多くの人はおせじを言ったり、ご機嫌取りをすることを嫌います。そういうことをしている人を見ると軽蔑の目で見たりします。
ですが、相手にモノやサービスを売ったり、こちらに興味を持って欲しい場合は、おせじを言ったりご機嫌取りをすることはとても重要です。
それは人が最初に抱いたイメージや感情を引きずる生き物だからです。
最初の段階で相手を持ち上げて気持ちよくさせることができれば、その後で何かをしてもらったときに相手は気持ちいいままその行動をします。
一方、相手が嫌な気持ちや不快感を持った状態で何かをすると、まったく同じ事をしてもらったとしても嫌な印象を抱きます。
ここでは、人がいかに最初に思い描いたイメージを引きずる生き物かについて解説しています。
突然ですが、バルサミコ酢をご存じでしょうか?イタリア料理によく使われる強烈で独特な匂いと味をもった酢です。
豚肉と一緒に炒めればおいしくなりますが、バルサミコ酢だけの匂いを嗅いだり、単体で飲めば「おえっ」となる代物です。
アメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーはバルサミコ酢とビールを使って、人が最初に抱いた感情がその後の行動にどう影響するかを調べました。
実験内容はとても簡単です。普通のビールとビールにバルサミコ酢を2~3滴加えたものを2つ用意します。そして被験者にそれぞれを試飲してもらいどちらが美味しいか選んでもらいます。
そのとき被験者を次の2つのグループに分けます。
グループA:事前にバルサミコ酢が入っていると伝える。
グループB:バルサミコ酢のことは伝えない。
どちらのグループも事前に渡された情報が違うだけで、飲んでいるものは全く同じです。
事前にバルサミコ酢が入っていると伝えられたグループAの人たちは、バルサミコ酢入りのビールを飲むときに、鼻にしわを寄せて少しだけ味見し、最終的にバルサミコ酢が入っていないビールを選びました。
事前に「バルサミコ酢入り」→「おえっとなる」→「バルサミコ酢の入ったビールもおえっとなる」と自然に連想してしまったわけです。
バルサミコ酢のことを何も伝えられなかったグループBの人たちは、2つのビールを試飲して、自らバルサミコ酢入りのビールを選びました。
更に重要なことは、バルサミコ酢入りのビールを選んだ人に、後から「バルサミコ酢が入っている」と伝えても、気に入ったという評価はほとんど変わることがありませんでした。
人は最初に抱いたイメージを強く引き継ぐという特徴はビジネスにおいてとても重要になります。
人がパッと目に入ったものや事前に聞いた情報からイメージ(予測)したことが、その商品の価値につながるということです。
このため、何かモノやサービスを売る時に事前に、相手と良好な関係性を築いたり、商品の価値や楽しさを伝えておくだけで、最終的な評価が大きく変わるということです。
例えば、ある車を試乗する人がいるとします。とりあえずカーディーラーに行ってなんとなくその車に乗った人と、事前に友達からその車のよさをとくと聞かされ強い興味を持っていた人では、乗車後の感想も違ってきます。
料理で見た目をおいしそうに見せたり、明らかにおいしいをイメージさせるものを一つ加えることも重要です。
するとその料理を食べる人は食べる前から「美味しい」をイメージし、食べたときもそのイメージを引き継ぎます。
逆に、悪いイメージを持った状態で食べれば、その料理と悪いイメージが紐づいてしまいます。
「人は見た目が9割」という言葉がありますが、人の脳がイメージから自動的に連想し、その印象をつなげてしまうという性質からある程度正しいと言えます。
カチッとしたスーツを着て、飾りでしかないネクタイをつけていると「この人はしっかりしている人だ」という印象を持ち、その後の説明でも「この商品もしっかりしている」というイメージを持ちやすくなります。
有名な成功者は、他のこともよく知っていて、家庭生活も円満にいっていると想像してしまうのも同じ理由です。心理学用語ではハロー効果といいます。
この記事の内容はアメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」の内容の一部抜粋と要約です。
人が犯しがちな判断ミスを行動経済学という観点から紐解いたものです。ユーモアを交えた文体でとても読みやすく新たな発見がたくさん詰め込まれています。
この本を読んだことがあるかどうかで今後の人生の行動が変わってしまうほどのパワーを持ちます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。