クリスマスはおもちゃメーカーやゲームメーカーにとって1年の中で最も熱い商戦のタイミングです。
子供目当てにたくさんの広告をうち、大々的に盛り上げて売り上げを伸ばそうとします。
クリスマスに大きな売り上げを上げた後は売り上げが落ち込むものです。もう子供には買ってあげたので更に追加で買う必要はありません。当然と言えば当然です。
引き続き広告を出したり、値下げをしても費用ばかりがかさんで、それほどの効果は生まれません。
ですが、人が持つ性質を巧みに利用してクリスマスが終わった後にも更におもちゃやゲームを売る方法があります。
ここでは、その巧みなマーケティング戦略を紹介しています。
リスマスが終わった後にも更におもちゃやゲームを売る方法は「大々的な広告」と「意図的な売り切れ」と「広告」を重ね合わせることです。
まずは売りたい商品を大々的に何度もCMなどで流します。何度もその魅力的な広告を目にした子供たちはザイアンスの法則により好感度が上がり「これが欲しい!」となります。
そしてサンタさん、あるいはお父さんやお母さんにおねだりします。
子供「ねえ、今年のクリスマスはあれが欲しい」
親「そうか。わかったよ」
子供「絶対だよ!」
親「ああ、わかったって」
おもちゃメーカーやゲームメーカーはお店に対してCMで放映した商品を少ししか卸さないようにします。
すると、いざ親がクリスマス前におもちゃ屋に買いに行ったところどこの店でも品薄で全然置いていません。
そこで親は子供につぎのように告げます。
親「あのおもちゃは残念だけど手に入らない。どこの店にも置いてないんだ」
子供「ええ、そうなの、、(悲しい顔)」
親「今回は仕方ないから他のにしてくれ」
子供「わかった、、(しぶしぶ他のおもちゃを選ぶ)」
こうして、まず一つ目のおもちゃが売れます。
そしてクリスマスも終わり、1月や2月になったころに再度同じ広告を流します。
するとそれを目にした子供たちが「ねえ、あれ欲しい」「買ってくれるって約束したじゃないか」と言い出します。
「もう他のおもちゃを買っただろ」と言っても子供には通じません。
そして親は渋々そのおもちゃを買いに行きます。今度はお店にしっかりと商品が置いてあります。
これで、クリスマス後に2つ目の商品が売れまたことになります。
この「広告」+「品切れ」作成を使って爆発的な販売を記録した商品に1980年代にアメリカのキャベツ畑人形があります。
キャベツ畑から生まれたという設定の人形です。
クリスマスシーズンに大々的に広告が出されたものの品薄でなかなか手に入らない状況でした。
子供たちに「買ってあげる」と約束した大人たちは、なんとかして手に入れようとしました。
オークションでは本来25ドル(約2500円)の人形が700ドル(7万円)という高値で取引されたほどです。
人形はクリスマスシーズンが過ぎても売れ続け、年間で15億ドル(約1500億円)もの売上を記録しました。
より最近の事例ではファービー人形があります。ファービー人形は日本でも人気です。
あるときあまりにも手に入れることができない親が不満を爆発させておもちゃメーカーの担当者に「子供にどう説明すればいいんだ!?」と問いただされた時、担当者は次のよう子供に伝えるように答えました。
頑張ってみる。もし今買えなくても、そのうちきっと買ってあげるから
この言葉を子供に言ってあげた親は、その後確実にファービー人形を買ってあげたでしょう。
まさに将来も売り上げを伸ばし続ける魔法の言葉です。
広告→売り切れ→広告のこの戦略は人がもつ2つの特性を利用しています。
一貫性の原理とは、自分が公表したり言ったり約束したことがあったら、無意識のうちにその言葉を守るように行動しようとすることです。
こどもに「買ってあげる」と公言し約束してしまったら、その先も買ってあげなければと思う心理です。
他の人と関わらなければいけない社会の中で、自分の言動が一致していることは信頼性に関わる非常に重要なことです。
このため人は無意識のうちに言動が一致するような行動をとるようになります。一貫性の原理のすごいところは、リスクや割に合わなかったとしても守ろうとするということです。
人が持つもう一つの特性は「希少性の原理」です。
これは「残り少ない」や「手に入らない」とわかった瞬間に、自分の中でそのモノの価値が実際以上に跳ね上がる心理です。
「ラスト1個」と言われたときに無意識かつ強烈に「何としても手に入れなきゃ!」と思う感情です。
そして、狙っていたものが「まだいいかな」と思っているうちに、売り切れになってしまったときに感じる「あのとき買っておけば!」という強烈な後悔です。
お店を回ったのに品薄で手に入らなかった事実に直面した瞬間に、買おうとしていたおもちゃの価値がグンと上がり、実際の値段以上払ってもいいと思うようになります。
よく、予約困難で1年や2年先まで埋まっている料理屋さんがあります。あれはわざと1日に予約できるお店のキャパをかなり絞って希少性の原理をフル活用しています。
希少性の原理をフル活用しているしているマーケティング会社にフェラーリがあります。
フェラーリの車は1台 約3000万円~8000万円ほどです。
フェラーリの製造の原則は「製造台数はマイナス1する」というものです。希少性による価値を維持するため数の制限を信条にしています。
フェラーリの中でも超高級車にエンツォという車種があります。これはフェラーリの創設者エンツォ・フェラーリの名前からきた車で台数限定の特別車です。
エンツォの製造数は400台ー1でたったの399台です。価格は驚きの8000万円です。
広告やメディアで取りざたされたことと、希少性の原理があり、399台に対して購入したいというオファーが何千もありました。
2003年に発売されたにも関わらず、希少性の力はますます威力を増して、17年後の2020年のオークションで2億7千万円で落札されたほどです。
売れるときにどんどん売った方がいいという考え方もありますが、人間心理を考えると大々的に広告を打って欲しい気持ちにさせておいて、敢えて品薄にしておくというのは長期的で賢い選択です。
一流のマーケターを目指すのであれば「一貫性の原理」と「希少性の原理」をぜひ使いこなしてみてください。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。