人と対話をするときに、コミュニケーションが下手な人は自分のペースで会話をします。コミュニケーションが上手い人は相手の性格に合わせて会話をします。
ですが、本当にコミュニケーションが上手な人は、相手のパーソナリティに合わせるのではなく、相手の感情や状態に合わせて対話を行います。
「この人は元気よく話すのが好きだから、私も元気よく早く話す」といのではなく、相手の状態を見て「今日は元気でハキハキして、エネルギーが高い」と感じたら、自分も対話のエネルギーを相手と同じ高さまで上げて話します。
「なんだか元気がなくて、エネルギーがとても低い」と感じたら、自分も対話のエネルギーを相手と同じところまで下げて話します。
このように対話の上手い人は、その時々で相手とエネルギーを合わせることを重要視します。
対話が下手な人は、相手とエネルギーを合わせようとしません。常に一定どころか、よかれと思って相手と逆のエネルギーにしようとする人すらいます。
例えば、相手がすごく落ち込んでいる時に、自分はエネルギーを高めて「元気出しなよ!」「なんとかなるって!」と励ます人が、対話が下手な人です。
決して悪い人ではなく、相手を励ましてあげたいという気持ちがあるのですが、それは相手が今落ち込んでいるという気持ちを無視している、すなわち、相手の存在を無視しているのと同じです。
同様に、相手がすごくハイテンションで喜んでいるときに、自分はエネルギーを低めて「だからどうしたの」「そのぐらいどうってことないよ」という人がいます。
こういった人も悪気はなく、相手はまだまだもっとできる、自分は常に冷静にいるべきだと考えている場合が少なくありません。
ですが、それはあくまで自分中心の考え方で、相手の心を無視していることに他なりません。
相手の感情や状態とエネルギーを合わせるためには、まず最初は、相手の感情や状態が、今どうなっているかを観察することから始める必要があります。
例えば、もし相手が落ち込んでずっと黙っているのであれば、こちらも最初はずっと黙って同じエネルギーでいてあげるといった配慮が必要です。
ただの日常的な対話や親友やパートナーが話を聞いて欲しいだけの場合は、相手とエネルギーを合わせた対話をすることで問題ありません。
しかし、こちらの目的に「相手を元気づけたい」「相手のモチベーションを上げたい」「仕事を前に進めたい」といったゴールがあるのであれば、最終的にはそこに向かうように話を進めていく必要があります。
仕事の進捗状況を確認しようと思っていたミーティングで、スタートしてみたら相手がものすごく落ち込んでいたということがわかったとします。
そうしたら、「今日は話を聞いてあげよう」「落ち着いて話せる場を作ってあげよう」と相手のエネルギーレベルに合わせて配慮した対応をとります。
そして話を聞いたら「今日はすごく落ち込んでいますね。とりあえず今日はこれだけ答えてくれる?」と言って、対話のゴールに近づけていきます。
あるいは「今日はすごく落ち込んでいますね。まずは気持ちを落ち着けて、次回のミーティングで〇〇について集中的に話しましょう」といって、相手に合わせたエネルギーから、一段上げたエネルギーで会話を終わらせます。
相手の現在の感情や状態に合わせて対話のエネルギーの高低を合わせることが、相手に「私は受け入れられている」「しっかり見てもらっている」という感情を抱かせます。
それは「あなたはこの場所にいていいですよ」「ありのままでいいですよ」というメッセージでもあります。
このように、相手は私は丸ごとの私のままでいいんだと心理的に安心感を覚えることができる状態を心理的安全性と言います。
つまり、相手の対話のエネルギーに合わせることが、心理的安全性を作り出すために重要です。
特に相手のモチベーションが低いときほど、相手の対話のエネルギーに合わせ込む丁寧な対応が必要です。
相手を観察したり、相手の現在のエネルギーの高低を合わせるだけでは、相手が心のうちに抱えている問題が見えてこないことも少なくありません。
特に日本人は、自分の感情をさらけ出すよりも周りに配慮する傾向が強い民族です。
このため、相手の本当の感情や状態を知るためには「何か気になっていることはありませんか?仕事以外のことでも大丈夫ですよ」といった直接的な問いかけも非常に重要です。
これから本題に入りますが、その前に今何か気になっていることはありませんか?仕事以外のことでも大丈夫ですよ。
なお、この一言は言った方がいいという推奨レベルではなく、毎回聞かなければいけないというマストの行為です。
なぜなら、この一言がないために、チーム内に不満が沸き起こったりパフォーマンスが下がることがあるためです。
例えば、「何か気になっていることはありませんか?仕事以外のことでも大丈夫ですよ」と言ったときに、相手が「実は今、母が入院してしまって、病院の手続きなどに追われてて、時間もとれずなかなか仕事に集中できないんです」という回答が返ってくれば
「では、お母様のことがひと段落するまで、プロジェクトを離れた方がよさそうですね。他の人をあたってみますよ」という提案ができます。
一方、何も聞かず、相手も自分の悩みを打ち明ける場がなかった場合、チームの中で「あの人は最近仕事に身が入っていない。プロジェクトも上手く進んでないし、このままだとチームの業績が下がる」といった悪循環に陥ります。
チームを率いるマネージャーも「あの人は約束を守らない」といった不信感に駆られてしまいます。
つまり、「何か気になっていることはありませんか?仕事以外のことでも大丈夫ですよ」の一言は、相手のためにも、チームのためにも非常に重要ということです。
特に、この問いかけがあるかないかは、相手のモチベーションに大きく影響します。