人の脳は自動的に連想する機能を持っています。
とても便利な機能で、特に狩猟採集の時代は生きるために必須の能力でした。
危険な形をした物体を見かけたら一目散に逃げる。怪しい果物を見かけたら食べないようにする。このようにしてネガティブを連想させるモノを避けることができました。
この脳の機能は現在でも元気に働いています。私たちの本能に組み込まれているものなので当然です。
ですが、この自動連想機能は正確な判断をできなくするというデメリットがあります。特に、直感的に行動するよりも思考する人が成功する世の中ではそのデメリットは際立ちます。
ここでは、脳の自動連想機能がどのようなときに働くか、どういった危険を招くかについて解説しています。
Aさんは学校のテストの成績が悪く「このままでは志望校に行けない」と悩んでいました。どうしても志望校に行きたいAさんは一念発起してテスト勉強を頑張ることにしました。
とはいえ、いままで勉強ができないレッテルを貼られ続けていたので不安で仕方がありません。
飛行機に乗って太宰府天満宮までお参りに行きお守りを買ってきました。
テスト当日はそのお守りを握りしめ「なんとかいい点数をください!」と祈りました。
そして臨んだテストではなんとこれまでにないいい成績を取ることができました。
その後のテストでも、そのお守りにお願いをするようになりました。するとやはりいい点数をとることができます。
Aさんは「このお守りこそが私に良い点数を運んでくれる」と信じ込むようになりました。
それからというもの、Aさんはそのお守りを大切に持ち続けています。
これは「お守り」=「良い点数を運んでくれる」とポジティブに連想している結果です。
ですが、もちろんお守り自体に点数をよくする効果は一切ありません。どこかの工場や内職で量産されたただの縫い合わせた布です。
テストの点数が上がった理由は「テスト範囲を勉強して答えを覚えたから」以外のなにものでもありません。
誰かがAさんにテストで良い点をとる秘訣を聞くとこういうでしょう「太宰府天満宮に行って、お守りを買って、テスト前に真剣に祈るといい点が取れるよ」と。
ですが、それを真似した人が点数をとることはできません。なぜなら祈ったところでテストの答えはわからないからです。
Aさんは脳の連想機能により勘違いして、その勘違い(ウソ)を他の人にまで伝えてしまったことになります。
Bくんはプロ野球選手です。大事な試合の時には毎回、ド派手な赤いパンツを履くことにしています。
というのも、地区予選の決勝と甲子園の決勝でたまたまこのド派手な赤いパンツを履いていたときに特大のホームランを打つことができたからです。
それ以降「大事な試合でド派手な赤いパンツを履く」ことがBくんの縁担ぎになっています。
脳が「ド派手な赤いパンツ」をポジティブな結果と紐づけている結果です。
ですが、もちろん「ド派手な赤いパンツ」といい成績を残せることは全く関係ありません。
ホームランを打てた本当の理由は、Aさんのホームランに特化した練習や相手ピッチャーがたまたま甘い球を投げたなど様々な要因があります。
ですが、勘違いを起こした状態のままだと、もし「ド派手な赤いパンツ」を忘れてしまったときにメンタルが動揺してさんざんな結果になってしまいます。
人に教えるときも同じです。大事なことは「ド派手な赤いパンツ」を履くことだと思い込んでいるので、それを教えるかもしれません。
こうして教えられた人は育ちません。そこには原因と結果に正しい関連性がないからです。
このように、結果と全く関係が無いものを「関係がある」と間違って判断してしまうと、自己解決が難しい弊害をもたらします。
「受験のお守り」と「幸運のパンツ」はポジティブな連想の例ですが、脳の連想機能はネガティブなことに関しても働きます。
Cさんは会社の社長です。Cさんには一つ悩みがあります。ある部下がいつも嫌な報告を持ってくることです。
そういった報告が続くうちにCさんは次のように思い込むようになりました。
「あの部下が来ると嫌なことが起こる」
そして嫌なことを起こさないために、その部下を遠ざけることにしました。
結果として嫌な情報は入ってこなくなり、いい報告をする部下だけが周りに寄るようになりました。Cさんはハッピーです。
これは、脳のネガティブな連想による誤った判断です。嫌なことを報告する部下のせいで嫌なことが起こっていたわけではありません。
嫌なことが起こって、それを責任感のある部下がすぐに社長の耳に入れた方がいいと判断し報告していたのです。
その部下を遠ざけたことで、対応すべき本質的な情報が入ってこなくなり、Cさんの会社の業績は悪化し、最終的には倒産してしまいました。
投資の神様と呼ばれ世界屈指の資産を持っているウォーレン・バフェットは「人には悪い知らせや、悪い知らせを報告する人を遠ざけ、いい報告やいい報告をする人を近づけようとする性質がある」ことをわかっていました。
そこで自社のCEOには次のように伝えていました。
いい知らせは要らない。悪い知らせだけを単刀直入に報告してくれ。
いい知らせを聞いたところでできる行動は「喜ぶ」だけです。ですが悪い情報を聞けば「すぐさま対処する」ことができます。
何度となく正しい決断を積み重ねてきたウォーレン・バフェットは悪い知らせの大切さを知っている人です。
ビジネスの世界ではCMが重要な武器になっています。ほぼ全ての大手企業が大金を払ってテレビやYoutube、Google ChromeなどでCMを流しています。
このCMで何をしようとしているかというと、人が持つ脳の自動連想機能を活用して「自社の製品とポジティブなイメージを結び付ける」ことです。
広告で起用される俳優や女優を見ればわかりますが、みな好感度が高い人たちばかりです。
起用した人が不祥事を起こすと、そのCMや出演している番組は急遽お蔵入りとなります。それは自社の製品からネガティブなイメージを連想させないようにするためです。
私たちの脳に元々備わっている性質はビジネス業界のマーケターたちによって上手に活用されているわけです。
私たちの脳に自動連想機能が備わっていることは本能なので仕方ありません。現代社会で賢く生きていくためには、上手にそれと付き合っていく必要があります。
「お守りを持っていたらテストで良い点が取れた」だから「お守りがあればテストで良い点が取れる」
「勝負パンツを履いていたらパフォーマンスがよかった」だから「勝負パンツを履いていればいいパフォーマンスができる」
このように短絡的に直感で思考している人たちは長期的な成功が難しくなります。勘違いの度が過ぎると、どこかで越えられない大きな壁にぶつかることになります。
一つの結果に対して、本質的な要因はなんだろうか?と多角的にじっくり考えることが重要です。
このことをアメリカの代表的な小説家マーク・トウェインの言葉が的確に表しています。
1つの体験から多くの教訓を得ようとするときは注意が必要だ。余計な想像をしてはいけない。
熱い電子レンジの上に座った猫のようになってはいけない。猫は二度と熱い電子レンジの上には座らないだろう。それは正しい。
だが、冷たい電子レンジの上にも二度と座らないだろう。
この記事のスイスの有名起業家 ロルフ・ドベリが記した「Think right ~誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法~」の一部抜粋と要約です。
人が陥りがちな思考の罠がとてもわかりやすくまとまっています。この記事の内容以外にも全部で52個の人の性質がわかりやすい具体例で解説されています。
この記事の内容でハッとした部分が一つでもあった方は是非手に取ってご覧になられることをお勧めします。
あなたの人生をより賢く豊かにしてくれることは間違いありません。