世の中には「社員のため」「我々は社員を第一に考える」「人材を最優先する」という企業が多く存在しています。
しかし、実態は建前であることの方が多く、働いている社員は「大切にされている」と感じていないことが多くあります。
あるいはいい給料や休暇を与えること、福利厚生を整えること=社員を大切にすることだと勘違いしている企業も少なくありません。
利益を与えることは「楽で居心地がいい」と感じさせるには効果がありますが、「私はとても大切にされている」という感情にはつながらないものです。
ここでは、一流のコーチやリーダーとして人を大切にするとはどういうことかについてまとめています。
人を大切にするとは、お金をたくさんあげる、一人の時間をたくさんあげるということではありません。それは相手との関係性を築くどころか、疎にする行為です。
人を大切にするとは、その人に興味関心を持つということです。
どんな人にも敬意を持って接し、名前を覚え、温かい言葉をかける。本人だけでなく家族のことも気にかけ、それを言葉よりも行動で示す。
それこそが、人を大切にするということです。
つまり、企業が「私たちは人を大切にします」と宣言した場合、社長や部長など企業の上層部にいる人たちが、社員の名前を覚え、常日頃から温かい言葉をかけて、ご家族のことを気にかけ、言葉だけではなく行動で示すということです。
そうした行いの結果、社員は「私は大切にされている」と感じるものです。
社員を大切にしていることを示すには、ミーティングでいきなり議題から入るのではなく「週末をどのように過ごしたか」「家族の調子はどうか?」といったような、相手に興味を持った会話から始めることが重要です。
その行動こそが「私は、社員のことを第一に考えています」というメッセージになります。
相手の状態やプライベートのことはそっちのけで「そんなのどうでもいいから、仕事の話だけするよ」という人は相手を大切にしていない人です。
仕事の関係としてしかとらえておらず、相手を一人の個人として見ようとすらしていません。
そうではなく、コーチやリーダーの関心は常に相手にあり、相手が仕事や目の前の課題でバタバタしているときに、一番大切なのは自分自身や家族だということを教える存在でもあるべきです。
一流のコーチが人を大切にすることを物語るストーリーに、Appleのスティーブ・ジョブズやGoogleやTwitterの経営幹部のコーチングを務めたビル・キャンベルの話があります。
ビル・キャンベルは元々フットボールのコーチをしていてそのスカウト活動をしていました。あるとき、メイザー・マークをスカウトするために、マークの家庭に赴き、親に対して「マークの面倒は自分が見る」と約束しました。
しかし、マークは1年生のときに利き足の膝を痛め、そのシーズンはおろか、二度とフィールドに立つことができなくなってしまいました。
そのときビル・キャンベルはマークの母親に電話して次のように伝えました。
あの時の約束はまだ有効だ。これからもマークの面倒を見るし、プレーできなくなっても学士援助は打ち切られない。
チームで有用だから大切にするというのは、その人を大切にしていることにはなりません。
それは、相手のためではなく、自分のために大切にしているに過ぎません。メンバーが「成果を出せなく成ったら見限られる」と感じている関係は、リーダーがどんなに気にかけていても、大切にしているとは思われていない状態です。
試合の成果や業績に関わらず相手を大切にする。そういった姿勢こそが、本当に人を大切にするということです。
一流のコーチやリーダーは一言で表すと「とにかくいい人」とも言えます。人のことを相手の家族まで含めて本気で大切にする。
自分が言った約束は何があっても最後まで守り切る。
だからこそ、チームのメンバーが本気でその期待に応えようとし、チームワークを発揮して一丸となって一つの目標を追い続けることができる。
失敗しても諦めず、何度でも立ち上がる勇気を持つことができます。
ビル・キャンベルがいかにた人を大切にしているかを示すストーリーが他にもあります。
ビル・キャンベルとGOという企業で共に働いたマイク・ホーマーという人物がいました。
あるときマイクはクロイツフェルトヤコブ病(CJD)にかかりました。発症から1年~2年で全身衰弱・呼吸不全・肺炎などで死亡する難病です。
そのときビル・キャンベルは仕事よりもマイクを優先し、マイクの家に頻繁に通って、介護士たちの名前を覚え、必ず声をかけ、マイクが家族や友人にどれだけ深く愛されているかを、介護士たちにもわかってもらおうとしました。
そうすれば、介護士たちが全力で介護してくれるという考えからくる行動でした。
友人がケガや病気をしたり、何か助けが必要になったら、何を置いても駆けつけるんだ。それがやるべきことだ。とにかく駆けつけるんだ。
一流のコーチやリーダーはメンバー1人1人のことを気にかけ、思いやりを持って接します。
それは個人間での信頼や優しさだけにとどまりません。そうした優しさはチームのメンバーが他の誰かにかける優しさにもつながります。
そして、チームメンバー全体が各メンバーの痛みに気づきいたり感じ、反応することにつながります。
つまり、個人を愛し大切に接することが、チームとしての思いやりを育てるということです。
この記事の内容はGoogleのCEOと会長を務めたエリック・シュミットやプロダクト責任者を務めたジョナサン・ローゼンバーグらが書いた「1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え」の内容の一部要約と自分なりの解釈を加えたものです。
ビル・キャンベルはAppleのスティーブ・ジョブズやGoogleやTwitterの経営幹部のコーチングを務め、世の中に偉大なリーダーを何人も送り出してきた人物です。
ビル・キャンベルが貫いてきた生き方やそこにまつわるストーリーには、最高のチームを作るためにリーダーやコーチが知っておくべき考え方や行動が宝の山のように詰まっています。
その考え方はビジネスやチームを成功に導くだけでなく、人として幸せに生きるためのより本質的な知恵でもあります。
この記事に興味を持たれた方は、本書を実際に手に取ってみることをお勧めします。あなたの人生をより幸せにし、成功へと導いてくれることは間違いありません。