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なぜ数値データで示すことが重要なのか?イメージによる錯覚と共有情報バイアス(異なる経歴の人に聞くべし)

企業では何か提案をするときに必ずといっていいほど数値を求められます。ちゃんとした会社やちゃんとしたトップであればあるほど数値データを重要視します

数値データを集めるのは簡単ではありません。「細かい」「めんどくさい」と思って嫌がる人が大半です。

ですが、もしトップが「こんなにみんな嫌がるなら、なくてもいいかな」と考え、細かい数値の裏付けをなしにしてしまうと、その企業の先行きは怪しくなります

ここでは人の性質から見てなぜ数値が必要なのか?について解説しています。


イメージによる錯覚

人には「イメージしやすいを正しいと思い込む」性質があります。

例えばある新聞で「インドで80歳の高齢な女性が出産した」という情報を目にすれば、「女性は80歳でも出産できる」と思い込みます。

ですが、実際には40歳を超えると妊娠できる確率はぐっと下がります。何十億人といる女性人口の中で80歳で妊娠した人よりも、40歳を超えて妊娠できなかった人の方が圧倒的にたくさんいます。

つまり真実は「80歳で妊娠できる可能性はほぼゼロに近い」です。

同様に「大好きなタバコを吸い続けていて100歳を超えた人がいる」というニュースが話題になると「タバコを吸っていても100歳まで生きられる」と思い込みます。

ですが、真実は「タバコを吸ってガンになり短命で亡くなった人の方が圧倒的に多い」です。

台風や大雨の季節になると土砂崩れのニュースが飛び込んできます。そのニュースを見ると「土砂崩れは命に関わる。危険!」という感情が強くなります。

ですが、2020年の土砂崩れによる死者は21人であるのに対し、交通事故の死亡者は2,839人、うつ病などによる自殺者は21,081人です。

真実は「土砂崩れよりも、交通事故の方が危険、交通事故よりも鬱などの精神疾患の方が危険」です。

それなのに、私たちはパっとイメージしやすい物事の方が正しいと思い込みます

point

人はイメージしたことや、イメージしやすい物事を正しいと思い込む生き物。


共有情報バイアス

集団で何かを議論するときに「共有情報バイアス」という思考の偏りが発生します。

共有情報バイアスとは、集団で話し合う時に重要なことよりも、みんなが知っている(共有されている)情報を優先的に話し合うという性質です。

つまり、イメージしやすい事を重要とみなして、イメージしにくい事を重要でないと思い込んでしまうということです。

例えば、企業の幹部が集まったミーティングでは決算数値を議論するのが一般的ですが、実はライバル企業の巧みな戦略や、社員の急なモチベーション低下の方が重要な話題だったりします。

point
  • 人はイメージやすいことを重要と思い、イメージしにくい出来事を重要でないと思い込む。
  • 集団では重要なことよりも、みんながイメージしやすいことが話し合われる。


数値データの重要性

「イメージの錯覚」と「共有情報バイアス」からもわかるように、私たちの脳は感覚的に何が重要かを判断できるようにはできていません

経験則などで当たることもありますが、その精度は常に正しいとはいえません。

私たちは想像しやすいことが「正しい」「重要」と思い込んでしまう生き物です。

その思い込みから抜け出す方法の一つが「数値データ」です。

「インドで80歳の高齢な女性が出産した」という情報があっても、同時に「年齢による出産可能性の推移」というデータがあれば、高齢での出産がいかに難しいかということはわかります。

企業を成功に導いているトップや優秀な人ほど「自分たちはイメージの錯覚に陥りやすい」ということを理解しています

だから厳しいほどに数値データ示すことにこだわります

point

賢い人ほど「自分たちはイメージの錯覚に陥りやすい」ことを知っている。


イメージしやすいものを使おうとする

「イメージによる錯覚」と「情報共有バイアス」の他にもイメージによるワナがあります。

それは、「人はイメージしやすいものを使う」ということです。

「カナヅチを持っているとあらゆるものが釘に見える」という言葉があるように、自分がイメージしやすい解決手法があると、なんでもかんでもその方法で解決しようとする性質があります

例えば、縫合が得意な外科医は、お腹を切り裂かずとも薬の服用などで治すことが可能な病気ですら、自分が得意な縫合手術で治そうとします。

エクセルが得意な人は、わざわざエクセルを使う必要がないことですら、エクセルに落とし込みます。

この2つの例は余計な手間が増えただけで致命傷にはなりません。ですが、間違った解決方法として使われることも少なくありません

経営コンサルタントはこれまでに経験したことがない新たな難問に直面したとしても「これは初めてなのでわかりません」とは言いません。自分がこれまで使ってきた手法をこれまでと同じく使います。

その手法が適切かどうかは考えません。ただずっとそれでやってきたからそれを使うだけです

point

人は合っている、合っていないに関わらず、自分がイメージしやすい馴染みの方法を使おうとする生き物。


異なる経歴の人と協力する

自分の専門分野やイメージしやすい手法で解決を試みてしまう方法を防ぎ、もっと効率的な方法を見つけるには「自分とは異なる経歴の人に聞く」ことが大切です。

残念ながら人はその人の専門分野やこれまでの経験則でしか物事を考えられません。新たな方法を試すには異分野の専門家に聞く以外に方法はありません


強烈なイメージの力と活用方法

ここまでは「イメージの錯覚」「情報共有バイアス」「イメージしやすいものを使おうとする」といったイメージによる危険性を解説してきました。

これらは私たち人にとってイメージがいかに強力かを示しています

イメージの力を使えば人を一つの方向に向かわせたり、信じ込ませることもできます

悪い例ですが、ドイツ ナチスのヒトラーは「ユダヤ人こそ我々の敵だ、不幸の原因だ」と声高々に叫び続けました。

結果として多くのドイツ人の頭の中には「ユダヤ人こそ我々の敵だ、不幸の原因だ」が刷り込まれ、ユダヤ人を殺害するにまで至りました。

同様に、宗教も何度も何度も繰り返し伝えることで、神は本当にいる、奇跡は本当にある、神が怒ればバチが当たると信じ込むようになります。

どちらもやっていることは「何度も何度も繰り返し伝え、頭の中でパッとイメージできるようにする」ことです。

そうすれば人の性質上「イメージできることが正しい、重要」と思い込むようになります。

もちろんこの特性は悪いことではなくいいことにも使えます、環境保護や企業理念の浸透など何度も何度も繰り返し伝えれば、それを聞いた人はやがてそのことが重要だと思い込むようになります。

point

強力なイメージの力を活用するには、何度も何度も繰り返し伝え、頭の中でパッとイメージできるようにする。


まとめ

私たちのイメージや直感は素晴らしく早く、正しいこともたくさんあります。自分が幸せだと感じることを見つけるには直感が全てです。

ですが、ビジネスで成功をおさめる場合や、問題を解決する場合には、イメージは全く違う方向へ向かってしまうリスクが大いにあります。

自分の外にある真実を求める場合は直感よりも信頼できる数値データを用いるべきです。それがイメージの罠に捕らわれないための方法です。

自分の専門分野に固執せず、異業種の専門家や全く異なる経歴を持っている人に話を聞く柔軟性を持てば、自分では想像できない程のよりよい解決策が見つかる可能性があります。

イメージの力は私たちが思っている以上に単純で強力です。世の中を良くする方向に活用して、あなたやあなたの周囲にいる人が幸せになっていくことを心より願っています。


参考

この記事の内容はスイスの有名起業家 ロルフ・ドベリが記した「Think right ~誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法~」の一部抜粋と要約です。

人が陥りがちな思考の罠がとてもわかりやすくまとまっています。この記事の内容以外にも全部で52個の人の性質がわかりやすい具体例で解説されています。

この記事の内容でハッとした部分が一つでもあった方は是非手に取ってご覧になられることをお勧めします。

あなたの人生をより賢く豊かにしてくれることは間違いありません。


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