私たちヒトには決して合理的とは言えない性質がたくさんあります。その一つはモノの評価の仕方です。
その性質を上手く利用すると、お客さんに売りたいものを自発的に選んでもらうことができます。
ここでは、その賢い方法についてまとめています。
売りたいものを売るためにやるべきことは「選択肢におとり商品を混ぜる」ということです。
おとり商品とは売りたい商品の魅力を引き立たせるためだけに追加するダミーの品のことです。たった一つおとり商品を追加するだけで、人の購買行動をコントロールすることができます
アメリカの著名な行動経済学 ダン・アリエリーは人が新聞購読を決めるときにどういった選択肢を用意しておくと、最も高いプランを選ぶかを研究しました。
その内容は、新聞を売る時に、WEB版だけよりも、WEB版と紙面のセットで売るにはどうしたらいいかというものです。
答えは「紙面のみを、WEB版+紙面のセットの価格で掲載する」です。ここでいう紙面のみの価格がおとり商品になります。
選択肢 | 価格 | 選んだ人数 |
---|---|---|
WEB版のみ | 59ドル | 16人 |
紙面のみ | 125ドル | 0人 |
WEB版+紙面 | 125ドル | 84人 |
「紙面のみ」という明らかに劣った選択肢を入れることで、「WEB版+紙面」の価値が際立ちます。
一方、「紙面のみ」というおとり商品を抜いた場合は次のようになります。
選択肢 | 価格 | 選んだ人数 |
---|---|---|
WEB版のみ | 59ドル | 68人 |
WEB版+紙面 | 125ドル | 32人 |
購買意欲は本来買って欲しい「WEB版+紙面」よりも「WEB版のみ」の安価な方に流れてしまいます。
ポイントは人は同時に複数を比較することはできず、1対1でしか比較できないということです。
ここでは「WEB版 vs WEB版+紙面」を比較させるのではなく、「紙面版 vs WEB版+紙面」という比較に持ち込んだマーケティング戦略が人の性質を理解した上手い方法です。
おとり商品には「売りたいものを買わせる」以外に「早く決断させる」という力もあります。
仮に、あなたはノルウェーかスウェーデンに旅行に行きたいと考えているとします。
旅行会社で2つのツアーを見つけました。ノルウェー豪華1週間の旅18万円、スウェーデン豪華1週間の旅18万円です。
どちらも食事3食付きで移動費も含まれています。
あなたは北欧に行ったことがありません。どちらでも美しいオーロラーを見ることができます。同じぐらい魅力的で、どちらか一方だけを選ぶことはかなり難しいです。
そこに、おとり商品として劣化版のノルウェー旅行を追加します。
ノルウェー1週間の旅18万円、朝食・移動費別。この選択肢があると、ノルウェー旅行どうしでの比較が簡単になるので「良い」「悪い」の判断がつきやすくなります。
プランの下に「豪華版1週間の旅(食事・移動費無料)が今だけ18万円!」と添えれば、誰もが一目で明らかにお得な選択肢であることがわかります。
これがおとり商品の力です。
おとり商品は、一番売りたいものを売るために、より高品位な機種を設定することでも効果を発揮します。
仮に次の2種類のスマホがあったとします。①エントリー(8千円)、②ナイス(1万8千円)
売りたいのは②のナイス モデルです。ですが、価格がエントリーよりも高いためなかなか売れません。
この場合どうすればいいかというと、より上位機種をラインナップに加えます。③プロ(6万)を加えて見ます。
するとどうでしょうか?「プロは高いな」と「ナイスはお得だ」という印象を生み出すことができます。
先ほどまで魅力的に見えていたエントリーは「チープだ」という印象になります。
アメリカの市場では実際にこのマーケティング手法を使って、世の中に一気に広まった商品があります。それは家庭用パン焼き器です。
ウィリアムズ・ソノマ(Williames Sonoma)というメーカーは家庭用パン焼き器「ブレッドベーカリー」を売り出しました。
ところが、当初は全く見向きもされず売れませんでした。というのもそれがいいのか悪いのか見当がつかず、ほとんどの人が購入に踏み切れなかったためです。
そこでマーケティング会社に相談したところ、次のような解決策が出ました。
「より大型で1.5倍の価格のモデルを追加する」
これにより、人々が2つのモデルを比較できるようになり、結果として最初に売り出していたモデルの売り上げが伸びました。
レストランでちょっと高い食事を売りたい場合に、商品のラインナップに誰も頼まないような高級料理を追加する方法があります。
すると、これまで「高い」と思われていた商品が「一番高いのに比べたら、それほど高くない」という評価に変わります。
意図的に高級な料理をメニューに追加したことで、売り上げが伸びたレストランは少なくありません。
なぜおとり商品にこれほどまでの力があるのかというと、それは「人がモノの価値を相対的にしか決められない」からです。
私たちは絶対的な価値を理解できない生き物です。「1」を評価してくれ。と言われても1の価値ははわかりません。
「1」と「1000」を評価してくれと言われたら、「1000」の方が1000倍も大きいことがわかります。この場合、みんな1000の方が好きです。
「1」と「0.0001」を評価してくれと言われたら、「1」の方が1000倍も大きいことがわかります。この場合、みんな1の方が好きです。
つまり、何と比較するかによって価値が変わるということです。
例えば、以下のようにデザインがすごくいいが質は微妙な商品Aと、品質がすごくいいがデザインが微妙な商品Bがあると人は、なかなか判断ができません。
評価軸が全く異なっているので優劣がつけられないのです。
ここにおとり商品として商品Aの劣化版、商品A’を追加すると、商品Aは商品A’よりも「明らかに良い」という判断ができるようになります。
人が相対的に価値を評価するのは商品だけではありません。
給与、異性、アクティビティ、大学、感情、態度などあらゆるものを相対的に比較して判断します。
もし仮に、あなたが月給30万円もらっていたとして、周りが18万円しかもらっていなければ、あなたは今の給与で満足します。
ですが同時期に入社して同じぐらいの成績の同期が32万円貰っていたら、あなたは不満に感じます「なぜ自分は他の同期よりも2万円少ないのか?」と。
異性も同じです。より魅力的な人を目にすれば目にするほど、これまで魅力的だと思っていた人の魅力が薄らぎます。
それは比較して「こっちの方がいい」と判断するからです。
もし、あなたが異性からモテたいのであれば、相対的に評価する人の性質を利用することができます。
合コンに行くときに、自分よりも見た目がちょっと悪い人、話すのがちょっと下手な人を連れていけばいいのです。
あなたの劣化版あなた’をつれていけば、周りの人は一目で「この人がイイ」と評価できるようになります。
ただし嫌われるリスクもあるので気をつけてください。SNSではカワイイ女子が明らかにかわいくない友達との2ショットをアップして同姓から叩かれていることも少なくありません。
この記事の内容はアメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」の内容の一部抜粋と要約です。
人が犯しがちな判断ミスを行動経済学という観点から紐解いたものです。ユーモアを交えた文体でとても読みやすく新たな発見がたくさん詰め込まれています。
この本を読んだことがあるかどうかで今後の人生の行動が変わってしまうほどのパワーを持ちます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。