子供たちには怖いものや嫌いなものがたくさんあります。大人がそんなものが怖いの?と思うようなものまで怖がったりします。
例えば「犬が怖い」「水(プールや海)が怖い」「野菜が嫌い」「人と話すのが苦手」などです。
こういった問題は過去の体験が精神的に影響していたりするなど難しい部分でもあります。
親が「そんなのちっとも怖くないよ」と言っても子供たちの心は簡単には変わりません。親が「こうやればいいんだよ」とやり方を示してもそれを真似ようとはしません。
何とかして恐怖心や嫌いなものを克服して欲しいと願う親心は強いものです。
特に泳げることは、家族みんなで海やプールを楽しめるようにするだけでなく、水害に巻き込まれたときに生存確率を少しでも上げるには必要です。
ここでは、心理学の側面から子供の水やプール嫌いを治すためにやってはいけないことと、やるべき簡単な方法を紹介しています。
子供のプール嫌いを治して泳げるようにするためにやってはいけない、というか、効果のない方法があります。
それは泳ぐのが上手で、水泳のことを知り尽くした教えるのがプロのインストラクターを雇うことです。
見るからに筋骨隆々でたくましく、実績があれば、きっと教えるのも上手に違いないと思う人は少なくありません。
ですが、子供にとってそういった人から「必ず泳げるようになるよ」と言われるのは無意味、どころか逆効果になりかねません。
プール嫌いを治すためにやるべ簡単な方法は「子供と同年代か、自分よりも小さい子供が楽しそうに泳いでいる場所に連れていくこと」です。
これだけで、今までプール嫌いだった子供がほんの数時間(時には数十分)の間に、自ら進んで泳ぐようになります。
プロのインストラクターでは効果がなく、同年代の子供であれば効果があることについては、アメリカの著名な心理学者 ロバート・チャルディーニが自分の子供との実体験を語っています。
土地が広いアメリカでは日本と違って裏庭にプールがある家が少なくありません。それは優雅なようにも見えますが小さい子供たちにとっては危険なことでもあります。
実際、毎年何人かの子供たちが人のいないプールで溺れて命を落としています。
チャルディーニの3歳の子供はプールに入ることができましたが浮き輪なしで泳ぐことを極端に恐れ拒みました。
子供の将来のためになんとかしなければいけないと思ったチャルディーニは子供が浮き輪なしでも泳げるように休日を使って2か月間特訓をしました。ですが、子供は泳げるようになりませんでした。
困ったチャルディーニは自分の勤める大学で水泳の救助員と指導員をしたことがある大学院生に子供に水泳を教えてもらうよう頼みました。
ですが、その大学院生も子供を浮き輪なしで泳がせることはできませんでした。
チャルディーニにとって子供が浮き輪なしで泳げるようになることはお手上げ状態でした。
ところがある日、子供が参加しているキャンプにチャルディーニが迎えに行ってみると、自分の子供が飛び込み台からプールの一番深いところに飛び込んでいるのを目にしました。もちろん浮き輪はありません。
驚いたチャルディーニが子供に「泳げるじゃないか!」と言うと、子供は「うん。今日習ったんだ」と言いました。
チャルディーニが続けて「それはすごい!でもどうして今日は浮き輪が無くても大丈夫なんだい?」と聞くと、子供は次のように答えました。
あのね、僕は3歳で、トミーも3歳。トミーが浮き輪なしで泳げるんだったら、僕にだってできるってことでしょ。
つまり、自分と同年齢の子供ができているのだから、自分にもできて当然という心理が働いたということです。
チャルディーニの子供が自分と同年代の子が浮き輪なしで泳いでいるのを見て、自分も浮き輪なしで泳げるのだと考えそうしたように、人には「他の人たちが何を考え行動しているかているかを基準にして物事を判断する」心理があります。
これを専門用語で「社会的証明の原理」といいます。
社会的証明の原理は、特に次の3つの条件下において最も強い力を発揮します。
この中でも子供たちにとって「行動をしている人たちが類似している」というのが非常に有効に作用します。
なぜ子供のプール嫌い克服のために経験豊富なプロのインストラクターをつけてはいけないかというと、自分よりも年齢が上で、体形もしっかりしていて、経験と実績もある人を見ると、子供は自分とは明らかに違う存在だと認識します。
「年上だから」「大人だから」「体形がしっかりしているから」「経験があるから」「実績があるから」という自分とは違う理由を無意識のうちに見つけ出し、結果として自分にはできるはずがないという思いをより一層強いものにしてしまいます。
一方、体形も年齢もほとんど同じ人がやっているのであれば「自分にもできて当然」という感情が芽生えます。
そういった感情はその子が自分よりも劣っているとみなした場合により強く働きます。例えば、3歳の泳げない子供が、自分より小さな2歳の子供が楽しそうに泳いでいるのを見れば、より強く「自分も泳げるはずだ」と思う気持ちが自然と湧き上がります。
また、その数も一人ではなく、多ければ多いほど効果があります。
人数が多ければ多いほど「その人が特別なんだ」という理由が薄れていくためです。
ここで紹介したプール嫌いや浮き輪なしで泳げないを治す以外にも、社会的証明の原理を使って、犬嫌いや極度の内気(引っ込み思案)を治せることも実証されています。
詳細については下記をご参考ください。
(参考)怖がる・嫌がる子供の恐怖心を取り除く簡単な方法|犬嫌い、内気で引っ込み思案を治す簡単な方法
社会的証明の原理が働くのは子供ばかりではありません。子供や大人に限らず私たちヒトに共通して働きます。
社会人1年目の人がある課題に悩んでいる時に、ベテラン社員に「そんなのすぐできるようになるよ」と言われても「その人とは経験も実力も違う」と考えてしまうものです。
ですが、同期のほとんどがその課題をできているなら「自分にもできるはずだ」と思うものです。
社会的証明の原理には注意点があります。それは善悪に関わらず、類似したより多くの人がやっていることを真似するようになるということです。
ロバート・オコナーは別の研究で、暴力的なシーンを含んだ映画を見た子供たちは、そうでない場面を見た子供たちよりも暴力的な振る舞いが多くなることが確認されています。
同様にCMでジャンクフードを食べている映像を何度も見ると、ジャンクフードを食べることが普通のように感じるようになります。
つまり、子供たちにどういったものを見せるかは、子供の性格や成長に与える影響が特に大きいため、親はそれを十分に注意してコントロールする必要があるということです。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。