私たちが誰かに好意を抱くとき、そこには様々な理由があります。例えば、相手の見た目がいい。相手が好意を示してくれている。出身地や趣味などが似ているといったものです。
実はそれ以外にも無意識に好感を覚えてしまうものがあります。それは「見慣れている」「聞きなれている」というものです。
つまり、私たちは接触頻度が高いものを好きになるという性質を持っているということです。
見慣れた顔への好感度を調べる実験に面白いものがあります。
自分の顔の写真をとり、1枚は通常の状態で印刷し、もう1枚は左右反転した状態で印刷します。それを本人と友人で見てどちらが好きかを選ぶというものです。
どちらも全く同じ人を映したものですが、その結果は違うものになります。
本人は左右反転した顔に好感を覚え、友人は元のままの写真に好感を覚えます。
これは、友人たちはいつもカメラで撮影したときと同じ顔を見ているのに対し、私たち自身は自分の顔を見るときに鏡で左右反転した映像を見ているからです。
つまり、ほんのちょっとした差であってもより馴染みのある顔に好感を覚えるということです。
「知っている」「見たことがある」が私たちが抱く好感に影響を与えることがわかります。
顔だけでなく「聞きなれた名前」にも好感を起こさせる力があります。
アメリカの心理学者 ジェー・イー・グラッシュ(J・E・Grush)が民主党選挙で何が選挙結果に影響を与えるかを調査したところ、1つ面白い結果が得られました。
それは州県知事選でほとんど勝ち目のなかったブラウンという候補者が、選挙直前になって自分の名前を政治の世界で馴染みの名前に名前に変えたところ、当初の想定を超える得票を得たというものです。
人が馴染みの者に好感を覚えるという性質は「ザイアンスの法則」または「単純接触効果」と呼ばれます。
これはアメリカの心理学者 ロバート・ザイアンスが、72名のアメリカ人に対して行った実験結果からきています。
ロバート・ザイアンスは次のような実験を行いました。
実験の内容はアメリカ人の被験者に対して、その人たちが過去に一度もみたことがない漢字を見せて、その見せた回数に応じた好感度を調べるというものです。
漢字を選んだのは「意味が想像できず」「全く触れたことがない」「発音もできない」ものであるためです。
漢字ごとに見せる回数を変えて、最後に「どの文字がいい意味を持つと思うか?」という質問をしました。
その結果、目にした回数が多かった漢字ほど「良い」という回答が得られました。
ロバート・ザイアンスは他にも顔写真を用いた実験を行っています。
被験者に対し、それぞれ別の人が写った12人の顔写真を1枚につき2秒ほどのペースで繰り返し見せます。
見せる回数は写真ごと0~25回と変化させます。
そして最後に、すべての写真に対して0~6の7段階で好感度を振り分けてもらいます。
この結果、数回しか目にしていない人の顔より、10回ほど目にした顔の方が好感度が高いことがわかりました。
ただし、この実験には注意点があります。
それは顔写真の第一印象で「好感」「嫌い」がある程度分かれて、接触回数どおりにいかなかったものもあるということです。
つまり、相手があなたに対してニュートラルな印象であれば、接触するごとに好感度は増えていきます。
ですが、最初に「不潔」という印象を与えてしまえば、接触回数を上げたところで好感に変わるとは限りません。
また、5回から10回と、10回から25回では好感度のポイントの上がり具合が下がります。
このため、あまりにたくさんの100回や1000回の単純接触を繰り返したからといってものすごく好きになるわけではないということです。
接触頻度が多い、すなわち馴染みがあるほど好感度を覚えるという原理はインターネットのWEB広告でも効果があることが証明されています。
ある研究で、表示時間が数秒程度のバナー広告を5回見せた場合と、20回見せた場合でどちらがその商品に好印象を持つかを調べたものです。
この実験のポイントは広告の表示時間がごく僅かで、そのサイトを見ていた人たちはその広告に気付いていないかほとんど意識していませんでした。
ですが、その結果は表示回数が多いほど好印象を抱く人が多いものでした。
私たちヒトは馴染みがあるものやよく目にするものに好感を覚えるという性質があります。
プライベートや仕事などで好かれたい人がいる場合は、自ら頻繁に会いにいくことが重要です。
ただし、あまりにもあからさまだとストーカーのようになってしまい嫌われてしまうので、ごく短い挨拶や、簡単な世間話をする程度の軽いものを、数多くこなす必要があります。
即効性はありませんが、その効果は折り紙つきです。接触頻度の力は決してあなどれません。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。