昨今では「イノベーション」という言葉をあちこちで耳にします。あらゆる企業や社員が、何かイノベーションとなるものを探し求め、一発山を当てたいと考えています。
ですが、そもそもイノベーションとは何でしょうか?
イノベーションを誰も見たことも考えたこともない全く新しいモノと考えている人がいますが、それは間違ったイノベーションの定義付けです。
そういった定義はイノベーションの難易度を自ら上げ実行を難しくしています。
ここでは、イノベーションとは何か?イノベーションを起こすにはどういった環境が適しているかについてまとめています。
イノベーションとはオーストリアの経済学者として知られるヨーゼフ・シュンペーターが使った言葉で、「新しい技術や考え方で、これまでなかった劇的に有用な価値を生み出すこと」を指しています。
ポイントは「劇的に有用な価値が生み出される」ことです。
DIYなどちょとした工夫で新しい価値を生み出すことがありますが、それをイノベーションとは呼びません。
多くの人がその恩恵を受けるほどの「劇的さ」が重要になります。
イノベーションに対しては次の2つの間違った見解がはびこっています。
これまで見たことのないような形やアイディアを聞くと「それはイノベーションだね」と言う人がいますが、それは間違っています。
「ただ、新しいだけ」では不十分です。新しく、かつ何らかの新たな価値を生み出してこそそのベーションになります。
またイノベーションは「誰も見たことがないもの」である必要もありません。一部の人がそれは昔からあるよというようなことでも、その使い方を変え、新しい価値に流用することができれば、それはその分野でのイノベーションになります。
同様に「全く新しいものを生み出す」だけがイノベーションではありません。
例えば、自動車の原理となっていた蒸気期間は昔から炭鉱の水くみなどで利用されていました。その技術を人を乗せて走るものに応用したことがイノベーションだったのです。
イノベーションは登場した瞬間からイノベーションと認められる場合だけではありません。
最初はイノベーションと呼ぶには事足りなかったアイディアが、いくつもの改善を積み重ねる中で、他企業が追い付けないような劇的に有用な価値をもたらす商品やサービスになることもあります。
例えば、インターネットが登場した当初、YahooやAOLなど様々な企業が検索エンジンを作りサービスを提供していました。
Googleは後からその市場に参入しました。当初のGoogleの検索エンジンはリンクをベースに評価するという他者とは違う観点を持っていたものの、イノベーションと呼ぶほどではありませんでした。
実際、Googleの検索エンジンを使う人が最初から爆発的に多かったわけではありません。
ところが、その後、いくつもの改良がなされ、インスタントサーチや画像検索など様々な機能が追加されることでGoogleの検索エンジンは「劇的に有用な価値」へと変わっていきました。
加えられた改善数は500以上です。
最初はイノベーションと呼べないものでも、小さな改良をいくつもいくつも積み重ねることで最終的にイノベーションになることもあります。
なお、このパターンのイノベーションが最初に必要とするのは「斬新なアイディア」で、「劇的に有用な価値」は後から追加されたものです。
イノベーションを起こそうとする人が狙いがちなのは、まだどこも参戦していない静かな市場、いわゆるブルーオーシャンです。
ですが、本当にイノベーションにふさわしい環境は「急速に成長していて、競合企業がひしめく市場」です。
規模が小さい市場にはそれなりの理由があります。どんなにすばらしい製品を開発しても、それを求めている人が1人か2人なら劇的に有用とはいいません。
何千人、何万人という人々がその価値を認めるからこそイノベーションになります。
人々が馬に乗って移動していたとき、そこにイノベーションを起こしたのは自動車です。
コダックがフィルムカメラ市場を独占していたとき、そこにイノベーションを起こしたのはデジタルカメラです。
みんなが電話の受話器で話をしていたときに、登場したのが携帯電話です。
電話することが目的の携帯電話市場に、イノベーションを起こしたのはインターネットなど様々な機能を持ったスマホです。
このように、利用者がたくさんいて競合ひしめく市場に新しい価値を投入することこそがイノベーションです。
イノベーションを起こそうとする企業の中には「イノベーションを起こすための部署」を立ち上げて、「イノベーションの責任者を設定する」ところがあります。
「イノベーションセンター」や「イノベーション事業本部」などがその代表例です。
ですが、イノベーションは「イノベーションしろ」といって生み出すものでも、お役所的なフローに従って生み出すものでもありません。
イノベーションを生み出す方法は全く真逆です。「イノベーティブな人に自由を与えること」です。
組織や役職でガチガチに縛り付けるのではなく、通常業務の中で、自由な時間や発想、自由に行動挑戦する権利を与えます。
発想力豊かな人材は、そうした自由な時間や権利を使って、自由にアイディアを試し、それがイノベーションへとつながっていきます。
生物に目を向けると、人以外の爬虫類や両生類、昆虫など一匹一匹がイノベーションです。そうしたイノベーションがどのように生まれてきたかはダーウィンの進化論で表されます。
もともとは自然発生的に生まれたただの単細胞生物でしかなかった、生き物とも呼べないようなものが、環境に適合するように進化し、その中で競争と死滅を繰り返し、生き残ってきた結果です。
イノベーションも現存する生物と同じように進化や自然淘汰の末生まれた結果です。
イノベーティブなひとに自由を与え、自由な発想から生まれたアイディアの全てがイノベーションにつながるわけではありません。
自然発生的に生まれたたくさんのアイディアが戦い進化し、自然淘汰された末に生まれるものがイノベーションにつながります。
そのように、たくさんのアイディアが生まれ、進化し、戦い、自然淘汰される環境をつくることができた企業がもっともイノベーションに近い企業になります。
挑戦したり失敗することをマイナス評価にする企業でイノベーションが生まれることはありません。