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【報酬のワナ】その報酬は適切か?人はズルをする生き物|お金やモノ以外の死や来世も報酬になる

子育て中の親や会社の多くは、子供や社員にやる気を出してもらうためにお金やモノなどの報酬をちらつかせています。

報酬はやる気を出すきっかけになりますが、そのやる気が望んだ方向に行くとは限りません。

人は報酬を得るために頭を使います。そしていかに楽にできるかという抜け道を探す生き物です

いかにバレずに仕事で手を抜くか、いかに法律の抜け穴を見つけて稼ぐかを考えている人は少なくありません。

ここでは報酬の設定が適切でない場合に人がどういう行動をとるかや、適切な報酬を設定するにはどうすればいいかについて解説しています。


適切でない報酬と人の行動

人に何かをしてもらいたいと思ったら報酬を設定するのは普通のことです。仕事では給料を渡しますし、指名手配犯を捕まえたら報奨金を渡します。

ですがときに報酬は設定した意図とは違う方法で達成されます。

残業代

定時の8時間を超えた後は残業代が出ます。これは、従業員にもっとたくさん仕事をしてもらうために設定されたものです。

ですが、世の中の多くの社員は残業代を貰うために、わざと仕事を遅らせたり、仕事が終わらないふりをしたり、本来やらなくていい仕事にまで取り組んだりします

残業代ではなく、超過した時間が休日に転換できる場合も同じです。従業員は自分の好きなときに休みたくさんとるために、普段の仕事で極力長い時間働いて休日を稼ごうとします。

時給の高い休日出勤も同じです。お金が欲しい人は休日出勤ができるように計算して平日の仕事をこなします。

そして「休日も出勤しないと間に合いません」というもっともな理由をつけて、休日に出勤します。


ネズミの駆除

過去にベトナムのハノイでネズミによる農作物の被害が深刻化していました。

そこで政府は「ネズミの死骸を届けた者には報酬を与える」という法律を作りました。

その結果、報酬が欲しい住民はネズミを繁殖させ、結果としてネズミの数が増えました

これは決して住民が悪いわけではありません。住民は法律に適用できるように柔軟に動いただけです。

問題なのは政府が制定した法律の中身や意図の伝え方です。


恐竜の化石

1800年代の中国で恐竜の化石発掘に力を入れていたエリアでは、恐竜の骨を掘りだしたらボーナスを支給するというお触れを出しました。

その結果、農民たちはせっかく完全体に近い恐竜の化石を発掘したにもかかわらず、多くの報酬をもらうために発見した恐竜の化石を細かく分解して届け出ました


契約ごとのインセンティブ

営業マンが1件契約するごとにインセンティブ(報酬)を貰えるとします。

すると営業マンはインセンティブ欲しさに、支払いが危うい人や、優良な顧客とは言えない人にまで製品を売ろうとします。

本来企業が欲しいのは優良な顧客ですが、報酬のせいで間違った方向にいってしまいます


いかに楽により多くの報酬を得られるか

これはこういった人たちが悪かったりずる賢いわけではありません。

私たちの本能で、背景や意図ではなく「いかに楽により多くの報酬を得られるか」に知恵を絞るようにできているということです。

それは太古の昔、食料が乏しかった時代に生き残るための術です。この能力に長けていたからこそ私たちは今も発展を続け豊かな暮らしができています。

そして同時に多くの人が「食べても痩せる」「1日5分簡単ダイエット」といった簡単で手軽な報酬によってたかって飛びつきます。

point

背景や意図を無視して、いかに楽にたくさんの報酬を得られるかを考え行動するのは人の本能。


賢い人達ですら楽をしようとする

楽をして報酬を得ようとするのは、頭の良さや悪さによりません。地位の高さや低さにもよりません。

会社の監査役といったとても賢く地位のある人たちですら楽をして報酬を得ようとします。

会社のトップが「何かを達成したらボーナスを与える」と伝えれば、監査役たちはボーナスをもらうためにできる限り低い条件を設定しようとします

point

人は報酬をもらうためにできる限り低い基準を設定しようとする。


報酬を相手に決めさせてはいけない

「人は報酬をもらうためにできる限り低い基準を設定しようとする」という性質があるため、相手に報酬を決めさせてはいけません

新しい靴を買うべきかどうかを靴屋さんに尋ねれば「買うべきだ」と言います。

髪を切るべきかどうかを床屋さんに尋ねれば「切るべきだ」と言います。

経営コンサルタントを雇うべきかどうかを経営コンサルタントに尋ねれば「雇うべきだ」と言います。

従業員にこの仕事を受けるべきか?と聞けば、もしそれをやることでボーナスがもらえるのであれば「受けるべきだ」と言います。受けたところで大した報酬がないのであれば「受けない方がいい」と言います。

相手は必ず自分が報酬を貰える方法を伝えてきます。決してあなたや組織にとって最善な方法を伝えてくるわけではありません

報酬だけでなく達成条件も同じです。達成するための条件を相手に決めさせてはいけません。

報酬や達成条件を決められるというのは強力な武器です。


行動の裏に隠された動機

人は報酬が与えられるとなるとそこにある意図は無視して飛びつくものです。その報酬の力はあまりにも強力です。

もし誰かが急にやる気をだしたり、立派な行いをするようになったのであれば、その裏には必ず報酬があります

ほとんどの場合その人が急に立派な人になったり、考え方が変わったりしたわけではありません。もっと単純な欲求に直結するような報酬がある場合がほとんどです。

同様に「酷い行動だ」と思ったとしても、相手は悪意をもって行動しているわけではない場合ほとんどです

残業代を稼ごうとしている人は悪意があってやっているわけではありません。ちゃんと仕事もします。その上で報酬が与えられる条件の中でお金をもっと稼ごうとしているだけです。


適切な報酬の設定方法

適切な報酬を設定する方法は次の3つを満たすことです。

  1. 限定する。
  2. 責任を負わせる。
  3. 事前に報酬額を決める。

限定する

人は設定された条件の中で最も楽な方法でその報酬を得ようとします。

条件が曖昧であればあるほど、報酬を出す側の意図とは違う手段で達成しようとします

もし法律が抜け穴だらけなら、みんながその抜け穴を抜けようとします。本当にいい法律はどれだけくまなく探しても抜け穴が見つからないものです。


責任を負わせる

2つ目の条件は「責任を負わせる」ことです。

古代ローマで橋を設計するときに賢い方法がとられています。それは、橋が開通するときに設計者を橋の下に立たせるというものです。

設計者は橋を作ったことで報酬を貰えますが、その内容が粗雑であれば自分自身の命を失うことになります

報酬の設定が不適切だったネズミの駆除の例でも「意図的にネズミを繁殖させた者は死刑に処す」という但し書きがあれば、そこまでのリスクを冒す人は出なかったでしょう。

残業代についても「意図的に仕事を引き延ばしたことが発覚した場合は、これまでの残業代を遡って給料から天引きする」という但し書きがあれば、危ない橋を渡ろうとする従業員は減ります。

あるいは「残業が多く業務を適切に終わらせられない人はベースとなる給与が下がる」といった条件でもいかもしれません。


事前に報酬額を決める

3つ目は「達成して欲しいこと」と「達成した場合にいくら渡すか」を事前に決めておくことです。

もし、経営コンサルタントや弁護士に1日あたりいくら払うという契約を結んでいる場合、相手にとっては早く結果を出すよりも、1日を引き延ばしていく方がメリットが高くなります

早く結果を出して報酬がほとんどもらえないという愚かな選択をする人はいません

だからこそ、相手がより高い質でより早く終わらせた場合にメリットが大きくなるように報酬を設定する必要があります

事前に達成内容と報酬額を決定しておけば、ズルズルと長引かせることは相手にとってマイナスでしかないので、少しでも早く達成しようと努力するようになります。


報酬はお金やモノとは限らない

報酬を設定するうえでとても重要なことがあります。それは「報酬はお金やモノとは限らない」ということです。

来世での幸福

お金やモノ以外の報酬で最もわかりやすいのは来世での幸福です。

キリスト教やイスラム教、日本の天国と地獄もそうですが「いいことをすれば天国に行ける」というのが強烈な報酬になっている場合もあります。

来世を信じ込んでいる人にとっては、お金やモノ以上に来世で天国に行くことの方が強力な報酬になります


殉職

第二次世界大戦でカミカゼという言葉がありました。ゼロ戦に乗った兵士が敵に突っ込んでいく無謀な戦い方です。

なぜ兵士が勇んでこのような無謀なことをしたかというと、敵を倒して成果を出せば英雄としてみんなからもてはやされます。敵に突っ込んで戦士したとしても殉職としてみんなから称えられます。

つまり、戦って生き残っても死んでもどちらでも報酬がもらえる仕組みになっていたわけです。


報酬は人によって変わる

来世を信じている人を「お金」や「モノ」で釣ろうとしても、その人たちはこちらが用意した報酬に飛びつきません。

来世を信じていない人に「来世での幸福」を報酬として与えようとしても、その人たちは飛びつきません。

同様に「お金」よりも「実現したこと」などのビジョンに重きを置いている人に、高い報酬を用意してもやる気を引き出すことはできません。

「実現したいこと」よりも「お金」に重きを置いている人に、ビジョンを語ってもやる気はでません。それよりも高い報酬の方が効果があります。

つまり「何が報酬になるかは相手によって変わる」ということです。

適切な報酬を設定するには、相手の考え方や価値観を良く知ることが重要です。

相手に合わせた正しい報酬の設定方法を教えてくれる言葉があります。それは魚釣りの用品店でピカピカのルアーを見たお客が「こんなピカピカなものを魚が好むのかい?」と尋ねたときの店長の答えです。

ここでは魚に売っているわけではないんだ。ルアーが売れるようにするには、見かけをよくして買う人を刺激するのが一番だよ。

報酬で人を動かすには見かけの良さや建前が重要です。

逆に自分が報酬で動かされるときは、見栄えの良さに騙されて本質や真実を見失わないようにしましょう。

参考

この記事の内容はスイスの有名起業家 ロルフ・ドベリが記した「Think right ~誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法~」の一部抜粋と要約です。

人が陥りがちな思考の罠がとてもわかりやすくまとまっています。この記事の内容以外にも全部で52個の人の性質がわかりやすい具体例で解説されています。

この記事の内容でハッとした部分が一つでもあった方は是非手に取ってご覧になられることをお勧めします。

あなたの人生をより賢く豊かにしてくれることは間違いありません。


yuta