日本人は相手の気持ちや感情、空気を読む傾向があります。このため、厳しいことを言ったり、指摘やダメ出しをして相手を傷つけることを避けようとする人は少なくありません。
当然、同じ目標を追い続けるチームにとって、良好な人間関係を築くために相手を傷つけないということを非常に重要です。
ですが、それは決して批判的なフィードバックをしてはいけないということではありません。失敗やいけないこと、改善すべきことは100%正直に伝える必要があります。
重要なのはその伝え方です。
ここでは、相手の尊厳を守りながら、厳しい評価を与える方法について具体的な事例を交えてまとめています。
相手の尊厳を守りながら、厳しい評価を与える方法は「大切に思っていることを伝える」ことです。
「あなたのことを大切に思っている、だからこのままじゃダメなんだ。気づいてくれ、お前ならできるだろう」という伝え方が、相手が自分の抱えている問題に気づき、それを受け止める方法です。
「大切に思っていることを伝える」というと、何かのアドバイスや忠告、指示をするときに「あなたのためを思って言っている」という人がいます。
ですが「あなたのためを思って」は相手を大切にしていることを示すものではありません。なぜなら、相手は「私のことを大切に思ってくれている」とは感じず「自分の意見を押し付けてくる」と感じるからです。
大切に思っていることを伝えたいのであれば、「あなたのためを思って」という言葉は不要です。
大切に思っていることを伝えるには、何かのアドバイスや忠告、指示をするときに、相手があなたとの間に心理的な安全性を確立している必要があります。
つまり、何かを指摘する段階になってから、大切に思っていることを伝えるのでは遅いということです。
普段の人間関係の中で、相手のことを良く知ろうとし、相手の言葉にしっかりと耳を傾け注意深く聞き、信頼関係を築けているからこそ、相手は「この人は自分のためを思って言ってくれている」と感じることができます。
信頼関係が築けているからこそ、容赦なくネガティブなフィードバックをしても、相手はそれを受け入れることができます。
例えば、あなたが今の会社を辞めて、新しく事業を起こすかどうか迷っているときに、あなたが信頼できる人に相談をしたとします。
その人はあなたのことを心から応援し、成功を祈り、背中を押してくれました。
あなたは、数週間後に自分のビジネスのためのWEBサイトを完成させました。「我ながらいい出来だ」と思い、その人にメールでアドレスを送りました。
数分後に電話が来て、次のようにけちょんけちょんに言われたとします。
あなたが作ったWEBサイトはクソだ。こんなクソみたいなWEBサイトで成功できると思っているのか!
あなたが挑んでるものはそんな生易しいもんじゃないだろう!もっと本気でやれ!
相手は、あなたが作ったものを容赦なくけちょんけちょんにけなしています。
しかし、あなたは相手に対して一瞬反感を抱いたとしても、ハッと気づくことの方が大きいはずです。
それは、既に相手との間に信頼関係が築けており「この人は、私のことを本気で応援してくれている」と信じることができるからです。
人の意見は対立するものですが、意見が対立しても信頼関係が築けていれば、意見が対立しても人間関係が壊れないことが、心理学の研究でわかっています。
相手への批判的なフィードバックを伝えるときに、相手のことを考えすぎたり、嫌われることを恐れたりして、評価面談のタイミングなど機会が来るまで待つ場合があります。
ですが、これでは機会が不十分なうえに遅すぎます。
フィードバックはそれを伝えるべき状況が発生したら、その直後に伝える必要があります。
そして、伝えた後は相手に満面の笑みや、肩を叩くなどして痛みを和らげる配慮も必要です。
批判的なフィードバックを行う時は周りに人目がないところで行うことも重要です。
人がいる前で批判すると、相手の自尊心を酷く傷つけます。
「大切に思っていることを伝える」とは、その言葉を直接伝えるのではなく、批判的なフィードバックを伝える前にその環境自体も配慮するということです。
このため、相手に批判的なことを伝えるときは、人目がないところで伝えるといった配慮が必要です。
人目があるところで叱り飛ばすことで、周りにをけん制することは、相手をだしに使った行為です。大切に思っていることを伝えるとは真逆の行為になります。
誰かに恥をかかせてはいけません。
相手を批判をする前に、相手に配慮した環境をつくる方法の一つに「第三者にサポートを依頼する」方法があります。
例えばあなたがある社員に対して、「お前はダメだ」といったようなこっぴどく残酷な事実を伝えなければならない場合に、あらかじめ、その人と親しい人や、その人の上の役職の人次のようにお願いしておきます。
これから、こういうことをするから、あとでその人に声をかけて心の支えになってあげて欲しい。
そして、実際に批判を伝えたことで、相手がしょげ返ろうが、鼓舞されて元気になろうが、依頼した人に対して、「自信を取り戻させてくれてありがとう」とお礼を言います。
こういった環境を配慮することが、大切に思っていることを伝える行為に他なりません。
本音を伝える相手は大人に限る必要はありません。相手のことを大切に思っていることが伝わっていれば、子供に対しても容赦のないフィードバックを与えることは効果的です。
Appleのスティーブ・ジョブズやGoogleやTwitterの経営幹部のコーチングを務めたビル・キャンベルに関して次のような話があります。
ある高校生の女の子は大学サッカーの一部リーグで活躍することをずっと夢見てきました。そのプレーを見てビル・キャンベルはその子に次のように伝えました。
もちろん君は1部リーグの大学チームにも入れるだろうし、何かのプログラムにだって選ばれるかもしれない。
だが、3部リーグの大学に入って、素晴らしい教育を受けながら、スター選手として活躍することもできるぞ。
女の子は強い推薦を受けることができなかったことでしょげましたが、ビル・キャンベルの言っていることが正しいことはわかっていました。
結果として、3部リーグの大学に進み、3年生のときに3部リーグ優勝に貢献し、賞を受賞しました。
この記事の内容はGoogleのCEOと会長を務めたエリック・シュミットやプロダクト責任者を務めたジョナサン・ローゼンバーグらが書いた「1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え」の内容の一部要約と自分なりの解釈を加えたものです。
ビル・キャンベルはAppleのスティーブ・ジョブズやGoogleやTwitterの経営幹部のコーチングを務め、世の中に偉大なリーダーを何人も送り出してきた人物です。
ビル・キャンベルが貫いてきた生き方やそこにまつわるストーリーには、最高のチームを作るためにリーダーやコーチが知っておくべき考え方や行動が宝の山のように詰まっています。
その考え方はビジネスやチームを成功に導くだけでなく、人として幸せに生きるためのより本質的な知恵でもあります。
この記事に興味を持たれた方は、本書を実際に手に取ってみることをお勧めします。あなたの人生をより幸せにし、成功へと導いてくれることは間違いありません。