私たちはもの買う時に割引の値札がついたものを買うととても得した気持ちになります。
普段買わないものでも「1000円の牛肉が20%オフだった」「この洋服だけ30%オフだった」というように、割引されているという理由だけで飛びつきたくなります。
この行動には人の性質が大きく影響しています。ここでは比較が人に与える影響と、比較を使ってマーケティングをする手法について解説しています。
比較に関する人の性質を表す言葉として「コントラストのワナ」があります。コントラストとは対比と言う意味です。
コントラストのワナとは「人は比較対象があると正常な判断ができなくなる」ことです。
人は、同じものでも比較対象があるかどうかで感じ方が大きく変わる性質を持っています。
例えば、右手を2分間氷の入った冷水に浸けた後、両手をぬるま湯に浸けたときを想像してみてください。
お湯の温度は同じなのにそれぞれの手で感じ方が違います。右手は熱いと感じるはずです。
真冬にある程度暖房の効いた家の中にいて「寒い」と感じているとします。ですが、いったん外にでてしばらくしてから帰ってくると「温かい」と感じます。
家の中の温度が変化したわけではありません。家の外という対比する対象ができたからです。
マジシャンがあなたのズボンの右ポケットに入った財布を抜き取るとします。
マジシャンはあなたの体の他の部分を強く触れます。その隙にズボンのポケットに手を忍ばせスッと財布を抜き取ります。
人が比較することで実際よりも強く感じる原理はマーケティングにも応用できます。
値引きシールを見ると必ず、元の値段がわかるように貼ってあります。(そうでないとしたらマーケティングが下手です)
これは元の値段と比較して「お得!」という感情を際立たせるための手法です。
例えば、定価4万円の洋服が30%オフで2万8千円で売られていると、買う人は「安い!」という印象を持ち、1万2千円得した気持ちになります。
ですが、その服が値引きの値札無しで2万8千円で売られていると「高い」と思います。
モノは同じであるにも関わらず、見せ方だけで人の感情はここまで変わります。
この人間心理をうまく利用した例が「影響力の武器」という本の中にあります。
ある洋服店を営む兄弟 シドとハリーの商法は巧です。シドは販売担当、ハリーは仕立て担当です。
お客さんが服を気に入ったなと感じ、お客さんに値段を尋ねられるとシドはハリーに大声で質問します「この服はいくらだっけ?」
ハリーは「42ドルだよ」と答えます。シドは耳が遠い振りをして「え、なんだってもう一回言ってくれないか?」と聞き返します。
ハリーが「42ドルだと言ってるだろ」と言うと、シドはお客さんに次のように告げます。「22ドルになります」と。
お客さんはシドが価格を勘違いしている隙に急いでお金を払って洋服を買って店を後にします。
これは42ドルが22ドルになったことで、お客さんが「安い」と感じたためです。こうして定価22ドルのものが値引かれることなく売れます。
ちなみに、この手法は実際のビジネスでは使うべきではありません。なぜなら購入した人がリピーターになる確率が極端に低いためです。
お客さんは次来たときにシドが間違いに気づいて、20ドルを請求されることを恐れたり、相手の隙をついた罪悪感に苛まれたくないためです。
この例以外でも、ある洋服屋さんにいけば全ての洋服に割引の値札が貼ってあることもあります。そうなってくるともはや定価がいくらなのかわかりませんが。
おとりとなる商品を選択肢に入れ込み比較対象とするのもマーケティングでは絶大な効果を発揮します。
デューク大学のアリエリー教授が新聞購読について行った調査があります。その結果、比較対象としておとり商品(劣った選択肢)を入れた方がより高い商品を購入する人が増えることがわかっています。
▼100人に「WEB版」と「WEB版と紙面セット」のどれを購読するかアンケート調査
売りたいのは最も高値の「WEB版と紙面のセット」です。
紙面のみが、WEB版と紙面のセットと同じ値段になるという明らかに劣った選択肢を入れただけで、最も高いプランを購入する人が増えました。
これは、「紙面のみ」と「WEB版と紙面のセット」を比較したら「WEB版と紙面のセット」が明らかにお得ということが明確なためです。
大切なのは値段が安いことよりも比較対象があることです。
それを証明する例として、卵1パックが20円安いという理由だけで、車を20分以上走らせて別のスーパーに行く人がいます。
一方、車を買う時に、A店よりも隣町のB店の方が2万円安く買えるのに、隣町まで行く人はあまりいません。
ですが、B店の車が5%オフで「今だけ2万円安い」と聞きつければ、多くの人がB店に向かいます。
マーケティングにおいて比較は強力です。定石といっても良いほどよくある販売手法です。
だからこそ買う時は比較に騙されないようにする必要があります。何かと比較し始めた時点で「本当に必要か?」という視点からはズレています。
絶対に買うと決めているものの中から安いモノを選ぶのは重要ですが、見せ方が上手でお得だったから買ったという、コントラストのワナにハマらないようにしましょう。
この記事のスイスの有名起業家 ロルフ・ドベリが記した「Think right ~誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法~」の一部抜粋と要約です。
人が陥りがちな思考の罠がとてもわかりやすくまとまっています。この記事の内容以外にも全部で52個の人の性質がわかりやすい具体例で解説されています。
この記事の内容でハッとした部分が一つでもあった方は是非手に取ってご覧になられることをお勧めします。
あなたの人生をより賢く豊かにしてくれることは間違いありません。