仕事をしていると、お願いしたことの40%程度しかできていないのに「自分は良く頑張っている」という高すぎる自己評価をしている人がいます。
他にも、やりたいとすぐに手を挙げる意欲は望ましいものの、実力やスキルが全然伴っていないような人もいます。
こうした人たちに本人の希望に沿った仕事を任せることはチームのパフォーマンス下げ、メンバー全体を危機に晒すリスクがあるため望ましくありません。
なぜなら、現実と本人たちの認識に大きな乖離があるためです。
チームとして高いパフォーマンスを出すためには、メンバーの中にあるこうした間違った思い込みを取り除き、現実を正しく認識してもらう必要があります。
ここでは、メンバーのパターン別に思い込みを取り除くコーチング方法についてまとめています。
望んでいる成果を出していないにも関わらず「自分はよくやっている」「十分に頑張っている」という人に対して、「あなたはできていない」という抽象的な批判をしても効果はありません。相手の反発感情をあおるだけです。
自己評価が高すぎる人は、自分を肯定する思い込みが強い人です。このような思い込みを心理学用語で「確証バイアス」といいます。
確証バイアスは無意識に発生する思い込みのことで、自分がよくやっているという証拠ばかりを集めて、自分ができていないという事実を無視することです。
結果として、現状とは乖離した自己評価が本人の中に生まれてしまいます。
確証バイアスが強く自己評価が高すぎる人に対しては感情的な対話は意味がありません。そうではなく「具体的な根拠(事実)に沿ってフィードバックする」ことが大切です。
なぜなら、根本的な問題は、思い込みが激しいその人自身が悪いのではなく、現状認識が不足していることだからです。
このため、良い悪いとどちらかに決めつけるのではなく、良い点はいいと認め、悪い点はここはできていないと伝えることで、現状を正しく認識してもらうことが大切です。
具体的な根拠(事実)に沿ったフィードバックとは例えば次のようなものです。
この仕事では、あなたはこのぐらいの結果を出すことが求められています。
この仕事で結果を出すには〇〇のスキルが必要です。今のあなたにはこのスキルが不足しています。
このように事実にフォーカスしたフィードバックをすることで相手は、「現状の自分に足りないところがあるんだ」と認識することができます。
「新しい仕事に挑戦したい!」「〇〇をやってみたい」と積極的に手を挙げ宣言するといった意欲はあるものの、明らかに実力とスキルが伴っていない人がいます。
当然のことですが会社はこういう人に仕事を任すことができません。任せて失敗した場合、損失を被るのはその人個人だけではなく企業というチーム全体だからです。
こういった危険な物事やリスクがあるとしても、自分には関係ないものだと考えてリスクを無視してしまう思い込みが働いています。これを心理学で「楽観バイアス」といいます。
楽観バイアスは日常的なストレスを緩和する仕組みとして私たちに備わっています。無責任に「なんとかなる」と考えることは、新しい挑戦をする上でも非常に重要な能力です。
ですが、それも時と場合によっては非常に危険なものになります。
楽観バイアスが強く、意欲はあるが実力とスキルが伴っていない人に対処するときの注意点はその人の意欲を削がないということです。
「挑戦したい」「やってみたい」という気持ちを持っている人は、変化の激しい現代においては貴重な人材です。
コーチングする場合は、相手の「やりたい」という意思を尊重しつつ事実を正直にフィードバックすることが大切です。
例えば次のようなフィードバックが効果的です。
あなたは〇〇はできています。もし△△の仕事をするのであれば、□□がしっかりできるようになっている必要があります。
そのためには、いきなり△△に挑戦するのではなく、まずは、XXの仕事をしかりとこなして□□のスキルを伸ばしてください。
あなたには期待しています。
このように相手が望むキャリアへの道筋と、そこに至るまでに何が必要かをしっかりと伝えることで、意欲を成長と学びのモチベーションに変えて、他の仕事に取り組んでもらうことができます。
現在の仕事と、望んでいるキャリアが無関係ではないことを伝えることが重要です。
何か仕事をお願いしたときに「忙しくてできなかった」という人や、「私ではなく〇〇さんにお願いした方がいいと思います」という人がいます。
これは、言い訳や断りをしているようで「私はそんな仕事やりたくない」と主張しているのと同じです。
「忙しくてできない」「他の人にお願いして」というように新しい仕事をやりたくないという人は、現状維持をしたいと考えている人です。変化や成長を拒んでいる人ともいうことができます。
「変化が嫌だ」「新しいことをしたくない」「面倒事は嫌だ」と考えている人は、現状を維持したいという強い思い込みに縛られています。これを心理学用語で「現状維持バイアス」といいます。
現状維持バイアスが強い人への対処法は、「事実確認」と「成長する意欲の確認」の2ステップで行います。
例えば「忙しくてできなかった」という人に対しては、「なるほど、すごく忙しかったんですね。具体的にどう忙しかったか教えてくれますか。何に何時間かかったんでしょうか?」という問いかけを行います。
このとき相手がサボっていたのであればドキッとします。そしてサボっていたことを後悔するはずです。サボっているとバレるという認識を与えることはチームの活動を健全にする上で非常に重要です。
現状維持バイアスが強い人は成長する意欲が乏しい人です。そうした人には少し挑発的にしてでも成長する意欲を煽る必要があります。
マイルドな伝え方であれば、次のような問いかけをします。
アグレッシブな問いかけであれば次のような方法ができます。
もう暫く職場にいたいと考えている人であれば「いや、そういうわけではなく、、」と自分の判断を修正することがほとんどです。
もし「はい、私はこれ以上仕事をする気がありません」という人がいたら、その人の評価を下げたり、他に頑張っている人の評価を上げるといった対応が必要です。場合によっては、チームから抜けてもらう必要もあります。
マイルドな問いかけにしても、アグレッシブな問いかけにしても「わかりました。次からは~します!」という感情的な断定をしてはいけません。
そうではなく、相手に「~してもいいですね?」と問いかけることが重要です。最終的にどうするかの意思決定を行うのは相手であるべきです。
確証バイアス、楽観バイアス、現状維持バイアスなど思い込みが強く仕事をきちんとできない人や、結果が不十分な人に対して、その行動を是正するために、人格を否定するような言葉をかけてはいけません。
「あなたはダメだ」「そんなんだから~なんだ」といような相手の人格を否定する言葉によって、相手の思考や行動が変わることはありません。
むしろ、無意識のうちに自己防衛本能が働いて、余計に反発し思い込みが強くなってしまいます。
コーチングする側は決して感情的になってはいけません。感情に対しては感情の反発が返ってきます。
論理的に話をするためには、まずは感情を静めることが先決です。
その上で、事実確認や事実に基づいたフィードバック、問いかけをしながら、相手が自分自身で気づけるようにサポートすることが大切です。
フィードバックや問いかけで相手に気づきを与えたら、最後は「すぐできるアクションプランまで落とし込む」ことが重要です。
「では、最後にこのミーティングの内容を確認させてください。次の対応は〇〇までに△△を、□□の手順に沿って行うということでいいですか?」
こうすることで、相手は気づきを行動に変えて、新たな経験をするきっかけを得ることができます。そして行動した先にあるのが成長です。
相手が気づいてもそれを放置してしまえば、また慣れ親しんだ元の思考に戻っていってしまうことは目に見えています。それよりも早く成長の機会を与えることが重要です。