子供が2歳ごろになると「イヤイヤ期」と呼ばれる、多くの親が恐怖にひきつり恐れをなす時期に突入します。
自分がやりたいこと以外は受け付けない。何かを言われるとすべてに対して「イヤだ」と言ってイライラしてギャーギャー泣きわめく、そんなことが日常茶飯事になります。
多くの人がイヤイヤ期はない方がいいと考えますが、実は子供の成長にとってものすごく重要ななくてはならないものです。
ここでは、なぜ2歳児にはイヤイヤ期があるのかを人の心理的な成長の側面から解説しています。
2歳ごろになるとイヤイヤ期がやってくる理由は「自立した一人の個性を獲得しようとするため」です。
自立した一人の人間になるためには「自由」が必要になります。
子供たちは「自由」を獲得するために、自分自身の選択肢の幅を可能な限り広げようとします。
子供たちは自分の自由を見極めるために、あらゆる制限に反抗して戦います。
それは、自分たちの自由の領域を増やし、同時に、親や周りの環境により自分たちの自由の限界を見極めようとするためです。
2歳になったころから始まるイヤイヤ期の大本の原因になるのは、すべての人が持つ「障害や制限に反抗しようとする心理」です。
これは本能的なもので、決して親が嫌いとか、やれと言われたことが本当に嫌だというわけではありません。
アメリカで平均的な2歳児の男の子に対して行われた実験がその本能の強さを物語っています。
研究者は障壁の高さによって子供たちがおもちゃを手にしようとするまでにかかる時間を調査しました。
ある部屋で次の2つのパターンを用意し、子供たちがどのおもちゃに興味を示すかを調べるという方法です。
パターン1の場合は、部屋の中にある2つのおもちゃはそれぞれ同じぐらい入手しやすいものです。壁の横にいくか、壁によりかかり手を伸ばせば簡単に手に入ります。
パターン2の場合は、2歳児にとって壁が充分に高く、壁の向こう側にいく手間をかけない限りおもちゃにたどり着くことはできません。
実験の結果は明白で、障壁の高さが高いほど子供はその向こう側にあるおもちゃを欲しがりました。
壁の高さが30㎝のときは、横にあるおもちゃも、壁の向こう側にあるおもちゃもどちらも同程度の時間で入手しようとしました。
ところが、壁の高さが60㎝のときは、横のおもちゃは無視して一直線に壁の向こう側のおもちゃに向かいました。
横に置いてあるおもちゃに向かったのは、ある程度時間が経ってからでした。
手に入れるものが難しいものを、なんとしてでも手に入れようとする本能は私たちが生き抜くためにとても重要なものです。
現代ではその必要性は薄れつつありますが、ヒトという種が何十万年間も過酷な地球環境で生き抜くためには、なくてはならない本能でした。
抵抗が強いからといってすぐに諦めてしまう人は、食料やパートナーを得ることができず、死に絶えていってしまうからです。
つまり、私たちはそもそも「手に入れるものが難しいものを、なんとしてでも手に入れようとする本能が強かった生き物の子孫」ということです。
狂ったように制限や障壁に反抗しようとする心理は大人にも備わっています。
ただし、大人の場合は行動を制御する前頭葉などの脳が発達しているので、2歳児ほどイヤイヤな仕草は見せません(当然ですが)。
ただし理不尽な行動を私たちは簡単に目にすることができます。スーパーのセールで商品が乗ったカートが出てきて「大特価!30分限定!」という放送が流れると、たちまち人だかりができて早い者勝ちと言わないばかりに押し合い奪い合い合戦が始まります。
他には、本当は必要がないにもかかわらず「この世に1つしかない」「最後の一個」という言葉を聞くと急にそれが欲しくなってしまいます。
つまり、2歳児だけがおかしいのではなく、私たちヒトは制限されるとそれが余計に欲しくなる本能がプログラムされているということです。
心理学者のジャック・ブレームはこの心理のことを次のように説明しています。
自由な選択が制限されたり脅かされたりすると、自由を回復しようとする欲求から、私たちはその自由を以前よりも強く求めるようになる。
このため、希少性が強まり、ある対象に接するのが難しくなったとき、その状態に反発して、以前よりもそれを欲しくなり、何としてでも手に入れようとする。
イヤイヤ期は私たちに備わっている「手に入れるものが難しいものを、なんとしてでも手に入れようとする本能」が最大になっている状態です。
このような状態で「言う事を聞きなさい!」「やらなきゃダメって言ってるでしょ!」と命令や制限、禁止を訴えると逆効果になります。
言われた子供たちは無意識のうちに、ダメだと言われたものが余計に欲しくなります。
子供たちが自由を強く求めるのは「自己を確立する」という欲求のためです。
このため、子供たちに対して「~してくれないかな」「~してくれると助かるな」といったお願いをする方がより効果的です。
ただし、悠長なことを言っていられない場面や、どうしても言う事を聞いてくれないときは「もはやそういう時期でどうすることもできない」と悟り、諦めることも大切です。
イヤイヤ期は直面している親からするとたまらないほどにしんどいものですが、それは必ず終わります。3~4歳ごろには完全になくなっているのが一般的です。
あとから振り返ると「そんな時期もあったね~」と懐かしくなるものなので、1、2年後の思い出のため辛抱することも時には必要です。
ここでは、「怒っても意味ない、むしろ逆効果」ということを覚えておいてもらえれば幸いです。