世の中には起業したり経営者になって一山当てたいという人が少なくありません。
そのために多くの経営者が有能になろうとMBAを取得したり、本を読み勉強し努力を重ねます。
ですが、現実の世の中を見ると、有能だから成功するという理論は必ずしも成り立っていません。
ここでは、企業の成功を決定づける要因が「有能さ」以外にあることをまとめています。
ある研究で、優秀なトップが率いる会社は本当に強いのかを確かめるために、ランダムで選んだ2つの企業のトップの能力とその企業の成績の比較を行いました。
その結果、優秀なトップが率いる企業の実績がいい確率は60%、優秀でないトップが率いる企業の業績がいい確率は40%でした。
このことは、企業の成功がトップの優秀さにあまり影響を受けないことを示しています。
もちろんトップが優秀かどうかの影響度がゼロというわけではありません。プラスになりますが、それは10%程度でしかないということです。
このため、トップの有能さだけを過信して企業の業績判断を行った場合は、大きな間違いに至ることになります。
心理学者でノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンは次のように語っています。
有能なビジネスリーダーの本を熱心に読む人は多いが、実際には、彼らが会社を率いても業績が上がる可能性が大幅にアップするわけではない。
業績を決める最も重要な要素は「運」と「ボートの性能」と「市場」です。
ダニエル・カーネマンは投資コンサルタントのパンフレットを見たときに、彼らの成績が本物なのかを調べるため次のような調査を行いました。
過去8年間で投資コンサルタント一人一人の成績について「1年前と2年前」「1年前と3年前」というように相関関係を調べ、一番優秀なコンサルタントを調べる。
その結果、その年に優秀だとされている投資コンサルタントは、他の年では最下位グループになることもあり、誰が上位グループに入るかは「運でしかない」ということが判明しました。
つまり、投資の世界においては、その年や過去に高い成績を上げたからといって、それはその人に能力があったわけではなく、運がよかった要素の方が強いということです。
また、東日本大震災やコロナが発生するといったことは誰にも予測できません。そこまではイケイケで伸びていたとしても、その影響をモロに受ければ企業は大きく傾きます。
企業において業績を決める大きな要因の一つは「乗り物の性能」です。
例えば、AさんとBさんがいて、Aさんの方がBさんよりも優秀だとします。全く同じ性能のクルマを運転した場合は、当然Aさんの方が勝つでしょう。
ですが、Aさんが660ccの軽自動車に乗り、Bさんが3000ccのスポーツカーに乗れば、いい成績を残すのはBさんの方です。
もちろん、運転ができてカーブが曲がれるというある程度の運転技術は必要です。ですが、成功を左右するのは運転技術といった能力ではなく、乗り込む乗り物自体の性能です。
世界長者番付の常連で世界屈指の投資家にウォーレン・バフェットは次のように語っています。
経営者としての業績は、漕ぎ方が効率的かよりも、乗っているボートの性能によって決まる傾向がある。
企業において業績を決める大きな要因に「どこの市場を選ぶか」もあります。
例えば、航空業界は他者との差別化や収益率を改善させることが難しい業界と言われています。一方、現在であれば、需要が増加の一途をたどっているIT業界に身を置くことで業績が上がりやすくなります。
これは雇用者がどこで働くかにも大きく影響します。
例えば、保育士の平均給与は315万円、プログラマーの平均給与は433万円です。保育士の仕事が簡単で楽かといえばそうではありません。
むしろ、とても忙しく大変です。ただ業界構造的に平均や上限の給与が決まってしまうのです。
金銭的な成功を手に入れたい場合は、MBAなどの資格取得や読書、勉強に励んで能力を伸ばすよりも、「市場選び」と「乗り物の性能を上げる」ことに集中すべきです。
適切な市場で、最高性能の乗り物に乗っていれば、ある程度の成功を収めることができます。
逆に、落ち目の市場でダメダメな乗り物に乗っていたら、あなたがどんなに優秀でも、衰退の流れに抗うことはできません。
最近では「乗り物の性能を上げる」ために、利益を追求するのではなく、チームワークや働きやすさを重視する企業も増えてきました。
そのように自分の能力ではなく、自分が所属している環境全体の能力を上げることがより成功を確実なものにします。
そして、あとは神に祈りましょう。運が良ければあなたは成功を手にします。
当然ですが「能力」や「努力」が全く意味をなさないわけではありません。
プログラマーや職人は腕がいかにいいかが「運」よりも効果を発揮します。運だけでは家を建てることはできません。
重要なのは、自分が今どこの業界で何をしているか、今後何がしいたか、自分にとって重要なことは何かを見定めることです。
能力やスキル絶対主義に陥らないようにしましょう。
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