最近は多くの大企業やメガベンチャーなど多くの有名企業が1on1ミーティングを採用しています。
1on1ミーティングとは通常のミーティングのように会社のやってほしいことを部下に共有したり指示・説明する場ではなく、部下の体調や現在の業務に抱いている想い、直近の目標や未来の目標などを部下に喋ってもらい、上司が聞き役に徹する場です。
そのためには、上司が自分から喋って部下を問い詰める場にならないよう目的をしっかりと認識し、話しやすい空間を用意したり、会話が止まらないように質問を用意するといった努力が必要になります。
自分の業務時間も削られるので決して楽な業務ではありません。
ですが、それでも世界中の優良企業で取り入れられるほどに1on1ミーティングはそれだけの効果を発揮します。
ここでは時間と労力をかけて1on1ミーティングを実施する背景とメリットと、この大変なミーティングを継続していくための工夫についてまとめています。
多くの企業が1on1ミーティングを実施している背景には、業務の効率化や仕事の優先による社員同士のコミュニケーションの低下があります。
最近ではお酒を飲む人が減り、飲み会を開いても人が集まらず、でもそこまで盛り上がらず打ち解けることもありません。
そういった中で、社内でのコミュニケーションが薄れ、相手のプライベートを知ることが難しくなり、信頼関係の構築が困難になっています。
上司は部下たちが自分自身の業務にモチベーション持って集中して取り組めているのかわかりません。
もしかすると、目的を見失い迷走しているかもしれません。なんか面白くない。業務量が多すぎる。本当は他のことがしたいなど、心の中にモヤモヤを抱えることが多くなります。
結果として、社員のモチベーションが上がらず業績が下がったり、優秀な社員が突然辞めると言い出したり、頼りにしていた人が急にメンタルを崩して長期休暇に入ってしまったり、といった「やめてくれよ」と叫びたくなるような緊急事態が発生します。
ですが、こういった緊急事態は急に発生したわけではありません。部下の中の心のモヤモヤが積もり積もって噴出しただけです。
もし、上司と部下の間に信頼関係があり、普段からコミュニケーションをよくとっていれば、モヤモヤが小さいうちに打ち明けてくれるので、緊急事態になる前に対策が打つことができます。
また、普段から「最近の仕事の量はどう?」「今の仕事で困っていることない?」「良く寝れてる?」「今後のキャリアで考えていることある」「今家庭の方で困っていることはない?」という会話があれば、優秀な社員の急な退職や、誰かが急にメンタルを崩すといったことも防げます。
しかし、上司も部下も決して暇なわけではありません。お互いが日々たくさんの業務を抱えていて必死で回しています。そんな中で、ちょくちょく部下の元に行って状況確認するのは、もともと話好きや面倒見がいい人でないと難しいものです。
そこで、意識的に上司が部下のモヤモヤを聞き出して改善につなげるための場所が1on1ミーティングです。
1on1ミーティングでやることは大きく次の7つに分類できます。
これらすべてを1回のミーティングでやるわけではありませんし、毎回同じ手順でやるわけではありません。
まずは部下のプライベートの理解から始めて、少しづつ次にステップアップしていきます。
初めて実施する際は部下の心の中にこれまで溜め続けてきたモヤモヤが大きくたまっているので、時間がかかるかもしれません。
ですが、毎週(隔週や毎月)継続していくうちに、どんどんと情報が積み重なっていくので、その後はより短く、より密度の濃いモノに変わっていきます。
このため、毎回30分程度の短いモノを継続して続けていくことが非常に重要になります。
一度長いミーティングをやって終わりというのでは、タイムリーな情報が蓄積せず、関係性も深まってきません。
また、私たちヒトの性質は、合っている時間の長さよりも、頻繁に会っている人に好感を抱くことがわかっています。(ザイアンスの法則や単純接触効果といいます)
ただし頻繁に接触する心理効果には、敵対する関係同士の場合、合うたびに仲が悪くなっていくということがわかっているので、上司がいかにフレンドリーな関係を構築できるかが非常に重要です。
1on1ミーティングを始める前には必ず「忙しいところ申し訳ありません。時間をとってくれてありがとうございます」といった相手への配慮が必要です。
1on1ミーティングのメリット、すなわち望むべき効果には次のようなものがあります。
最も重要なことは人間関係の柱となる、プライベートの理解です。
プライベートの理解とは、相手の名前をフルネームで漢字で書けるか、出身地はどこか、趣味は何か、週末は何をしていることが多いか、大学時代は何にしていたか、尊敬する人は誰か、といったことを知っているかです。
相手に興味を持ち、知ろうと努力しなければ決してわからないことばかりです。相手の人間性を理解して受け入れることが、信頼関係の土台となります。
一番最初に時間をかけるべきはここです。
プライベートの理解は1度聞いてしまえば終わるものでもあります。むしろ、一度聞いたことをまた聞き返すことは「また聞くの?」「この人全然興味を持っていない」信頼関係を失う好意です。
相手のプライベートが理解できたら次のステップに進む必要があります。
次のステップでは心と体の状態を確認します。
人が心や体に不調をきたしているとき、その影響は睡眠に最も現れやすくなります。
毎日7~9時間寝れているのであれば健康状態は良好です。ですが、6時間を切っている場合は要注意です。
それが一時的な業務量の増加によるもので終わりが見えているなら問題ありませんが、慢性的になっている場合はなんらかの精神疾患陥っている可能性があります。
「最近よく寝れてる?」「何時間ぐらい寝れてる?」といった質問をし、そこから状況を掘り下げ理解を深めていきます。
メンタルに負荷がかかる状況はごく短時間で変わるものなので、心身の状態チェックは毎回行う必要があります。
次に行うのは部下のモチベーションUPです。心理学の研究により、モチベーションは小さな達成をし、それが周りから承認されることで上がることがわかっています。
普段から1on1ミーティングの相手を観察したり、情報を仕入れておいて「〇〇さんのあのポイントがいいですね」と承認します。
「いいね」と褒めることが難しい場合でも「〇〇したんですね」とその人が行った事実を伝えれば、それは承認になります。
このように承認や褒める行為は相手のモチベーションをUPするだけでなく、相手が好感を抱くことにもつながります。
結果として、より信頼関係を強めるように働きます。
プライベートの理解、心身の健康状態のチェック、承認と褒めるによるモチベーションアップができたら、次にやることは質問やフィードバックを通して学びや気づきを与えることです。
何か一つの仕事をこなすには、多くの能力が発揮されています。
例えば、あるプロジェクトを率いた人は、スケジューリングをする能力、必要な物事をリストアップする能力、人に指示を出す能力、更にはスケジューリングツールやコミュニケーションツールを使いこなす能力など様々な能力を発揮しています。
ですが、能力は本人が意識し言語化できていないと使い回しや応用、人に教えるといったことができません。
このため、次のような質問を通して本人に能力を自覚させる必要があります。
「今取り組んでいる業務でもっとも力をいれたことは何?」
「それについて、自分が学んだことや気づいたのはどんなことがある?」
「自分の今の強みは何だと思う?」
「今の業務に強みを活かすとしたらどんなことができると思う?」
あるいは直接伝える方法もあります。
「〇〇さんには、△△といった能力があるけど、その能力を今後の業務に活かすとすれば、意識的にどうやって使って行けると思う?」
上記の例のように、能力を自覚してもらった後は、それを今後にどう応用できるかを考えてもらうことが重要です。
こうすることで、自らの中に今後の業務の中で追いかけるべき直近の目標ができあがります。
他には、業務や組織課題について聞いてみるのもいい方法です。
「現在の業務で困っていることはないか?」「周りや私にサポートをお願いしたいことはないか?」といった業務関連の質問。
「最近職場でいいなと思う人いる?」「このチームをもっと強くしていくためにどんなことができると思う?」といった組織関連の質問。
これらをすることで、現在その人が抱えている問題点や悩みを把握できたり、組織貢献の意識を芽生えさせることができます。
もし1on1ミーティングで相手が何を話していいかわからないようであれば、こちらから質問する以外にも、会社の方向性などの情報を共有する場にも使うことができます。
会社の方向性というのは上層部だけに共有されて下にはなかなか伝わりずらいものです。
人は何のためにこれをしているのか?という理由がわからないと、反発心が芽生える生き物です。1on1の場を使ってこれを上手に取り除くようにします。
具体的には、「決定事項」「なぜやるのか」「実施にあたってのポイント」の3点を伝えます。
3つ目の「実施にあたってのポイント」は上司自身がシミュレーションをして、こんな不満や障壁があるだろうということを事前に共有しておきます。
1on1ミーティングの話の内容に明確な決まりはありません。ただし、着地点には決まりがあります。
それは、いつまでに何をやるかを明確にすることです。
これは、部下だけにやることを押し付けるのではありません。上司として何か動けることがあったらそれを約束し、いつまでに何をやるかを明確にして、それを守ることです。
部下に新たな目標や期限を一方的に押し付けるだけでは、1on1ミーティングの場が部下にとって不満の場となってしまいます。それだけは避けなければいけません。
また、目標は1つに絞り込む必要があります。あれもこれもと設定しすぎると時間とエネルギーばかり浪費して達成できない悪循環に陥るリスクが高いためです。
新しいスキルを得るためにできること、チーム貢献のためにできること、業務を円滑に進めるためにできることのうちから、目標を1つだけ決め。
いつまでに、誰が、何を、どこで、なぜ、どのようにやるかを明確にします。
これが次回の1on1ミーティングでの宿題と確認項目になります。
会社が新しい目標を設定し、皆が行動し動き続ける限り1on1ミーティングのネタが尽きることはありません。
人の心身の状態はどんどん変わっていきます。業務の内容も変わります。仮に、業務内容が同じだったとしてもその人の能力やスキルは繰り返し行うことで上がっていきます。
1on1ミーティングは一度限りではなくクルクルと回し続けることで威力を発揮するものです。
1on1ミーティングは上司と部下双方の時間を必要とし、褒める題材や話すテーマを探すなど準備が必要です。
手間がかかるものなので目的意識を持っていないと継続することができません。
また、あまりに負荷が高いと利益に直結するものではないので、優先順位が下がってしまいがちです。
このため、1on1ミーティングを実施する負荷をどんどんと下げていくことも重要です。
1on1ミーティングの初めのころは、どうしても上司が場をアレンジして進めていくしかありません。部下はこの場が一体何で、どう活用できるのかがわからないからです。
ですが、1on1ミーティングを進めていくことで、この場があると「思考が整理できる」「不満を打ち明けて対処してもらえる」「不明点が明確になる」など、メリットが多いことに気付き始めます。
すると、次回の「1on1ミーティングではこれを言おう」と考えて自らテーマを探し出してくれるようになります。
上司は部下に1on1ミーティングのメリットを実体験として伝えて、部下自身がテーマを持ってきてくれるまでもっていくことが一つのゴールとなります。
部下が自ら現状抱えている課題や悩みを打ち明けてくれるようになれば、緊急事態に追われることもなく、上司としてもかなりの手間を省くことができます。
1on1ミーティングの目的は上司と部下の信頼関係を築くことです。信頼関係があるから色々な話を打ち明けてくれるようになります。
1on1ミーティングの問題点は定例化することで実施日が決まってしまい、最も効果が高いタイミングを逃してしまう可能性があることです。
これを避けるために、普段から、次のような場面でちょっと部下を呼び出して10分程度の臨時1on1ミーティングを行うと非常に効果的です。
タイミング | 内容 |
---|---|
怒った後 | なぜ怒ったかの真意を伝え、部下がどう感じているかを確認する。 |
褒めた後 | なぜ褒めたかの理由を説明する。褒められた理由を意識することで再現性を上げる。 |
会議の後 | 会議で話した内容の理解度の確認や、補足の説明を行う。 |
暗い表情や元気がないとき | 周りからどのように見えているかを伝えて、理由を確認する。 |
ミスや失敗をしたとき | 原因の認識と、今後の対応を確認する。叱るのではなく、励まし今後のアクションの明確化をする。 |
評価の前 | 評価を伝える前に、部下が頑張ったところや評価して欲しい点を確認する |
1on1ミーティングを完璧にこなそうとする必要はありません。
「決められた項目を時間内に絶対にやらなければいけない」という意識に捉われていると、部下からの話を聞くことに集中できません。
上司が時間を気にしていたら、部下は心を開いて話すことができません。
「絶対に成功させる」という気持ちは捨てて、「あまり聞けなくても、部下が自分の思っていることを自分の言葉でしゃべってくれればいい」という気持ちで臨むことが大切です。
正しさを追求すると人は苦しくなります。そして苦しいモノを人は避けようとし、長く続くことはありません。
一方、楽しいことは「やるな」と言われてもやりたくなるものです。
1on1ミーティングを有意義で継続できるものにするには「楽しい場」を作り出すことが重要です。
元来ミーティングというのは堅苦しく、新しい目標やノルマを課せられたり、なぜできていないのかを問われる場で、決して従業員が楽しんでいるものではありません。
そういったミーティングのイメージを変えて「楽しいミーティングもあるんだ」と思える場にすることがマネージメントとしての上司の腕の見せ所になります。
この記事の内容は「シリコンバレー式最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング」の内容の一部抜粋と要約です。
この本には世界の先端を走るアメリカ シリコンバレーの企業で行われている人事のあり方について実例を交え具体的な方法が多数紹介されています。
興味を持たれた方は手に取ってみることをお勧めします。