マネージャーの役割は部下がスムーズに業務を遂行できるようにサポートすることだと考えている人がいますがそうではありません。
それはあまりに短期的な思考で、そういったマネージャーがサポートしないと業務を遂行できない部下が量産されるだけです。
マネージャーの本当の仕事は部下の成長をサポートすることです。
部下の視野や技術、思考の幅を広げて、今よりも柔軟に業務に対応できるようにすることです。
入社してきた社員の研修にはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が使われることが一般的です。
先輩社員とペアになって仕事を進めながら業務に必要な知識を身に付けていく方法です。
ある程度業務ができるようになると「あとは自分で頑張って」というように一人きりで仕事を任されるようになります。
この研修方式の問題点は、OJTが終わった後の成長は自分次第ということです。次の成長目標や気づきの深堀など自分で意識的に行っていかなければいけません。
このため、ただ業務をこなすだけとなってしまい、決められた業務は早くなるけど柔軟性がない使いにくい社員になってしまうことがあります。
また、プライベートの時間で自分の目標設定を行わない人(ほとんどの人)は、目標を見失いモチベーションを失っていきます。
このため、マネジャーは業務の進捗管理だけしていればいいわけではなく、社員の目標設定やモチベーション維持&アップまで行う必要があります。
企業や社員が忙しいのに成長できない状態というのは、スティーブン・コービー氏が記した名著「7つの習慣」で出てくる、「緊急で、重要なこと」と「緊急で、重要でないこと」という「緊急」を優先している状態です。
例えば、クライアントに提出する資料が期日の前日になっても完成していない。明後日までに上層部への報告資料を作らなければいけない。などです。
どれだけ焦って資料を作っても未来への成長にはつながっていきません。
「やらなければいけない」という理由だけで、やっつけた仕事だけがたまっていきます。
社員を育成する目標は会社全体の能力(能力・柔軟性・チームワーク)の引き上げです。
具体的には次の2つが必要です。
「既存業務の改善」と「組織への貢献」のどちらも主目的は「社員一人一人の能力向上と助け合える環境の構築」です。
これらは「目の前の仕事を早く終わらせる」とは別軸にあります。短期的には効果が目に見えないが、長期的に効果を発揮してくるものです。
緊急性がないので意識的に組み込まない限り放置されがちになります。これらの長期的な社員一人一人の成長戦略を業務の中に組み込んでいくことがマネージャーの仕事です。
「既存業務の改善」でやることは「緊急でないけど、重要なこと」です。
具体的に目指すのは「緊急で、重要なこと」にかける労力とエネルギーをどんどんと減らして、「緊急でないけど、重要なことに」へとシフトしていくことです。
「緊急で、重要なこと」を減らすためには、まず現在、部下が抱えている業務内容を把握する必要があります。
業務内容を確認するときに、部下が広い目線で物事を考えられるようにサポートしていきます。この行為自体が部下の成長につながります。
具体的な質問と意図は次のようになります。
この対話の中で、社員は自分がどれだけの仕事を抱えていて、仕事の目的や意義、自分が何をしているのか、現在の要点と将来のリスクを客観的に考えることができます。
普段の業務をこなしている中で、これらの深堀を自発的にする人はほぼいません。このため、こういう機会を設けるたびに「日々の仕事の忙しさで、大切なことを忘れていました。」という発言が頻発します。
マネージャーは意図的にそういった場を提供します。
現状で抱えている業務の把握ができたら、いよいよ改善です。
業務改善のポイントは「社員自身が問題点を挙げて、解決策を考える」ことです。マネージャーがするのはそのサポートです。
社員自身が取り組んでいる「業務の把握と改善」のサポートの次にすることは「組織への貢献」のサポートです。
ここでは社員が組織の一員となり問題点や解決策を考えたり、チームワークをより良くする目線を育てます。
マネージャーのやるべきことは「部下の自発的な成長」をサポートすることです。そのためには、自ら考える行動するという「内側からモチベーションを出してもらう」ことが重要です。
このため、「教えてやる」という姿勢のマネジャーは失格です。
「教えてやる」という上から目線は、相手に嫌悪感を与えます。基本的にはモチベーションを下げます。
仮に「絶対に見返してやる」「お前より偉くなやる」という方向でモチベーションが上がったとしても、それはそのマネージャーから離れたり人を見下す努力になってしまいます。
組織において大切なことは「人と人が理解し、助け合う」ことです。誰かを退けることではありません。
「教えてやる」という姿勢のマネージャーがいると、部下が育たないか、育って他の所へいってしまいます。
人事の調査で、人が会社をやめる最も大きな理由は「現在のマネージャーと離れたい」であることがわかっています。
「教えてやる」という完全な上から目線以外の「教えてあげる」「アドバイスしてあげる」も失格です。
なぜなら、マネージャーの役割は社員の成長をサポートすることだからです。
答えをすぐに教えることは7つの習慣の4つのマトリックスの「緊急なこと」の改善にしかなりません。
マネージャーがするべきことは社員が自分自身で問題点を見つけ出し、解決策を検討するためのサポートです。
もちろん「放置」したり突き放すことはNGです。それはモチベーションを更に奪います。
社員一人一人のレベルにあわせてヒントを出していくことが重要です。
アドバイスすることが失格だとするといったい何をすればいいんだ?と途方にくれた方もいるかもしれません。
安心してください、やることはとても簡単です。それは次の言葉を投げかけることです。
何を考えているか、私に教えてくれないか?
これはかなりのマジックワードで、社員に自ら答えを考えさせ、かつ、嫌な気持ちにもさせず、信じてもらっていると感じさせ、モチベーションを上げることができます。
もちろん言葉は「何を考えているか、私に教えてくれないか?」以外にも、「どうするのがいいと思ってる?」「何ができると思う?」があります。
これだけだと、上から目線感があるので「僕/私に教えてくれない?」と付け加えると、相手の自尊心を高めることができます。
例えば次のような会話になります。
マネージャー「最近、業務で困っていることはありますか?」
部下「クライアントの返信が遅くて。全然進まないんですよ」
マネージャー「なるほど。それは困るな。返信を急いでもらうにはどんなことができると思か教えてくれないかな?」
部下「うーん、電話で催促を入れるとかですかね」
マネージャー「なるほど。電話するときに、相手との関係性を更によくするいいアイディアはある?もしあれば私に教えてくれないかな?」
部下「電話する時間帯を考えて、言い方に気を付けるとかですかね」
マネージャー「なるほど。具体的には何時ごろに電話して、どういう言い方をするのがいいかな?」
部下「昼すぎはいつもオフィスにいるので1時頃電話してみます。「早くして」という態度ではなく、失礼にならないよう言葉遣いに気を付けるようにしてみます。」
マネージャー「それは、いい案だね。」
あなたは具体的な解決策を一言も伝えていませんが、社員自ら問題点と解決策を考えだし、実行に移せるフェーズまで深堀ができています。
「考えているか、私に教えてくれないかな?」「いいアイディアはある?」「どうするのがいいと思う?」というマジックワードを使って、社員の成長をどんどんサポートしていけば、組織全体のレベルが向上します。
この記事の内容は「シリコンバレー式最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング」の内容の一部抜粋と要約です。
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