです。
例えば、部下が失敗したことを、勇気を振り絞って「〇〇で失敗しました」と上司に報告したとします。
コミュニケーションが下手な上司は「なんでもっと早く言わなかったんだ」「なんで失敗したんだ?」というように、発生した事実を責めたり、事実確認をします。
これでは部下は「言わなきゃよかった」「しんどい。嫌だ」と感じてしまいます。
部下が失敗したことを、勇気を振り絞って「〇〇で失敗しました」と上司に報告したととき、コミュニケーションが上手な上司はまず「心の線」をつなぐことを意識します。
「言い出しにくいことを、勇気を振り絞って伝えた」という部下の心を汲み取って、「言い出しにくいことを言ってくれてありがとう」と伝えます。
この一言で、部下の心との線がつながります。
心の線をつなげてから「で、一体何が起こったんだ?」というように「事実の線」をつなぎます。
こうすれば、部下は「私の心情を察してくれている」と感じ、あなたに信頼感を持って報告をすることができます。
更に、次回何か異変があったときも、真っ先にあなたに報告しようと思えるようになります。
妻が「子供がぐずって泣いて全然寝てくれなくて大変だったよ」と言ったときに、コミュニケーションが下手な夫は「事実の線」だけつなごうとします。「寝たくなかったんじゃないの?」「寝かしつけ方法を変えてみたら?」といった感じです。
これでは妻は「私の気持ちを全然わかってくれない」と感じます。
一方、コミュニケーションが上手な夫はまず「心の線」をつなげようとします。
「それは大変だったね。一人でツラかったでしょう」これで心の線がつながります。その後に「寝たくなかったのかな?」と言えば、妻は「私の気持ちをわかってくれてありがとう。寝たくなかったのかもしれない」と感じます。
「心の線」をつなぐことがいかに重要かは、ある余命宣告された末期ガン患者の妻の例からわかります。
余命宣告をされた末期ガン患者だけが入れるホスピスがあります。そこには選りすぐりの看護師たちが揃っています。
ある余命宣告された末期ガン患者の妻は毎日看護に来ていました。そして看護師に「この薬はどのぐらいの効果かがあるのですか?」と訊きました。優秀な看護師は薬の効果をとても丁寧に説明しました。
ところが、翌日もその奥さんは「この薬はどのぐらいの効果かがあるのですか?」と同じ質問をしました。看護師さんは昨日と変わらず同じように丁寧に答えました。
なんと、それが1週間以上毎日続きました。看護師たちの間では「クレーマーなんじゃないか?」「気がふれてしまったんじゃないか?」という噂が広がり始めていました。
ある日一人の医師が診察に言ったところ、同じように「この薬はどのぐらいの効果かがあるのですか?」と訊かれました。
その医師は薬の説明は一言もせず、ただ一言「奥さん、ツラいですよね、、」とだけ言いました。
奥さんはその場で「ツラいです」と言って泣き崩れました。
ですが、その翌日から「この薬はどのぐらいの効果かがあるのですか?」という質問をしなくなりました。
この奥さんが質問していたのは、薬の説明が聞きたかったからではなく、夫がもう死んでしまうという事実がツラすぎて、その事実を受け入れられず「この薬は効果があるのか?」と訊き続けていたのです。
「事実の線」ばかりに気を取られると、本当に大切な「心の線」を見失ってしまいます。
「相手を否定することは、相手を傷つけることだ」と考えている人がいますが、必ずしもそうではありません。
「心の線」という概念があるため、相手を肯定したとしても、相手を傷つけてしまう場合があります。
そういった意味で重要なのは「事実の線」ではありません。「心の線」こそが重要です。
例えば、女性が「今日大変で腰が痛かった。マッサージ師さんのところにいこうかな」と言ったときに、「そうすればいいんじゃない」と言うと、女性は傷つきます。
相手は「私の気持ちに寄り添ってくれていない」と感じるためです。
つまり、相手の意見を肯定したのにも関わらず、相手は傷つくのです。
一方、相手の意見を否定しても、相手が傷つかない場合があります。
例えば、女性が「今日大変で腰が痛かった。マッサージ師さんのところにいこうかな」と言ったときに、「子育てと家事で腰を曲げることも多いし、しんどいよね」「まずはストレッチしてみたら?」と言えば女性は傷つきません。
相手は「私の気持ちをわかってくれた」と感じます。一方「マッサージ師さんのところに行く」という事実は否定して「ストレッチすること」を進めています。
つまり、心の線さえつながれば、事実を否定しても相手は傷つかないということです。
「心の線」と「事実の線」の組み合わせパターンは次の4通りです。
心の線 | 事実の線 | 相手が傷つかない |
---|---|---|
〇 | 〇 | 〇 |
〇 | × | 〇 |
× | 〇 | × |
× | × | × |
このように、確実に相手が傷つかない方法が分かっている以上、自分の意見を言って相手が傷つくというのはコミュニケーション方法が間違えているということです。
コミュニケーション方法が間違えているとは、相手の気持ちを適切に察し、言葉として伝えられていないということです。
「心の線」をつなぐとは、相手の気持ちを察するということです。
例えば、あなたに子供がいるとして、次のようなシチュエーションの場合になんと声をかけるでしょうか?
「心の線」をつながない人は、「宿題はやらなきゃダメじゃないか」と言います。「宿題をやっていない」という事実にのみ注目した発言です。
「心の線」をつなぐことを意識する人は「それはよかったね。でも宿題はちゃんとやらなきゃダメだよ」といいます。
これは、「それはよかったね」という言葉で相手の気持ちを受け入れているように見えます。ですが、本当にこれで心の線がつながったのでしょうか?
答えはノーです。
「それはよかったね」と相手を肯定するだけでは、相手との心の線はつながりません。
「宿題はやらなきゃダメじゃないか」と「それはよかったね。でも宿題はちゃんとやらなきゃダメだよ」はどちらも、それを言った後、子供はショボーンとします。
このシチュエーションで心の線をつなげる言葉は「田中先生は優しいね。〇〇は田中先生のことが好きなんだね」です。これで子供は「自分の気持ちを理解してもらえた」と感じます。
その後に「でも宿題はやらなきゃダメだよ」と伝えれば、「わかってもらえた」という嬉しい気持ちを持ちつつ、宿題はやらきゃということを受け入れることができます。
相手が子供でも、部下でも、患者でも、お客さんでも、上司でも、社長でも、親でも、先生でも、どんな人であっても、まず「心の線」をつなぐことは効果を発揮します。
子供や部下など年下や、仕事の対象でもある患者やお客さんの場合、「心の線」は比較的つなぎやすいと感じるかもしれません。
一方、上司や社長、親や先生など目上の人と「心の線」をつなぐことは想像しにくいかもしれません。ですが、目上の人に対しても「心の線」をつなぐことは非常に有効です。
例えば先生が「教師の道に進むのはやめておいた方がいい。君には向いてないよ」と言ったときに、「私は教師になりたいんです!」と事実だけを返すと、先生は「こいつは話を聞かない。何を言っても無駄だ」と感じます。
ですが「先生が私の性格も理解して、親身にアドバイスや心配をしてくれいるのは重々承知です。」「それでも、私は教師になりたいんです!」と言えば、先生は「こっちのこともきちんと理解している。そこまで強い気持ちを持っているのか。なら大丈夫かもしれないな」と感じます。
心の線をつなぐとは「あなたの気持ちをわかろうとしているし、わかっています」というメッセージに他なりません。
例えば母が「バイクは危険だから絶対にやめなさい!」と言ってきたときに「僕はこの一度しかない人生でバイクに乗ってみたいんだ」と言えば、親は「この子には何を言っても無駄だ」と感じます。あるいは、バイクに乗らないことを強制します。
一方、「お母さんは僕の身の安全を心配してくれているんだね。ありがとう。」「それでも、僕はこの一度しかない人生でバイクに乗ってみたいんだ」と言えば、親は「この子は私の言う事もわかっている。その上でバイクに乗りたいという強い願いを持っているんだ」と考えます。