会社で面談を行う際に部下に「将来何がしたい?」と訊ねる上司がいます。そういった上司に限って「将来やりたいことがないのはダメだ」「やる気がない証拠だ」と考えていたりします。
ですが、決して「将来やりたいことがない」=「悪」ではありません。
むしろ、将来明確にやりたことが決まっているというのは会社にとってリスクでもあります。そして、将来明確にやりたいことが決まっていない人の方がその会社に留まり貢献してくれる可能性が高くなります。
ここでは「将来何がしたい?」を当たり前のように聞いてはいけない理由について解説しています。
まず第一に将来への自己実現には2種類の方法があることを知っておく必要があります。
一つ目は「トップダウン型」もう一つは「ボトムアップ型」です。
トップダウン型の人とは「将来何がしたい?」と訊ねたときに明確な答えが返ってくる人たちです。
そういった人たちは自分が将来何をしたいという明確な目標があり、そこから逆算して「これがしたい」ということを考える人たちです。
野口英世は1歳というまだまだ小さい頃に左手に大やけどを負い手が不自由になりました。手はずっと不自由なままでしたが、野口英世が16歳の時にアメリカ帰りの医師・渡部鼎が行った手術で指が動くようになりました。
自分の指が動くことに感動した野口英世は自分自身を医師を目指すことを心に決めました。
そして、努力に努力を重ね、夢だった医師になり、更にペンシルベニア大学の医学部で助手をした後、ロックフェラー医学研究所で働き、細菌学者として世界中に名前が知られるほどの活躍をしました。
野口英世はまさにトップダウン型の将来設計をしていたといえます。
ボトムアップ型の人とは「将来何がしたい?」と訊ねたときに明確な答えが返ってこない人たちです。
現在やっていることを積み上げた先にキャリアが広がっていると考える人たちです。
スティーブ・ジョブスは大学で「カリグラフィ」という文字をいかに美しく見せるかという授業にハマりました。
本人はそのとき「カリグラフィが将来どのような役に立つかは全くわからなかった。ただ興味があった」と述べています。
そして彼が言う、将来点と点がつながること(connecting dots)によりAppleという会社やMac BookやiPhoneといった素晴らしい製品が世の中に誕生しました。
初めから、PCやスマホを作ると決めていたわけではありません。
スティーブ・ジョブスはボトムアップ型のキャリアを積み重ねていたともいえます。
トップダウン型の人とボトムアップ型の人に優劣はありません。どちらも、自分の中で目標を持って「今」に精一杯の力を注ぐことができます。
「将来何がしたい?」と言われて「やりたいことは特にないです」ということは決して悪いことではありません。
悪いことは、今目の前にある仕事に対して目的を見いだせず熱中できないことです。
「将来何がしたい?」と聞いて明確に「〇〇がしたいです」と答えられる人は、将来から今を逆算しています。
もし、そのやりたいことが今いる会社で達成できるのであれば、企業にとってもその人にとってもWin-Winの関係です。
ですが企業がその人に望むことと、その人がやりたいことにズレが生じると、転職など会社を辞める理由になります。
つまり、「将来やりたいことが明確」=「会社にとっていいこと」とは限りません。むしろ、優秀な社員が突然抜けてしまう大きな痛手になる可能性があります。
だからといって「将来何がしたい?」という質問を聞いてはいけないわけではありません。むしろ、聞くべきです。
ただ、将来やりたいことがないからといってダメ出ししたり、説教をしてはいけないというだけの話です。
トップダウン型の人に「将来何がしたい?」と聞いて、その答えが今の業務内容と違っているのが分かれば、今後のキャリアプランを考えたり、今やっている仕事と将来ビジョンを結び付けるためのサポートができます。
逆に、何一つ聞かなければ、急にいなくなってしまうという事態が発生します。(急にいなくなったわけではなく、本人の中ではずっと前から決まっていた)
もし「やりたいことはない」と答える人がいたら、「現在の仕事に打ち込めているか?」という質問につなげ、その人が今目の前の仕事に熱中できるようにサポートすることができます。
逆に、何一つ聞かなければ、やる気がおこらず、ただダラダラと一日一日を浪費するだけです。
そもそも「将来何がしたい?」というのはあまりにも漠然としていて、答えづらく、質問の質としてはかなり悪いです。
将来ビジョンを訊ねるときは次の3つの観点で訊ねると答える側も答えやすくなります。
やはり企業に勤めて給料をもらっている以上会社で成長していってもらわなくては困ります。このため、まずは会社の中に限定して、将来やりたいことを訊ねます。
会社内での将来像を見つけるために最も簡単な方法は「社内で目標とする人を設定する」ことです。
自分のスキルや経験により目標とする人は変わっていくので、四半期毎など都度確認することが大切です。
目指すべき人が見つからない場合は、業務の中で得られる能力でも問題ありません。
欲しい能力が見つかれば、実際にそれを得るためにどういう工夫をしたり目標設定が必要かを考えることができます。
目指すべき人や欲しい能力が見つからなかった場合は、それこそ一緒になって、その人が追い求められるものを探す必要があります。
「将来」だけを見据える必要はありません。「ほんの少し先」や「今」必要としているものでも立派な目標になります。
2つ目の将来像は「働く人としての将来像」です。会社内での将来像よりももう少し漠然とした広い意味になります。
自分の人生の時間を使って、日本という社会で働いていく一員として、どういった人物になりたいか?あるいはどういったスキルを身に付けておきたいかということを議論します。
「その他」という名称にしていますが、実はここがものすごく重要です。
人間として、家庭の一員として、地域のために、その人が何を達成したいかです。
会社で長く働き続けるためには、プライベートと仕事の両輪が上手に回っている必要があります。
会社で働き続けた結果、家族との時間が持てず離婚してしまった。というのでは社員は幸せになりません。
プライベートにモヤモヤがあると仕事のパフォーマンスも下がるものです。
会社の中での役割や仕事人生での目標以外の将来像も明確にすることが、会社で働く意義やモチベーションにつながります。
この記事の内容は「シリコンバレー式最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング」の内容の一部抜粋と要約です。
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