世の中には地価の高い高級オフィス街にオフィスを構え、派手で豪華なオフィスを築き、地位や役職が上がるほど素晴らしい個別の部屋を貰える企業が存在しています。
アメリカの人気ドラマ スーツ(SUITS)でもハーヴィーは超高層ビルで一面ガラス張りの見るからに高価な部屋を割り当てられています。
中に置いてあるお気に入りのレコードなど置いてあるものも趣味嗜好に合う一級品ばかりです。
そして同僚(ライバル)のルイスはハーヴィーを出し抜きより大きな自分の部屋を手に入れることを目的としています。
地位や役職が上がるごとに高級な部屋を割り当てられることは競争意欲を増し、仕事への情熱を燃やすことになりますが、それはポジションの奪い合いなど企業内での対立も生み出します。
もちろん儲かっているにもかかわらず、経営陣側の利益のみを優先し、従業員の居住空間に投資せず、ボロい机やイスを強要することはもってのほかです。
では、従業員が働く空間に対してどのように投資するのが最も効果的なのでしょうか?
ここでは、世界最大の成功企業の一つ、Googleのオフィスに対する考え方を紹介しています。
最初に結論から言うと、Googleが考えるオフィスの目的は「交流とエネルギーを最大化すること」です。
自分たちの席はパーティションなどで仕切られ静寂が保たれている状態ではなく、活発な交流が起こり、熱気とエネルギーが溢れる状態が作られる状態をデフォルトとして設計しています。
もちろん常に、騒々しい場所にいなければいけないわけではなく、ゆっくりできる場所も用意されています。
従来型の「静寂なオフィス + みんなで集まる会議室」という使い方ではなく、「みんなで集まるオフィス + 静かに一人になれる場所」という真逆の発想です。
Googleのオフィスは創始者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが学生時代を過ごしたスタンフォード大学の学生寮をモチーフにしています。
学生が世界トップレベルの文化施設、スポーツ施設、研究施設を利用でき、一日の大半を本気で勉強に費やせる環境を実現しようとしています。
より熱意のある人たちが集まり、エネルギーを生み出す場所にその人たちが交流することで、より巨大なエネルギーが生まれる。そんな場所が表現されています。
このためオフィスの席のスペースは決して広いわけではなく、腕を伸ばせば隣の人に触ることができ、小声で電話したとしてもその声は周りに聞こえるような環境です。
窮屈な場所に社員を押し込めることはもう一つのメリットがあります。それは人は集団になった方が社会的な統制が適用されるためです。
あまりにも人を離し、個々に分けてしまうと、それぞれが好き勝手初めてしまい統制をとることが難しくなります。
一人ズルする人が出てきたとしてもそれを規制しようとする人が少なくなります。みんな自分の自由を確保しようとするためです。
ですが、窮屈な場所であれば悪い行いをした人を注意したり批判する力が働き企業の秩序を守ることにつながります。
マネージャーなど組織の上にいる人たちはどのような環境にいるかというと、それは他の従業員と全く同じ環境です。
むしろ、マネージャーこそがプロジェクトに関わるエンジニアなど他のメンバーと率先して交流することを目的としています。
マネージャーに求められることは、製品の設計やスケジュール管理だけではなく、その製品をより良くするヒントを見つけることです。
そのために、消費者の商品の使い方を把握したり、データの理解や分析、技術トレンドが業界に及ぼす影響を見極めるためエンジニアと共に食事も生活も共にすることが求められます。
贅沢することや豪華に装飾することがいけないわけではありません。実際Googleのオフィスは地価の高い一等地にあり、キレイで内装にもかなりのお金がかけられています。
ただ、お金をかける目的は「交流とエネルギーの最大化」を達成するための手段でしかありません。
カリフォルニアにあるGoogleの本社には、バレーボールコート、ボーリング場、ロッククライミング、滑り台、パーソナルトレーナーが常駐するジム、本格プール、などさまざまな高価なアミューズメントが揃っています。
さらに無料の美味しいカフェテリアが設置され、敷地の至る所に最高級のエスプレッソマシン、スナックや飲み物が置いてあります。
その豪華さは目を見張るほどです。
ポイントはお金をかける目的と場所が従来とは大きく異なるということです。
私たち日本人は特に綺麗にし清潔感を保つこと小学生時代から叩き込まれています。
このため、デスクの上は毎日綺麗に整理整頓することが重要で、整理整頓ができない人は仕事ができないと考えている人も少なくありません。
ですが、Googleではそうは考えていません。オフィスのデスクの上は自己表現や創造、イノベーションの副産物として捉えられています。
実際、日本の企業の中にもデスクの上に書類が山積みになっている優秀な猛烈社員はたくさんいます。
末期ガンで47歳という若さでこの世を去った、カーネギーメロン大学の終身教授 ランディ・パウシュも自身の「最後の授業」の中で、自分が子供時代に使っていた、壁いっぱいに手書きの公式が書かれた部屋を見せながら次のように語っています。
みなさんの子供が自室の壁に何か描きたいと言ったら、ぼくに免じてやらせてやってください。
自己表現やイノベーションの副産物を抑え込もうとすると大きな弊害を生じることになります。
オフィスの広さや高級さを重視する文化は社内に有害な影響を及ぼします。
派手で高級なオフィスにお金をかけてはいけない理由は2つあります。
役職が上がると、オフィスが広くなったり与えられる社用品が高級になったり、より高い階層で広い窓と一面が見渡せる部屋が与えられる場合があります。
ですが、それは他の社員たちとは隔離された世界で、個別に会いに行かない限り一緒になることが無い状態になります。
役職によって他の人たちとの明らかな違いを設けることは嫉妬心を抱かせる原因になります。
社内での政治が蔓延したり、恨みつらみ、見下しといった感情が多くの人たちに沸き起こります。
バロンチェアやアーロンチェアなど1台10万円以上もするイスや高級な机は必要でしょうか?他の会社に対して見栄をはり、優越感を得るためには効果的かもしれません。
ですが、社員同士の交流やエネルギーを高め創造的なものを生み出すという点では必要のない贅沢なものです。
高級家具や大きなオフィスには財布の紐を締め、マネージメントも含めた社員が交流できる場をつくることに財布の紐をゆるめることこそが、新しいオフィス環境のスタンダードになっています。
この記事の内容はGoogleの経営陣 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジの共著「How Google Works ―私たちの働き方とマネジメント」の内容の一部抜粋と要約です。
一国家と同等な資金を持ち、世界中で知らない人はいないほどのGoogleという大成功企業の中で、
などなど、これからの時代に欠かすことのできない内容がギッシリ詰まった一冊です。堅苦しくなくユーモアがあり読みやすい文体ですので、ぜひ一読されることをお勧めします。