世の中には指示待ち人間と呼ばれる自ら動かない(動けない)人たちがたくさんいます。
上に立ったり、人を使う立場の人たちの中には「もっと自分で考えて動いてくれたらいいのに!」「要領悪いな!イライラする」といった感情をぶちまけてしまう人も少なくありません。
ですが人は本来指示待ち人間ではありません。会社でどんなに指示を待っている人も、ひとたび家に帰れば誰かに指示されるまでもなく自分の好きなことを始めます。
その人が指示待ち人間なのではなく、その人が働いている環境が人を指示待ち人間にしてしまっています。
そして人が指示待ち人間になるのには明確な原因があります。「ちゃんと自分で考えて動いてよ!」と思っている人こそが指示待ち人間を作り出している原因であることも少なくありません。
ここでは、どうすれば人は自ら動くようになり、どうすると指示待ち人間になってしまうのかについてまとめています。
自ら動く人材を作り出す方法は実にシンプルです。次の5つを繰り返すだけで、人がどんどんと自ら動く人材になっていきます。
これらの行動の目的は「自分の考えで判断して行動しても構わない」という経験を積んでもらうことです。
自ら動く人材をつくるための第一歩は「どうしたらいいと思いますか?」という質問をしつこく聞き続けることから始まります。
「自分の考えで判断して行動しても構わない」という経験をしてもらうには、まずは自らの考えを引き出さなければなりません。
自分の意見を聞かれることに慣れていない人たちは「どうしたらいいと思いますか?」と聞かれると戸惑います。
こちらが既に答えを持っていて、正解を言えるか試されていると感じる人がほとんどです。このため、「間違ったらどうしよう」「頭悪いと思われたら嫌だ」「怒られるのは嫌だ」という感情もセットで湧いてきます。
そして、口をつぐんでまごまごしてしまう人も少なくありません。そんな時は次の一言を加えます。
いや、私もどうしたらいいか分からないんですよ。でも何かしなきゃいけないから考えるきっかけがほしくて。
何か気づいたことはありませんか?
この一言で「決められた答えがあるわけではない」「正解や間違いはない」ということを暗に伝えることができます。
その結果、少しずつ自分の意見を述べ始めます。
決して「何をもごもごしてるんだ」「いいから何か言えよ」と怒ったり急かしてはいけません。それでは自ら動くどころか恐怖心を植え付けることになります。
相手が自らの意見を口にしてくれたら、すかさず認めます。ここでの目的は「自分の意見を口に出していいんだ」という経験を積んでもらうことです。
あっ、なるほどね。その視点はなかったなあ。
今の意見を聞いて気づいたけど、こういうことも注意が必要ですね。
無理やり「すごい視点だね!」と褒める必要はありません。
もちろんいい視点だったら褒めるべきですが、大した意見じゃないのに褒めすぎると、今後視点が低くなってしまいます。
あくまで「そういう視点もありますね」と認める姿勢で問題ありません。
そして、「自分の意見を口に出していいんだ」という経験をもっと積んでもらうために、「他にも何か気づいたことはありますか?」と更に意見を言うように促します。
重要なことは「相手の意見が間違っていても否定しないこと」です。
想定していたこととは違う意見や、それはダメだろといった意見が出てくることも少なくありません。
その時に「いや、それは違う」という否定や、「そんなわけないだろ!」という非難をしてしまうと、相手は「どうせ否定されるなら自分の意見なんて言わなければ良かった」と考えてしまうようになります。
目的はあくまで「自分の意見を口に出していいんだ」という経験を積んでもらうことです。このため、相手の意見が間違っていたとしても、まずはその意見を受け入れます。
そして、自分の意図を伝え、更に別の意見を促します。
なるほどね。ただ今回は、こういう仕事を優先したいと思っているんですよ。その方向で考えた場合、何か他の意見はありませんか?
実はこのやり取りが発生することはとても重要なことです。
相手は自分の意見を言いながら、こちらの意図を少しずつ汲み取っていきます。
そして、最終的に「それはいい意見ですね」というものが出てきたときには、相手は何が良くて、何が間違っているかというこちらの考えをよく理解できるようになります。
精密機器がときおり校正を必要とするように、人の思考も対話の中で徐々に校正していく必要があります。
心理学の研究で、人がやる気を出すには「何か行動をし」「それが周囲に認知される」という2つのステップが必要なことがわかっています。
このため、「自分の考えで判断して行動しても構わない」という経験を今後も進んでやりたいと思ってもらうようにするためには、相手がしてくれた行動を認知する必要があります。
もちろん上出来だったら「素晴らしい!ありがとう」と褒めても構いません。もし十分な出来だった場合は褒めなくても「〇〇してくれたんですね」としてくれたことを言うだけで認知になります。
相手に任せた結果、思ったことと違うことをやっていたり、失敗してしまうことがあります。
そんな時に「あー、なにやってんだよ!」「そうじゃないだろ!」「なんでわからないんだ!」という否定をしてはいけません。
目的は「自分の考えで判断して行動しても構わない」という経験を積んでもらうことです。
相手の行動を否定した時点で、それは自発的に考えて行動する芽を摘み取ったことになります。
相手が思った通りに行動してくれなかったときは、自分の指示が悪かったことを認めるべきです。全てこちらが悪いと言い切る必要はありませんが、あなただけではなくこちらにも責任があったと伝えます。
その上で、本当はどうして欲しかったかを伝えます。
私の指示があいまいだったので仕方ないです。私の責任もあるので気にしないでください。
ただ、実はこう考えているので、次からはそのように対応していただけますか?
こう伝えるだけで、間違った行動をした人は、次回は正しい行動をし、しかも自発的に動いてくれます。
そもそも人というのは最初から完璧な人は誰一人としていません。どんな人も失敗をしながら育っていきます。
失敗を否定し、失敗させないということは、その人の成長の芽を摘み取ることです。
「人材が育たない!」と嘆いている人は、自分が部下の成長の芽を摘み取っていないか胸に手を当てて考える必要があります。
そもそも本当に優秀な人たちというのは、他の人たちの何倍もの速さで失敗と微修正を繰り返している人たちです。
このため、何か相談をしたり、わからないところを聞くと「そこはこうやってやる」「なぜなら~」という事細かに解説することができます。
そうでない人たちは自分がさも優秀な人であると見せるように、本当はわかっていないことをわかっているフリをしていることも少なくありません。
自ら動く人を作るための具体的な方法があるように、指示待ち人間を作るための具体的な方法もあります。
それは、自ら動く人をつくるための方法の逆をやればいいだけです。
もし、これらの行動をしているとしたら、部下が指示待ち人間なのではなく、あなたが部下を指示待ち人間にしてしまったということです。
人の成長の機会を奪うのは相手にとっても組織にとっても罪深きことなので十分に注意する必要があります。
クライアントとは、こちらを頼り、面倒を見ることで利益をくれる人のことです。
上に立つ人たちのクライアントとは誰でしょうか?
クライアントといえば、お金を払ってくれるお客さんや発注業者が思い浮かびます。ですが上司にとって部下も立派なクライアントです。
部下はこちらを頼り、きちんと育て動かせば利益をもたらしてくれます。つまり、部下には社外のクライアントと接するのと同じように接するべきということです。
ふんぞり返って、部下を駒のように扱う人はより強く成長しようとする組織の中で害悪でしかありません。
この記事の内容は篠原 信さんの「自分の頭で考えて動く部下の育て方」の内容の一部抜粋と要約です。
なぜ指示待ち人間が生まれてしまうのか、どうすると人が自ら動いてくれるのかがたくさんの実例を踏まえてとてもわかりやすく説明されています。
マネージメントなど人を指導する立場にある人は一読しておくべき指南書です。