数あるマーケティング手法の中でも群を抜いて強力なものの一つにドア・イン・ザ・フェイスという手法があります。
ドア・イン・ザ・フェイスとは人間心理を巧みに利用したもので、最初に大きく重すぎる提案をして敢えて拒否させてから、譲歩した提案をすることです。
本当に売りたいものよりも良いモノやサービスを、最初に相手にふっかけるため嫌われそうですが、驚くことにこの戦法で嫌われることはほとんどないことが分かっています。
ここでは、ドア・イン・ザ・フェイス(拒否したら譲歩)が嫌われないというエビデンスや、なぜ嫌われないのかという人の心理についてまとめています。
ドア・イン・ザ・フェイス(拒否したら譲歩)が嫌われないことを示す事例にカナダで行われた研究があります。
内容は地域の精神衛生局で1日ボランティアとして2時間働いてくれるか?というお願いをした後に、当日に実際に来る割合がどれぐらいあるかを調べたものです。
仮にドア・イン・ザ・フェイスを使った頼み方をして反感や嫌悪感を覚えるとすれば、当日来ない人たちが続出するはずです。
ここでは次の2パターンで依頼をしました。
・パターン1
「精神衛生局で1日ボランティアとして2時間働いてくれるか?」という依頼をする。
・パターン2(ドア・イン・ザ・フェイス)
「2年間、週に2時間ずつ精神衛生局でボランティアをしてほしい」という大きく重すぎる依頼の後に、「精神衛生局で1日ボランティアとして2時間働いてくれるか?」という依頼をする。
その結果、OKと答えた人は、パターン1の29%に対してドア・イン・ザ・フェイスを使ったパターン2は76%と、約3倍でした。
更にOKと答えた中で実際に当日ボランティア来た人の割合は、パターン1が50%に対して、パターン2は85%でした。
これは、ドア・イン・ザ・フェイス(拒否したら譲歩)は、やってほしいことを単体でお願いするよりも、むしろ好意的に受け取られることを示しています。
依頼方法 | 承諾率 | 当日の参加率 |
---|---|---|
1つの依頼のみ | 29% | 50% |
大きな依頼を断らせてから、譲歩 | 76% | 85% |
ドア・イン・ザ・フェイス(拒否したら譲歩)を使った別の実験で献血を依頼したものがあります。
大学の学生に次の2パターンで献血を依頼しました。
・パターン1
「1パイント(473cc)献血してほしい」という依頼をする。
・パターン2(ドア・イン・ザ・フェイス)
「向こう3年間で、6週間ごとに1パイント(473cc)献血してほしい」という大きく重すぎる依頼の後に、「1パイント(473cc)献血してほしい」という依頼をする。
そして、献血にやってきた人に「将来、また献血をお願いしたいので電話番号を教えてくれないか?」と依頼したときにどのぐらいの学生が電話番号を教えてくれるかを調べました。
結果として、パターン1は43%だったのに対し、 ドア・イン・ザ・フェイスを使ったパターン2は約2倍の84%でした。
依頼方法 | 承諾率 |
---|---|
1つの依頼のみ | 43% |
大きな依頼を断らせてから、譲歩 | 84% |
ただ普通に依頼するよりも、まず断らせるドア・イン・ザ・フェイス(拒否したら譲歩)を使うべきであることは明らかです。
ですが、無理なお願いをされ、更に追加のお願いをされているにも関わらずなぜ嫌われないのでしょうか?
その答えは、カリフォルニア大学で行われた実験がヒントを示しています。
実験の内容は被験者がもう一人の参加者(助手)と相談して、与えられたお金を二人で分けるというものです。被験者は合意した金額でお金を受け取ることができます。合意に至れなければ1円も受け取ることができません。
なお、一方は仕込む側(助手)でどういう態度をとるかはあらかじめ次のように決められています。
3つのパターンで検証した結果、最も相手が合意した(折れた)確率が高かったのは3番のドア・イン・ザ・フェイス(拒否したら譲歩)を使った方法でした。
この実験では更に被験者がどう感じるかまで調べ、次のことがわかりました。
ドア・イン・ザ・フェイス(拒否したら譲歩)が相手に与える一つ目の心理は「決定内容に責任感を与える」ということです。
というのも、自ら交渉して取りまとめをしたと感じ、契約内容が自分事になっているためです。
ドア・イン・ザ・フェイス(拒否したら譲歩)が相手に与える二つ目の心理は「満足感を感じる」ということです。
ドア・イン・ザ・フェイス(拒否したら譲歩)の標的となった被験者は平均すると、自分が受け取るよりも相手に多くの金額を渡した人たちでした。
それにも関わらず、他のグループの人たちよりも自分のした決断に満足感を抱いていました。
これは、自ら交渉して粘り、相手の気持ちを変え、最初に提示された額よりも多い額を受け取ったという達成感を感じているためです。
まとめるとドア・イン・ザ・フェイスを使わない手はないということがわかります。
最初に度を越して重い提案をふっかけ敢えて断らせることで、次のようなメリットが生まれます。
本当にやって欲しいことや買って欲しいものをそのまま依頼するよりも、圧倒的にメリットが大きいといえます。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。