ビジネスにおけるマネージャーの仕事は「チームを率い、最大のパフォーマンスを上げること」です。本質的な業務内容は次の3つで言い表せます。
そして、これらの3つはその時々の時代に合わせて変化させていく必要があります。
時代遅れのミッションや戦略を立てたり、時代遅れの進捗管理をしたり、時代遅れの育成をしているようでは、その時代において最高のパフォーマンスを発揮するチームを作ることはできません。
そういう意味では、マネージャーこそが新しい潮流に敏感になり、自ら進んで変化を受け入れていく必要があります。
日本の企業でもちらほら見かけることがありますが、役職を持っているだけで、既に役目を終えている(あるいはチームのガンになっている)マネージャーがいます。
そういった人たちは、変化を拒んだり、旧来のやり方にこだわったりします。
「実績がないからダメ」「ライバル企業はやってないからダメ」「昔はこのやり方で上手くいった」「現状でも問題ない」「スマホは苦手」「インターネットはよくわからない」という考え方をしている上司は、もはや時代から遅れている上司です。
こういった上司がいる組織は衰退の一途をたどります。若手は希望を削がれて、優秀な人ほどどんどん辞めていきます。
上司こそ、必死でその時代の変化についていかなければいけません。
日本は今や昭和から、平成を経て令和に突入しています。
この時代の流れの中で、従来のやり方やルールも大きく変わり始めています。ここでは、マネージャーが知っておくべきビジネス界の重要は8つの変化についてまとめています。
以降ではそれぞれの内容を解説しています。
戦後はとにかくモノがない時代でした。テレビ、洗濯機、冷蔵庫、自動車など世の中にモノがないのが当たり前、そして、それらを持っていない人が多いのが当たり前の時代でした。
そんな時代においては、みんなが質の高い商品に価値を置いていました。このため、質の高い商品を作っていれば、勝手に売れていく時代でした。
しかし、企業や人々の努力の甲斐あり、今はモノが余っている時代です。世の中にテレビ、洗濯機、冷蔵庫、自動車などモノが有り余っています。
ちょっと歩けばスーパーやお店があり、食品や雑貨を簡単に手に入れることができます。
さらにインターネットが登場し、仕事でもプライベートでも人々の日々の時間のほとんどがPCやスマホを介してインターネットとつながるようになりました。
このような時代では、人々は品質の高いモノよりも、効率化により時間を生み出したり、自分の人生をより充実させてくれる仕組みを求めるようになっています。
例えば、手紙がe-mailになり、e-mailがSNSやチャットツールといったより便利な仕組みへと移り変わっています。
品質の高い洗濯機よりも、脱水から乾燥まで自動でやってくれて、外出先からもスマホで操作できるような仕組みを人はこぞって求めています。
これまでの企業はお金を持っているところが強い傾向がありました。格付けもお金が潤沢であればあるほど高い評価が付きます。
お金をガッチリ稼ぎ、がっちり守り、増やし、大きく体力のある企業がもてはやされてきました。
しかし、現在では、人々はお金をたくさん持っていて金儲けが上手なだけの企業をひいきすることがなくなってきました。それどころか、嫌悪し離れていくようになりました。
消費者のためにどれだけ高品質・低価格なものを提供していても、そのために森林を破壊していたり、発展途上国の人々をこき使って搾取している企業は強烈なバッシングを受けるようになっています。
逆に、お金儲けが下手でも、社会に大きく貢献している企業を応援し、そこの商品が多少高くても買うという人が増えました。
モノや情報が溢れかえったことで、自分の価値を表すステータスシンボルが高品質なモノから、自分がどういう考えの企業を推しているかという自己表明や存在意義の表明に変わったと考えられます。
これらはインターネットで企業の内側の情報がより明るみに出るようになったことも大きな要因です。もはや表面だけきれいに繕っている会社が生き残っていくことはできない時代です。
これまでの企業は自社の中で情報を守り、自社の中で製品を開発するという姿勢でした。
他社と提携することは情報や技術の漏洩につながるリスクがあり、極力自前でなんとかしようとする姿勢です。
企業は商品やサービスを作り出すために必要な人々を自社内に雇い入れ、様々な部署を作り、子会社を作って、一つの大きな大企業になっていくことが成功の証でした。
しかし、現在では、インターネットや技術の進化が目覚ましく、様々な分野との融合もあり、常にみんなが足並みそろえて同じ方向を向いているというのが難しくなってきました。
一つのプロジェクトが終わると、次に始まるのは全く別のスキルセットを必要とするメンバーだったりします。
自社内の既存のメンバーだけで賄うことが難しく、その度に採用面接をしているのでは間に合いません。また、プロジェクト後に不要になった人々を抱え込んでいるのは大きな負債になります。
このため現在では、必要に応じて、産学官や個人を問わず、社外のパートナーやフリーランス、社会活動をしている人たちを巻き込み、共同で進めていくオープンな姿勢が求められるようになっています。
そういったオープンな企業の方が必要な人材を直ぐに集めることができ、スピーディーで柔軟に動くことができます。
外界との接触を拒み、情報を社内で秘密裏にしている企業よりも、外に対してオープンな企業の方が信頼感や認知度も高く人を集めやすくなります。
もはや、旧来の大企業は大きくて重くて動きが遅く、デメリットが大きくなっています。
少人数でも必要に応じてメンバーをかき集められる組織の方が、大きさ、規模、能力も状況に合わせて変幻自由自在で柔軟で早く変化に強い組織になることができます。
こういったことができるようになったのも、インターネットの普及により、必要な時に必要なタイミングで人材を確保することが可能になったためです。
従来、組織の目標や指令の伝達は軍隊のようなトップダウンが一般的でした。
トップが目標、戦略、行動計画を決めて、それに合わせて指示を出す。下は出されたものに従うというスタイルです。
これは工場ラインなど、ただ言われたことをその通りにやっていれば当たり前のように仕事が進んでモノが売れた時代では効率のいい方法でした。
また、上層部が圧倒的なパワーを持ち、下層の弱者は従う以外に生きる道がないといったように、力関係が明確なときは有効でした。
しかし、現代ではインターネットの普及により、これまで下にいた人たちにも十分に情報がいきわたるようにったり、転職が容易になるなど、上に従わなくてもなんとかなるようになりました。
弱い立場の人たちはSNSなどを使うことで、仲間を集め自分たちの声を大きくすることもできるようになりました。
これにより、もはや企業の上層部が従業員を権力で従えるといった構図は成り立たなくなりました。嫌になったら、辞めて別の企業へ行けばいいだけの話です。特に優秀な人ほど引く手あまたなので簡単に辞めていってしまいます。
このため社員がいかに会社で働く意義を見出し、自発的に動けるか、そして企業はどれだけそういった環境を提供できるかが重要になっています。
そのためには、目標はトップダウンで「これやれ」と命令するのではなく、組織の目標のために「あなたはどういった行動ができるか?」と自発的な目標を設定し、その目標を追いかけることが主流となってきています。
命令形態がトップダウンから個人型に変わったことで、組織の構造もヒエラルキーからツリー型に変わってきています。
これまでは、上意下達のヒエラルキー構造により、社長→副社長→部長→課長→平社員といった階級によって位がわかれていました。
下に行くほど権力が無くなっていき、上の人ほど、給料も自由度も発言権も高いという構図です。会社内の競争主義を表した構図です。
昔はこの階段を上に登り昇進していくことが幸福と成功の証だと考え、ほとんどの人がそれを望みました。
しかし、現在では、上にいる人たちの失態がそこかしこで明るみに出たり、SNSやインターネットなどの登場で下にいる人の発言権が増したこともあり、この階段を上に登っていきたいという人が減ってきました。
上に上がることを夢見て努力し、部長や課長などのマネージャー職についている現在の人たちが、給料は上がったけど、あまり幸せでいといった実情や、社内政治や運で上に上がり、ふんぞり返っている上司を見て「こんな人みたいになりたくない」と感じる人が増えたのも原因の一つです。
このため、社員はヒエラルキーの階段を登るよりも、自分のことを受け入れ、理解し、やりたい仕事ができ、成長できる環境に価値を見出すようになりました。
また、組織やチーム研究が進み、パフォーマンスの高いチームは心理的安全性が高く、みんなが安心して発言し自己表現ができる環境であるといったことが明らかになったこともあり、企業が成果をあげるためには、ヒエラルキー型ではダメだということが証明されています。
結果として、組織の形態は、企業という幹にそれぞれの社員が枝のように生えるツリー型へと変化しています。
社長や部長、課長といった役職はあっても、そこに偉いという基準はなく、みんなが一丸となって、組織の目標のために機能を果たすという形です。
これまでの企業は長期計画を立ててそれを1年や四半期などの短期計画に落とし込み、計画に沿って実行する「計画主義」が基本でした。
計画からの遅れたり、計画から外れて他の道に逸れることは完全な悪でした。
しかし、現在ではインターネットの登場により変化のスピードが速く、数年後には周りにある技術やライバル企業、市場の状態が大きく変化していることが当たり前になっています。
このため、計画を決めてから動くという決め打ちが通用しなくなってきています。
そうではなく、変化が生じたときにそれを学習し、柔軟に対応していくことが生き残るための条件となっています。
猛スピードで走りながら考え学習し、走りながら変えていくという姿勢です。組織に必要なのは学習し続けられる人で、学習を放棄した人は組織を衰退に導くガンでしかありません。
これまでは、仕事をバリバリこなして業績が高い人が上司になり、部下をマネージメントしながら自分も第一線で業績を上げ続けるというプレイングマネージャーが重宝されてきました。
これはトップダウンで上が自分の思った通りに命令し、部下を駒として動かすような場合には有効でした。
しかし、トップダウンから個人型、ヒエラルキーからツリー型になった現在では、チームを率いるマネージャーの役割は業務と並行するものではなく、チームメンバーのやる気を引き出し、彼らが業績を上げ、能力開発し、組織としてのパフォーマンスを上げるとともに、自己実現を手助けるコーチの役割に変わっています。
また、リソースを社内で賄うクローズド型から、社外の人材や組織、技術などあらゆるリソースを生かして、問題解決を行うオープン型に変わったことで、自分がプレイするよりも、そうした社内外のリソースをいかに見つけ配分しコントロールするかというスキルが求められるようになりました。
つまり、従来型のプレイングもしながらマネージもするプレイングマネージャーはもはや不要で、ポートフォーリオ(最適な組み合わせ)を考える、ポートフォーリオマネージャーが必要になったということです。
従来のマネージャーは部下の行動や業務進捗を管理することが仕事でした。その管理は隅々まで行き届き、細かく管理できていればいるほど優秀な上司とみなされていました。いわゆるマイクロマネジメントです。
しかし、上司と部下の間に権力的な上下関係がなくなり、部下の自発的な目標設定や、自発的な学習能力が重要になってきたことで、もはやマイクロマネジメントはチームのパフォーマンスを上げるために機能しなくなってきました。
現在では、マネージャーの部下への接し方は、チームの進むべき方向性を示し、自発的な行動を促しつつ、間違った方向へ進みそうなときはサポートして軌道修正をする、羊飼いのような放牧型へと変化しています。
時代の変化に伴って、市場で求められている価値や、働く人材が企業に求める価値が大きく変わってきています。
どの時代においてもマネージャーの仕事は、チームの目的のためにメンバーの力を最大限引き出し、最高のチームワークによってチームとして最大のパフォーマンスを発揮することです。
そのためには、人の上に立ち方向性を示すマネージャーこそが時代の変化を察し、学習し、自らが変化していく必要があります。
時代に合わないやり方で成果が出ず、部下からも嫌われるのは、頑張っているのに苦しい状況が続くだけで、マネージャー本人もモチベーションが上がりません。
そうではなく、学習し自らが変化し、市場や社員の求める価値を先読みして行動していけば、自分自身もモチベーション高く、人生も充実したものになります。
自動車王と呼ばれるヘンリー・フォードも次のように言っています。
人は学習を辞めたときに老いる。20歳の老人もいれば、80歳の若者もいる。
学び続けるものは若さを失わない。人生で何より素晴らしいのは、自分の心の若さを保つことだ。
あなたが、学び続け、常に若々しく、輝きと可能性を持って生きていくことを、心より願っています。
この記事の内容はモルガン・スタンレーやGoogleで人材育成や組織開発を率い、自身も起業家であるピョートル・フェリクス・グジバチさんの著書『世界最高のチーム グーグル流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法』の一部要約に個人的な見解を加えたものです。
本書は現代の組織に求めれているものは何か?それを得るためにはどうすればいいかが具体的かつ論理的に記されています。
使われている用語は専門用語ではなく、誰にでもわかりやすいものになっていて、例も豊富に乗っている非常に実践的な良書です。
会社を率いている人や部署を率いている人、あるいはマネージャーを目指している人の必読書といえます。
この記事に興味を持たれた方は実際に本書を手に取ってみることをお勧めします。