共有地の悲劇(コモンズの悲劇)とは、一般に開放された共有地は利己的な人の存在によって、回復できないまでにダメージを追ってしまうことを意味する専門用語です。
すなわち、共有地を使って一時的な利益を得ようとした結果、最終的に誰も利益を得られなくなることを示しています。
コモンズとは英語でCommonsで表記し共有地という意味です。アメリカの生態学者ギャレット・ハーディンが1968年に論文雑誌のサイエンスに投稿したことにより話題になりました。
そこで示されている内容は1833年にオックスフォード大学のウィリアム・フォスター・ロイドが発表した著書の中でも見ることができます。
イギリスの教会には教区と呼ばれる広い共有地があります。そこでは農夫たちが決められた数の牛や羊などの家畜を放牧することができます。
決められた数がきちんと守られている間は、ちょうどいい具合に牧草が生えてきて、共有地は良い状態を保つことができます。
ところが、一部の農夫が利益欲しさに家畜の数を増やしてしまうと、短期的には利益を得られるものの、牧草が家畜全体にいきわたらなくなり、共有地の状態が悪化していきます。
家畜は十分な牧草を得ることができず栄養不足になり、最終的に利己的に数を増やした人を含め全ての人が損をすることになります。
共有地の悲劇は現代でも至る所で見ることができます。
ここ最近の日本ではサンマ、マグロ、サバなど漁獲量が減ってきて不漁が叫ばれています。これは日本の海域という共有地における悲劇です。
魚が充分に育つためには、子供を産むためのオスとメスの魚が一定数以上いる必要があります。
ですが漁による儲けという観点で見ると、その年の売上や利益はいかにたくさんの魚を捕まえることができたかによります。
結果、魚を残して未来の漁獲量につなげるよりも、魚をたくさん取った方が設けられるという短期的な目線の人たちが乱獲して、最終的に魚の量が激減してしまいます。
地球温暖化を防ぎ、土砂災害などの自然災害を防ぐには森林の存在は重要です。私たちヒトが今後も地球で暮らしていくために森林はなくてはならないものです。
ですがブラジルのアマゾンを代表として大量の木が伐採されています。生産者がより多くのお金を得るために大豆の生産や発電所設置のために開墾している状態です。
2021年の調査結果では森林伐採のうち94%は違法だとの見解が出ています。
失われた森林が元に戻るまでには十年単位の時間がかかります。これも明確に管理されていない共有地で起こった悲劇といえます。
共有地における人々の心理は次のような思考実験をするとわかります。
共同基金という投資先があり、全員が投資した総額の2倍を全員に均等に分配する仕組みがあるとします。投資できる上限金額は1000円です。
ある4人の人が投資をする場合、当然みんな1000円払うと考えます。そうすると誰もが2000円受けとることができるからです。
ところが誰か1人が1円も出さずに利益を得ようとした場合、基金に集まったのは3000円で全員に分配されるお金は1500円(6000円÷4人)になります。
1000円払った他の3人は、誰かがずるをしてお金を払わずに利益を得ていることに気付きます。3人が得た利益は500円なのに対し、1円も払っていない人が1500円得ています。
3人は不信感を持っているので2回目の投資では満額の1000円ではなく、様子見で400円だけ出資したとします。またしても先ほどの一人は1円も出資しませんでした。
基金に集まったお金は1200円、分配されるのは600円です。
400円払った3人が得したのは200円だけです。一方1円も払っていない人は600円得をしました。
2回の投資で最終的にお金を払った3人が得た利益は700円、1円も投資しなかった人は2100円儲けたことになります。
1円も投資しなかった人は「楽して1番儲けられた。しめしめ」と思っていますが、この基金への信頼感はなくなるため、これ以降この投資は成り立たなくなります。
本来みんなが得できるシステムなのに、誰かが目先の利益を優先した結果全員が損をする結果になったということです。
投資家 | 1回目の利益 | 2回目の利益 | トータルの利益 |
---|---|---|---|
お金を出資した人 | 500円 | 200円 | 700円 |
1円も出さない人 | 1500円 | 600円 | 2100円 |
共有地を有効活用して全員が得られる利益を最大化するためには全員がルールを順守し信頼感を作ることカギとなります。
全員がきちんと出資する、全員がきれいに使う、全員が未来の利益を優先することができれば、他の人た ちも共有財産を信頼感をもって使うことができます。
誰か1人がズルし始めると、「あいつが守らないなら自分も守らない」と言ってズルする人が出てきます。そして、信頼感がどんどんと失われて行きます。
共有地や市場、環境の中に悪い人が数人いるだけで、他の人が持つ信頼感が失われてしまうということです。
これを防ぐためには、規律を厳しくし、それを守らない人を厳しく罰していくか排除していく以外に方法がありません。
会社の中にも社有車や備品、パソコンといった共有財産が数多くあります。それらの管理をいいかげんにしていると共有地の悲劇によってどんどんとボロボロになっていきます。
「社有車は大切に使いましょう」といったところで、誰かが私用したり雑に扱ってお咎めもない状態では、他の人たちも雑に扱ってしまいます。
最終的に車は想定以上に走らされたり、雑に扱われて外装に傷がついたり内装が壊れたりという状態になります。
企業の社有車の状態を見れば、そこに所属している人たちがどの程度の信頼感で行動しているのかがわかります。
モラルの低い会社ではルールを破って一時的に得をする人がいるかもしれませんが、最終的には業績悪化につながり、その人も含め全員が損する結果となります。
この記事の内容はアメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」の内容の一部抜粋と要約です。
人が犯しがちな判断ミスを行動経済学という観点から紐解いたものです。ユーモアを交えた文体でとても読みやすく新たな発見がたくさん詰め込まれています。
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