政治の世界では、自分の政策を通すためには他の政治家に自分の意見に好意をもってもらい投票してもらわなければいけません。
高学歴で優秀な人が揃い、それぞれが各々の意志を持ち、あるエリアの代表である政治家にとって、他人の意見に賛同するハードルは決して低くありません。
そのような人たちに共感してもらう方法があれば、それは私たち一般人にとっても強力な武器となります。ぜひとも真似したいものです。
ただし、すごいスキルを必要としたり、能力やお金を必要とするのでは真似はできません。
ところが、政治家が使っているのは私たちにもできる「ランチョン・テクニック」と呼ばれるとても簡単な方法です。
ここではランチョン・テクニックと、なぜその手法が有効なのかについて解説しています。
ランチョン・テクニックとは、協力して欲しい相手を食事でもてなし、食事を食べている途中か食後に協力を申し出るスピーチやアピールをする方法です。
重要なポイントは2つです。
1つ目の条件は「相手を食事に誘い、ごちそうをする」ことです。人には「受けたものは返さなければいけない」という義務を感じる返報性の法則があります。
相手にごちそうをするということは、受けた相手は「何かお返しをしなければいけない」という気持ちが自然に発生するということです。
この返報性の法則の強力なところは、相手に好感を抱いていないとしても、返さなければという義務感が生じるということです。
2つ目の条件は「食事中か食後に協力を依頼する」ということです。勢いあまって食前に依頼してはいけません。
なぜ食事中か食後に依頼をするかというと、私たちが持つ性質の「感じたことと、その周りにあるものを無意識に結びつける」という性質を利用するためです。
この性質のことを「連合の原理」といいます。
つまり、楽しく美味しく食事をしているときや、満腹になっていい気持ちで満足しているときに言われたことには、同様にポジティブな印象を抱きやすくなるということです。
なおランチョン・テクニックは1930年にアメリカの著名な心理学者 グレゴリー・ラズランが研究で明らかにしたものです。
ラズランの実験の結果より、人は食事中に関りのあった人やモノをより好きになることが明らかになりました。
特に実験の参加者が、以前よりも好感を持った政治的意見に共通するのは、どれも食事の最中に提示されたものでした。
「連合の原理」はプラスのことだけでなくマイナスのことにも働きます。
ある研究では、政治的なスローガンを見せるときに、部屋の中に不快な臭いを流し込んだときと、そうでないときに、被験者が各スローガンに対してどのような印象を抱くかを調べたところ、不快な臭いがしたときはスローガンに対する好感度が下がりました。
つまり嫌な印象を抱いているときや、不快ものを見ているときに、何かを説明したり見せると、新しく見せられたものまで不快に思うということです。
このため、食前のお腹が空いてイライラしているときに依頼することは、嫌われる可能性が高いのでやってはいけないことです。
心理学の中でも有名な発見の一つに、ソビエトの生理学者イワン・パブロフが行った、パブロフの犬の実験があります。
パブロフの犬とは、犬にメトロノームの音を聞かせその後にエサを与え、つば(唾液)を調べます。これを繰り返すと、犬はメトロノームの音を聞いただけでつば(唾液)を出すようになるというものです。
イワン・パブロフの実験では唾液の量が注目されましたが、食事中に発生するのは唾液だけでなく、美味しいといった幸福感や満足感も出るというところがポイントです。
これを「連合の原理」とつなげあわせると、食事中に発生した幸福感や満足感を、無意識にそのときに与えられた情報と結びつけるということです。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。